垂直積雪量は市町村の規則で決まっています|築古アパートのオーナーが大雪の前に見る屋根と通路

雪が積もった翌朝、入居者から写真が届きました。1階の通路に雪が寄せてあり、その山が階段の下段を塞いでいます。誰かが自分の車の前だけ掻いて、そこへ置いたようでした。屋根からは、軒先に厚みのある雪がせり出しています。オーナーからの相談は「これ、うちがやることですか」でした。

結論からお伝えすると、屋根と通路は分けて考えます。屋根に載る雪の重さは、建てたときの設計で決まっていて、その前提となる数値は市町村ごとに規則で定められています。通路の雪かきは、法律に「大家がやれ」という条文があるわけではなく、契約と共用部の管理の話です。順番に見ていきます。

屋根に載る雪の重さの4点。積雪1センチで約2キログラム、深さ30センチなら約61キログラム、垂直積雪量は市町村の規則、雪止めがあると勾配の低減は使えない。

屋根に載る雪の重さは、こう計算されている

建築基準法施行令86条1項が計算式を決めています。

積雪荷重は、積雪の単位荷重に屋根の水平投影面積及びその地方における垂直積雪量を乗じて計算しなければならない。

そして2項が、単位荷重の下限を定めています。

前項に規定する積雪の単位荷重は、積雪量一センチメートルごとに一平方メートルにつき二十ニュートン以上としなければならない。

20ニュートンは、重さに直すと約2.04キログラムです。積雪1センチメートルにつき、1平方メートルあたり約2キログラムと覚えておくと、話が具体的になります。

  • 10センチメートル積もると、1平方メートルあたり約20キログラム
  • 30センチメートル積もると、1平方メートルあたり約61キログラム
  • 屋根の水平投影面積が60平方メートルなら、30センチメートルで合計およそ3.7トン

2階建てアパート1棟の屋根に、軽自動車3台分が載っている状態です。雪は水を含むと重くなるので、この数字は下限側と考えてください。条文が「二十ニュートン以上」と書いているのは、そういう意味です。

「その地方における垂直積雪量」は、どこに書いてあるのか

式の3つ目にある垂直積雪量は、全国一律ではありません。86条3項です。

第一項に規定する垂直積雪量は、国土交通大臣が定める基準に基づいて特定行政庁が規則で定める数値としなければならない。

特定行政庁というのは、県や、建築主事を置いている市の長のことです。つまり自分の物件がある市町村の規則を見ないと、数値が分かりません。当社のエリアで実際に確かめると、次のようになっています。

  • さいたま市 ── 30センチメートル(さいたま市建築基準法施行細則11条)
  • 草加市 ── 30センチメートル(草加市建築基準法施行細則11条の2)

同じ市の中でも数値が変わる場所がある

ここが、調べてみて意外だったところです。秩父市の設計条件はこう書かれています。

30cm ただし、H12告示1455号第2の式(※)により算出した数値が30cmを超える場合は、当該数値
(※)垂直積雪量(m)=0.0005 × 標高(m) + 0.28

標高を入れて計算する式です。参考値として挙げられているのは、秩父市役所40センチメートル、旧吉田町役場39センチメートル、旧大滝村役場49センチメートル、旧荒川村役場42センチメートルでした(出典:埼玉県熊谷建築安全センター「建築各種申請べんり帳(秩父市)」令和7年4月1日現在)。

式に当てはめると、標高233.2メートルの秩父市役所で0.0005×233.2+0.28=約0.40メートル。標高415メートルの旧大滝村役場で約0.49メートルです。標高が200メートル上がると、垂直積雪量は10センチメートル増えます。「市ごとに数値が1つ決まっている」と思っていると、ここを外します。

物件がどの数値で設計されているかを知りたいときは、市町村の建築指導課に聞くのがいちばん早い方法です。

雪止めを付けると、屋根の設計は楽になるのか

逆です。86条4項に、見落としやすいかっこ書きが入っています。

屋根の積雪荷重は、屋根に雪止めがある場合を除き、その勾配が六十度以下の場合においては、その勾配に応じて第一項の積雪荷重に次の式によつて計算した屋根形状係数(中略)を乗じた数値とし、その勾配が六十度を超える場合においては、零とすることができる。

屋根形状係数は、勾配が急なほど小さくなります。雪が滑り落ちる前提で、載る量を減らして計算してよい、という規定です。ところが雪止めがある屋根は、この低減の対象から外れます。雪が落ちない構造にしたのだから、載ったままの重さで計算しなさい、という理屈です。

実務としては、ここに緊張があります。雪止めは、隣地や通路への落雪を防ぐために付けるものです。落雪で人や車に被害が出れば、建物の設置または保存の瑕疵として所有者の責任が問われる場面が出てきます。その仕組みは火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありませんで扱っています。

落雪を止める判断と、屋根に載る重さの判断は、方向が逆を向きます。どちらを取るかを素人判断で決めず、建築士に見てもらってください。既存の屋根に後から雪止めを足すかどうかも同じです。

雪下ろしを前提にした建物には、表示の義務がある

86条6項は、雪下ろしを行う慣習のある地方について、垂直積雪量が1メートルを超える場合でも1メートルまで減らして計算してよいとしています。そして7項です。

前項の規定により垂直積雪量を減らして積雪荷重を計算した建築物については、その出入口、主要な居室又はその他の見やすい場所に、その軽減の実況その他必要な事項を表示しなければならない。

雪下ろしを前提に設計した建物は、そのことを掲示しておかなければならない、ということです。当社のエリアの垂直積雪量は30センチメートル台から40センチメートル台なので、この規定に当たる物件はまずありません。裏を返すと、埼玉の築古アパートは「雪下ろしをする前提では設計されていない」ということでもあります。オーナーや入居者が屋根に上がる話ではありません。

大雪の前に決めておく4つの順番。雪を寄せる場所を図で示し、階段と消火設備の前を空け、融雪剤の置き場所と使い方を書き、連絡先と対応できる時間帯を掲示する。

通路と階段は、誰が雪をどけるのか

ここからは条文の話ではなく、決めごとの話です。共用部の除雪について「大家がやらなければならない」と書いた法律はありません。実際に問題になるのは、次の3つです。

  1. やる人が決まっていない ── 誰も掻かないか、掻いた人が別の場所を塞ぐ
  2. 置く場所が決まっていない ── 冒頭の階段下がこれです。動線が1つ潰れます
  3. 凍った後の扱いが決まっていない ── 溶けて夜に凍る2日目のほうが、転倒は起きます

雪が降る前に決めておけるのは、この3つです。掲示を1枚出しておくだけでも変わります。

  • 雪はどこに寄せるかを図で示す(階段の下、消火設備の前、駐車場の出入口は避ける)
  • 融雪剤を置くなら置き場所と使い方を書く。塩化カルシウムはコンクリートや金属に影響が出ることがあるので、使う場所を限る
  • 連絡先と、来られる時間帯を書く。夜間に何ができないかも書いておく

管理を委託しているなら、除雪が委託の範囲に入っているか、入っているなら何センチメートルから動くのかを契約書で確かめてください。「必要に応じて」としか書かれていないことがよくあります。

雪の日に、先に見ておく場所はどこか

建物側で優先度が高いのは、水と落下に関わるところです。

大雪の前後にオーナーが動く順番そのものは、台風の場合と共通する部分が多くあります。台風が来る前と後、オーナーが動く順番|築古アパートで先に見る5か所と入居者への連絡の手順が、そのまま使えます。

なお、保険で拾えるかどうか(雪害が対象か、免責金額はいくらか)は契約ごとに違います。ここは保険会社か代理店に確認してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

物件のある市町村の名前と「建築基準法施行細則」で検索して、垂直積雪量の条文を1つ見つけてください。さいたま市なら11条、草加市なら11条の2です。数値が30センチメートルなら、1平方メートルあたり約61キログラムが、その建物が想定している重さになります。

その数字を知っていると、雪の朝に何を心配して、何を心配しなくてよいかが分かります。屋根に上がるより、通路の動線を1本確保するほうが先だという判断も、そこから出てきます。

条文の引用は e-Gov 法令検索の建築基準法施行令(2026年9月6日時点)、垂直積雪量はさいたま市建築基準法施行細則11条・草加市建築基準法施行細則11条の2、および埼玉県熊谷建築安全センター「建築各種申請べんり帳(秩父市)」(令和7年4月1日現在)によります。屋根の状態や雪止めを足せるかどうかは建物ごとの判断になるため建築士に、雪害が保険で拾えるかどうかは保険会社または代理店に確認してください。

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