礼金・敷金・フリーレントはどの順番で緩めるか|築古アパートのオーナーが家賃を最後に回す理由
結論からお伝えすると、条件を緩める順番は「一度きりで終わるものから、ずっと続くものへ」です。礼金をゼロにする、フリーレントを付ける、敷金を下げる、家賃を下げる——この4つは効き方がまったく違います。家賃は最後です。
先週、募集を出して6週間が過ぎたアパートの相談で、こんな話がありました。仲介会社からの提案書は1行だけ。「家賃を3,000円下げましょう」。管理表を開くと、その部屋は礼金1か月・敷金1か月・更新料ありのまま、条件は3年前の募集から一度も動いていませんでした。動かせる欄が4つ残っているのに、いちばん戻せない欄から先に動かそうとしていたわけです。
「いまは礼金ゼロが当たり前」は、数字と合っていません
国土交通省が2026年7月17日に公表した令和7年度 住宅市場動向調査(国土交通省住宅局)に、民間賃貸住宅に入居した世帯が実際に何を払ったかが載っています。
- 礼金があった世帯は43.1%(令和6年度42.6%)。月数は「1か月ちょうど」が73.4%
- 敷金/保証金があった世帯は51.9%(令和6年度57.7%)。月数は「1か月ちょうど」が64.4%
- 仲介手数料があった世帯は48.0%、更新手数料があった世帯は44.4%
- 家賃の平均は83,381円、中央値は74,000円
ここが意外なところです。礼金は減っていません。前年より0.5ポイント増えています。 この5年ではっきり減ったのは敷金のほうで、令和6年度の57.7%から51.9%へ5.8ポイント落ちました。「礼金ゼロが当たり前になった」という言い方をよく聞きますが、実際に市場が先に手放していたのは礼金ではなく敷金です。
つまり、礼金ゼロにはまだ差別化の余地が残っているということです。半分以上の部屋が礼金を取っていない中で自分もゼロにするのと、6割近くが礼金を取っている中でゼロにするのとでは、同じ「礼金ゼロ」でも意味が違います。
(出典:国土交通省住宅局「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」令和8年7月/2026年7月17日公表。民間賃貸住宅の調査対象は三大都市圏、配布600・回収590件、調査期間は令和7年9月1日〜12月9日)

入居希望者がいちばん詰まるのは、家賃ではなく契約時のお金です
同じ調査の「賃貸住宅に関して困った経験」で、契約時の最多は「敷金・礼金などの金銭負担」で48.0%。2番目が「連帯保証人の確保」の26.4%です。入居時(近隣の迷惑行為35.8%)や退去時(修繕費用の不明朗な請求16.9%)より、契約時の金銭負担のほうが多く挙がっています。
一方で、家賃そのものに「非常に負担感がある」「少し負担感がある」と答えた合計は53.9%。家賃も重いのですが、申込の直前で手が止まる理由は「最初に用意する現金」のほうだと読めます。家賃83,381円の部屋で礼金1か月・敷金1か月・仲介手数料1か月なら、初期費用は家賃の4か月分を超えます。
緩める順番は「一度きりか、ずっと続くか」で決める
1番目:礼金をゼロにする
オーナーの負担はその入居者1回きり。家賃8万円の部屋なら8万円です。次の入居者にも、いまいる入居者にも引き継がれません。募集条件の見え方は大きく変わるのに、失うものが1回分で止まる——これが1番目に来る理由です。
2番目:フリーレントを付ける
こちらも1回きりで8万円。金額は礼金ゼロと同じでも、入居希望者から見た「いま用意する現金」を最も大きく減らせます。礼金ゼロは「払わずに済む」、フリーレントは「1か月ぶん後ろにずれる」なので、初期費用が理由で止まっている人には後者のほうが刺さります。
ただし注意点があります。入居して数か月で退去されると、無料にした1か月分がそのまま持ち出しになります。フリーレントを付けるなら、短期で解約されたときの扱いを契約でどう決めておくかを必ずセットで考えてください。(この点は別の記事で条文まで整理します)
3番目:敷金を下げる・ゼロにする
ここから性質が変わります。敷金は預り金なので「値引き」ではありませんが、退去時の原状回復費と滞納家賃を回収する原資が消えます。1回きりではなく、その入居者がいる間ずっと効き続けるリスクです。
下げるなら、保証会社の加入を条件にする、原状回復の負担区分表を契約書に付ける、といった別の回収手段を先に用意してからにしてください。負担区分と精算書の書き方は敷金の精算書で揉めるのは金額より書き方で、保証会社の使い方は家賃保証会社は築古物件でも使えるのかで整理しています。
4番目:家賃を下げる
毎月・全期間・次の募集にまで引き継がれます。 3,000円下げると年36,000円、4年住めば144,000円。しかもポータルに載った家賃は次の募集の基準になり、隣の部屋の値付けにも効きます。だから最後です。下げる前に確かめることは家賃を下げる前に試す4つの手にまとめています。

順番を守っても決まらないときは、条件以外を疑う
4つとも動かしたのに反応が変わらないなら、原因は条件表ではありません。募集図面の設備欄が空欄のままだった、写真が5枚しかなかった、鍵が現地で開かず案内が後回しにされていた——このあたりが実際にはよくあります。募集図面(マイソク)でオーナーが必ず直させる7つの欄と募集写真は何枚・どの順番で載せるかを先に見直してください。繁忙期を過ぎてからの立て直し方は繁忙期を逃した築古アパートの募集を立て直す順番にあります。
礼金をゼロにすると、家賃も下げたことになりませんか?
なりません。礼金は1回限りの受け取りで、毎月の賃料には含まれません。ただし広告料(AD)を出している場合は話が変わります。礼金1か月をゼロにしたうえでAD1か月を出すと、その部屋の初回コストは実質2か月分動きます。ADの考え方は広告料(AD)を出す前に確かめる3点を先に読んでください。
この数字をそのまま自分の物件に当てはめてよいか
今回の数字は三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏)で、2024年4月〜2025年3月に住み替えた世帯への調査です。埼玉県は首都圏に含まれますが、回収は民間賃貸住宅で590件(うち首都圏346件)。市区町村ごと・築年数ごとの数字ではありません。 「世の中の半分は礼金を取っていない」という全体の傾向として使い、自分の物件の条件は、同じ駅・同じ間取り・同じ築年数の募集中の部屋を並べて決めてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
いま募集中の部屋の条件を、紙に4行書き出してください。「礼金」「敷金」「フリーレント」「家賃」。そのうえで、上から順に「これは動かせるか」を確かめます。いちばん下の家賃から手を付けようとしていたなら、その提案書は一度止めて構いません。


