広告料(AD)を出す前に確かめる3点|築古アパートのオーナーが決める順番

募集を出して7週間、内見は2件。3週間つづけて動きがない金曜の夕方に、仲介会社から電話が入ります。「オーナーさん、ADを1か月付けませんか。今の条件だと、うちの若い者が先にお客さんに出しにくいんです」。

結論からお伝えすると、広告料(AD)は「出すか、出さないか」で決める費用ではありません。「何に対して、いつまで出すか」を決めてから出す費用です。ここを決めずに出すと、決まらないまま毎月の家賃と広告料の両方が出ていく状態になります。この記事では、出す前に確かめる3点と、法律上どこまでが正規の広告料なのかを整理します。

広告料(AD)とは何か

賃貸の広告料(AD)は、オーナーが仲介会社に払う、入居者を見つけてもらうための販促費です。相場は家賃の1〜2か月分が標準とされ、高級物件や商業用物件など専門的な広告が要る場合は3か月分になることもあります(出典:アットホーム「不動産業界でいうADとは?利点と相場や効果的な使用場面を徹底解説」2024年9月5日更新)。閑散期は高め、繁忙期は低めに動きます。

混同されやすいのが仲介手数料です。この2つは別物で、しかも根拠になっている決まりが違います。

仲介手数料には上限がある

宅地建物取引業法第46条は「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる」と定め、第2項で「前項の額をこえて報酬を受けてはならない」としています。

その大臣告示により、貸借の媒介で依頼者の双方から受け取れる報酬の合計は、借賃の1か月分の1.1倍に相当する金額までです。居住用の建物では、媒介の依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れるのは0.55倍までとされています。

広告料は「上限額」ではなく「枠」で決まっている

広告料には、仲介手数料のような金額の上限がありません。ここから「ADは自由に決めていい」という理解が広がっていますが、正確には金額の上限がないだけで、受け取ってよい広告料の範囲そのものは決まっています。

国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、報酬告示の第十一(告示によらない報酬の受領の禁止)について、次のように書いています。

  • 宅地建物取引業者は、告示の規定によるほかは「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」を除き報酬を受けることはできない
  • したがって、いわゆる案内料、申込料や、依頼者の依頼によらずに行う広告の料金に相当する額の報酬を受領することはできない
  • ただし、遠隔地の現地調査や空家の特別な調査等、依頼者の特別の依頼により支出を要する特別の費用については、その負担について事前に依頼者の承諾があるものを別途受領することは禁じられていない

読み替えると、正規の広告料とは「オーナーが頼んだ広告の、料金に相当する額」です。頼んでいない広告の費用や、案内・申込の手間賃は含まれません。だからオーナー側は「何の広告を頼むのか」を言葉にできる状態で出したほうが、あとで揉めません。

広告料を出す前に確かめる3点。止まっているのは内見か申込か、何の広告を頼むのかを書く、期限と戻し方を決める。

出す前に確かめる3点

1. いま止まっているのは「内見」か「申込」か

広告料は、仲介会社の店頭で自分の部屋を先に出してもらうための費用です。効くのは案内までの段階であって、部屋に入ってからの印象は変えません。

だから最初に切り分けます。掲載しているポータルの反響がゼロに近いなら、止まっているのは入口です。内見は入っているのに申込にならないなら、止まっているのは部屋の中身か条件です。後者に広告料を足しても、案内の数が増えて「見て、断られる」回数が増えるだけになります。

直近3か月で、問い合わせ件数と内見件数を分けて数えてください。数え方は退去のあと次の募集まで何日かかっているかで書いたとおり、日数と件数を同じ表に並べると判断が速くなります。

2. その広告料は、何に対して出すのか

「1か月分付けます」とだけ決めて終わらせないことです。上に書いたとおり、正規の広告料は依頼した広告の料金に相当する額なので、何を頼むのかが決まっていないと、そもそも枠に収まっているのかが誰にも分かりません。

依頼するときは、次のような形で残します。難しい書式は要りません。メールで十分です。

  • 掲載を強化してほしい媒体(自社サイトの上位表示、ポータルの掲載枠、店頭の掲示など)
  • 写真や間取り図を差し替える場合、その費用がこの中に入るのかどうか
  • 期間(いつからいつまで)
  • 支払うのは契約が決まったときか、掲載した時点か

写真そのものの作り直しを頼むなら、募集写真は何枚・どの順番で載せるかの順番を先に決めてから渡すと、同じ費用でも仕上がりが変わります。

3. いつまで出して、どう戻すか

広告料でいちばん多い失い方は、金額の大きさではなく戻し忘れです。閑散期に付けたまま繁忙期に入ると、放っておいても動く時期にも払い続けることになります。

依頼の文面に期限を入れてください。「3か月後に一度見直します」の一文があるだけで、戻すときに気まずくなりません。同じ物件を長く任せるなら、条件の変更履歴を残しておくと、担当者が代わったときにも引き継がれます(管理会社を変更するときの引き継ぎ書類)。

仲介手数料と広告料の違い。仲介手数料は宅建業法46条と大臣告示で上限が決まり、広告料は金額の上限はないがオーナーが頼んだ広告の料金に相当する額に限られる。

「空き家なら2か月分払える」は、アパートの空室には使えないのか

2024年(令和6年)7月1日から、長期の空家等については媒介報酬の特例が設けられました。長期の空家等の貸借の媒介では、告示の通常の規定にかかわらず、依頼者の双方から受ける報酬の合計額が借賃の1か月分の2.2倍に相当する金額を超えない範囲内で報酬を受けられます。ただし借主から受ける額が通常の上限内であることが条件で、通常の上限を超えて受けられるのは貸主である依頼者からに限られます。使う場合は、媒介契約の締結に際してあらかじめ報酬額を説明し、合意する必要があります。

ここで多くの記事が触れていない一文があります。同じ「解釈・運用の考え方」は、長期の空家等の定義に続けてこう書いています。

「なお、入居者の募集を行っている賃貸集合住宅の空き室については、事業の用に供されているものと解されることから、長期の空家等には該当しない。」

つまり募集中のアパートの空室は、何か月空いていても「長期の空家等」ではありません。この特例は使えません。該当しうるのは、少なくとも1年を超えるような期間にわたり居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室、相続等により利用されなくなった直後で今後も所有者等による利用が見込まれないものなどです。

相続した実家をこれから貸すという段階なら関係してきますが、アパートの空室対策として当てにする話ではありません。アパートの空室で使えるのは、あくまで広告料のほうです。

広告料を出す前に、順番として先にあるもの

広告料は、条件を緩める手段のひとつです。家賃を下げるより先に試すことが他にもあります。順番は家賃を下げる前に試す4つの手にまとめました。募集図面の書き漏れは費用ゼロで直せますし(募集図面(マイソク)でオーナーが必ず直させる7つの欄)、鍵が現地で回せるかどうかは案内の数そのものを変えます。

広告料は、これらを整えたうえで「見せ方は直した。あとは店頭で先に出してもらうだけ」という状態になってから効きます。順番を逆にすると、直っていない部屋を余計に見られることになります。

なお、広告料をどの科目で処理するかは、金額と支払いのタイミングによって扱いが変わることがあります。一般的には募集にかかる費用として整理されますが、個別の判断は税理士や、取引のある宅地建物取引業者に確認してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

直近3か月の「問い合わせ件数」と「内見件数」を、紙に2列で書き出してください。入口が止まっているのか、部屋で止まっているのかが分かれば、広告料を出すべきかどうかはその場で決まります。数字が手元になければ、それを出してもらうところが最初の連絡になります。

Follow me!