定期借家は築古アパートのどこで使えるか|オーナーが外せない手続きと向く場面

結論からお伝えすると、定期借家が効くのは「終わる日が先に決まっている物件」だけです。建て替え・売却・大規模修繕の予定がある、貸す期間を区切りたい——この場合ははまります。逆に「出ていってほしくなったら出てもらう」ための道具として使うと、手続きを1つ落としただけで、普通の契約に戻ってしまいます

2年後に解体を予定している築45年のアパートで、こんなことがありました。オーナーは仲介会社に「定期借家でお願いします」と伝え、契約書には「本契約は更新がない」と印字されていました。ところが渡された書類は契約書1通だけ。更新がないことを説明するための別紙が、最初から用意されていなかったのです。これは法律の要件を外しています。

入居者の半分以上は、そもそも制度を知りません

国土交通省が2026年7月17日に公表した令和7年度 住宅市場動向調査(国土交通省住宅局)に、民間賃貸住宅に入居した世帯の数字があります。

  • 定期借家制度を「知らない」が54.4%。「知っている」は17.1%、「名前だけは知っている」が24.6%
  • 実際に定期借家を利用した世帯は2.0%。普通借家が92.5%

「定期借家は入居者に嫌がられるから使えない」とよく言われます。ただ、この数字を見る限り嫌がられる以前に、半分以上の人が制度そのものを知りません。 断られたのではなく、説明されていないだけ——という部屋が相当あるはずです。

(出典:国土交通省住宅局「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」令和8年7月/2026年7月17日公表。民間賃貸住宅の調査対象は三大都市圏、配布600・回収590件)

「更新がない」と書くだけでは、定期借家になりません

根拠は借地借家法第38条です。オーナーが落としやすいのは、次の3項と5項です。

3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

5 建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。

ここが冒頭の事例で外れていた部分です。説明の書面は、契約書とは別に、契約より前に渡すものです。契約書の中に「更新はありません」と書き込んであっても、この手続きの代わりにはなりません。落とすと5項が働き、更新がない旨の定めだけが無効になって、普通の借家契約として更新される——という結果になります。2年後の解体予定は、そのまま崩れます。

なお、契約そのものは書面(公正証書による等)が必要ですが、電磁的記録によってされたときは書面によるものとみなされます(同条2項)。事前説明も、借主の承諾を得れば電磁的方法で提供できます(同条4項)。この電子化は「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)によるもので、令和4年5月18日から施行されています(出典:法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」)。

定期借家で外せない4つの手続きをまとめた図。書面か電磁的記録で契約する、事前に別の書面で説明する、期間1年以上は終了通知を出す、やむを得ない中途解約は止められないの4項目を並べた図

期間中は絶対に出ていかない、わけでもありません

もうひとつ、誤解されやすいのが第7項です。

7 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。

アパートの1室はまず200㎡未満です。つまり転勤や介護といった事情があれば、定期借家でも借主から1か月で解約できます。 しかも第8項で、これに反する借主に不利な特約は無効とされています。「2年契約だから2年分は確実」という前提で収支を組むと、そこがずれます。

期間が1年以上なら、終了の通知を忘れると終われません

第6項は、期間1年以上の定期借家について、期間満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了で終了する旨を借主に通知しなければ、その終了を借主に対抗できないと定めています(通知期間の経過後に通知した場合は、その日から6か月を経過した後は対抗できる、というただし書きが付きます)。

2年契約なら、入居してから1年経ったあたりで通知の準備が始まるということです。カレンダーに入れておかないと、まず落とします。契約書と鍵の管理をどう残すかは管理会社を変更するときの引き継ぎ書類の考え方がそのまま使えます。

築古物件で定期借家が向くのはどんな場面ですか?

  • 解体・建て替えの時期が決まっている——いちばん素直な使い方です。空室のまま置くより、期間を区切って貸したほうが収支は良くなります
  • 売却の予定がある——ただし「満室で売るか空室で売るか」で戦略が変わります。築古アパートを売るなら満室にしてからか空室のままかを先に決めてください
  • 大規模修繕や設備更新の予定がある——工事に合わせて明け渡してもらう必要がある部屋
  • 期間を区切って家賃を下げて貸す——第9項により、借賃の改定に係る特約があるときは賃料増減請求の規定(第32条)が適用されません。期間中の賃料を固定した設計ができます

逆に、入居審査の不安を補うために使う問題があったら更新しなければいい、という保険として使う——この2つは勧めません。前者は保証会社と審査で対応する話で、家賃保証会社は築古物件でも使えるのかにまとめています。後者は、上の手続きを1つでも落とせば成立しないうえ、募集の間口を自分で狭めることになります。空室が長い部屋でこれをやると、条件を緩めるどころか締めていることになります(家賃を下げる前に試す4つの手)。

定期借家が向く場面と向かない使い方を左右で比べた図。左は解体や売却の予定がある場合など、右は審査の不安を埋める目的や更新しない保険としての使い方を挙げた図

最後に、これは一般的な整理です

ここで挙げたのは条文と公表統計の内容で、個別の契約が有効かどうかの判断ではありません。定期借家で契約するときは、事前説明書面の様式と交付のタイミング、終了通知の出し方を含めて、宅地建物取引業者または弁護士に実際の書式を確認してもらってください。 手続きの1つを落とすだけで結果が変わる制度なので、ここは自己流にしないほうが安全です。

今日やることを1つだけ選ぶなら

自分の物件に「終わる日が決まっている部屋」があるかどうかを、1分で確かめてください。 解体、売却、大規模修繕——どれか1つでも時期の見当がついているなら、その部屋は定期借家を検討する価値があります。決まっていないなら、いまは普通借家のままで構いません。

出典:e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号)第38条/法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」/国土交通省住宅局「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」令和8年7月

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