短期解約違約金は付けるべきか|築古アパートのオーナーが金額より先に決める3点

結論からお伝えすると、短期解約違約金は「書いてあれば必ず取れるお金」ではありません。金額が大きすぎる部分は法律で無効になり得ますし、請求するときには算定の根拠を説明する努力義務まで課されています。付けるなら、金額より先に「何を埋め合わせるお金なのか」を決めてください。

入居から7か月で退去の連絡が入ったときの話です。契約書には「1年未満の解約は賃料2か月分」と入っていました。仲介会社に電話をすると、返ってきたのは「請求はできますが、根拠を聞かれたら答えられますか」。オーナーは答えられませんでした。その条項は、前の管理会社のひな型をそのまま引き継いだもので、2か月という数字の出どころを誰も知らなかったのです。

違約金は「平均的な損害の額」までしか有効になりません

賃貸借契約は、借りる側が個人であれば消費者契約にあたります。消費者契約法第9条第1項第1号は、次のように定めています。

当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの(中略)当該超える部分(を無効とする)

読みどころは2つあります。ひとつは「超える部分」だけが無効だということ。条項が丸ごと消えるのではなく、平均的な損害の額までは残ります。もうひとつは「解除の事由、時期等の区分に応じ」という一文です。入居3か月で出るのと11か月で出るのとでは、オーナーに生じる損害が違います。 期間で区分を切らずに「1年未満は一律2か月」と置くと、この一文と噛み合いません。

さらに同条第2項では、違約金を請求する場面で消費者から説明を求められたとき、算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないとされています。冒頭の電話で仲介会社が聞いたのは、まさにこの話でした。(条文は e-Gov 法令検索の消費者契約法・平成12年法律第61号より)

「平均的な損害の額」はいくらなのか

国土交通省住宅局が公表している「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(賃貸借トラブルに係る相談対応研究会・令和4年3月)に、この点の整理があります。同事例集は、残期間の家賃等を違約金とする場合に金額が不当に高ければ消費者契約法9条1号が適用され得るとしたうえで、こう書いています。

「平均的な損害額」の算出に当たっては、貸主が次の借主を見つけるまでに必要な期間が考慮されることが多いですが、標準化された算出方法があるわけではなく、個別具体的な検討が必要となります。

つまり「2か月分なら安全」という業界共通のラインは、国の資料の側にも存在しません。 手がかりとして示されているのは「次の借主を見つけるまでに必要な期間」です。ここは自分の物件で数字が出せます。前回の退去から次の入居までに何日かかったか。空室日数の数え方は退去のあと次の募集まで何日かかっているかにまとめています。

短期解約違約金で確かめる4点をまとめた図。条項の有無を契約書で確かめる、金額の根拠を1行で書けるか、退去の時期で区分を切る、予告違反の精算と混ぜないの4項目を並べた図

国の標準契約書には、短期解約違約金の条項がありません

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)を開くと、借主からの解約は第11条にこう置かれているだけです。

  • 第1項:借主は貸主に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことで契約を解約できる
  • 第2項:申入れの日から30日分の賃料を支払えば、随時に解約できる

短期解約違約金にあたる条項は入っていません。 国が示すひな型に無いということは、これは標準装備ではなく、オーナー側が特約として足すものだという意味になります。足す以上は、なぜ必要かを説明できる状態にしておく必要があります。

付けるなら、この3点を先に決める

1. 何を埋め合わせるお金なのかを1行で書けるようにする

「短期で出られると、次を決めるまでの空室期間と、募集にかけた費用が回収できない」——ここまで言えれば、金額の根拠を組み立てられます。広告料を出しているなら、その実額が根拠の一部になります。ADの考え方は広告料(AD)を出す前に確かめる3点にあります。

2. 期間で区分を切る

「1年未満は一律◯か月」ではなく、6か月未満と6か月以上で分けるなど、退去の時期で段を作ります。条文が「解除の事由、時期等の区分に応じ」と書いている以上、区分がある条項のほうが説明しやすくなります。

3. 予告期間との関係をはっきりさせる

解約予告(30日前など)と違約金は別ものです。前掲の国交省事例集では、定めた期間に解約予告をしなかった場合は借主の債務不履行にあたり、契約上の違約金を支払う必要があるとされています(民法420条3項)。予告違反の精算と、短期退去の違約金を1つの条項に混ぜないでください。読む側が区別できなくなります。

解約予告の不履行と短期解約の違約金を左右で比べた図。前者は予告義務の債務不履行で民法420条3項、後者は空室期間などの埋め合わせで消費者契約法9条1項1号が根拠になることを示した図

フリーレントを付けた部屋には、違約金を入れておくべきですか?

「1か月無料にしたのに3か月で出られた」は、実際に起きます。ただし対応の仕方は2つあります。ひとつは短期解約違約金、もうひとつはフリーレント分の返還条項(一定期間内の解約時に無料にした賃料相当額を返してもらう形)です。後者のほうが「何を埋め合わせるのか」が誰の目にも明らかで、金額の根拠も1か月分の賃料そのものです。どちらの形にするかは、契約書を作る前に仲介会社と決めてください。

逆に、違約金を入れないとどうなりますか

前掲の国交省事例集は、借主が中途解約権を留保していない場合には基本的に残期間の家賃等を支払う必要があるとしつつ、契約に中途解約の定めがない場合に中途解約権を留保したと考えられるかどうかは、基準を明確にした判例がないため個別の事情によるとしています。「書かなければ有利」でも「書けば有利」でもありません。 どちらにしても最後は個別判断になるので、決めるべきは条項の有無ではなく、中身の説明がつくかどうかです。

なお、違約金条項の有効性や具体的な金額の妥当性は、一般的には契約内容と個別の事情によって判断が分かれる領域です。実際に条項を作る・請求するときは、宅地建物取引業者や弁護士に契約書を見てもらってください。この記事は判断の材料であって、結論ではありません。

今日やることを1つだけ選ぶなら

いま使っている契約書を開いて、短期解約違約金の条項があるかどうかを確かめてください。 あったなら、その金額の出どころを自分の言葉で1行書いてみる。書けなければ、次の契約更新までに直す欄がひとつ見つかったということです。

出典:e-Gov法令検索「消費者契約法」(平成12年法律第61号)/国土交通省住宅局・賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」令和4年3月/国土交通省「賃貸住宅標準契約書」平成30年3月版

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