アパートのベランダは誰の場所か|築古アパートのオーナーが物を置かせない2か所と手すりの1.1メートル
結論からお伝えすると、アパートのベランダは「入居者が使う前提の場所」なので、共用廊下と同じ感覚で「物を置くな」と貼っても効きません。効くのは2か所だけです。隔て板の前と避難ハッチのふたの上。この2か所は契約の承諾の話ではなく、逃げ道の話なので、根拠がまるごと違います。そしてもう1つ、オーナー側の持ち場として法律に数字が書かれている場所があります。手すりの高さです。
2階建て6戸のアパート。外階段の踊り場から見上げると、203号室のベランダには衣装ケースが3つ積まれ、いちばん上の1つが隣との仕切り板にぴたりと接しています。204号室は床一面に人工芝を敷き、その上にプランターが4つ。人工芝は、四角い金属のふたを完全に覆っています。どちらの部屋も、洗濯物はきちんと干されています。生活としては、何もおかしくありません。

ベランダは「部屋の中」でも「共用廊下」でもない
共用廊下に物が置かれているときの考え方は、国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)にはっきり書かれています。別表第2の第一号が「階段、廊下等の共用部分に物品を置くこと」で、これは貸主の書面による承諾があれば可能な行為に分類されています。禁止ではありません(詳しくは共用廊下に自転車や荷物が置かれているときにまとめています)。
ベランダは、そこからさらに一段違います。洗濯物を干す、室外機を置く、布団を干す。この使い方を前提にして部屋を貸しているからです。廊下は通るための場所ですが、ベランダは使うための場所です。だから「物を置くな」という一律の貼り紙は、そもそも契約の中身と噛み合いません。
ここを整理しないまま貼り紙をすると、いちばん止めたい2か所も一緒に軽く見られます。伝えるべきことが薄まるのがいちばんの損です。
手すりの高さには、法律に数字が書いてある
建築基準法施行令第126条第1項は、こう定めています。
「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない」
1.1メートルです。築年数の古い物件では、この数字より低い手すりが残っていることがあります。建てられた当時の基準との関係があるため、「低いから今すぐ違法」という話にはなりません。ただし、そこに人が立って身を乗り出すという事実は変わりません。判断は建築士や特定行政庁に渡してください。オーナーが自分で決める話ではありません。
もう1つ、同じ施行令に手すりの話が出てきます。第13条の2は、避難施設等に関する工事に含まれない「軽易な工事」を挙げていて、その筆頭が「バルコニーの手すりの塗装の工事」です。つまり塗り直しは、条文の側から「これは軽い工事だ」と名指しされている作業です。サビが浮いてきたときに身構える必要はありません。外階段の手すりと同じ考え方で、外階段のサビと手すりのガタつきと一緒に見てしまうのが早いです。
うちのアパートに避難ハッチがないのは違法ですか?
結論は「多くの木造2階建てアパートでは、そもそも設置義務がありません」です。
避難ハッチのような避難器具の設置基準は、消防法施行令第25条第1項にあります。共同住宅は、消防法施行令別表第一の(五)項ロです。関係するのは2つの号です。
- 第2号:(五)項の防火対象物の二階以上の階または地階で、収容人員が30人以上のもの(下階に特定の用途がある場合は10人以上)
- 第5号:三階以上の階のうち、避難階または地上に直通する階段が二以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のもの
ここで効いてくるのが「収容人員」の数え方です。消防法施行規則第1条の3の表は、(五)項ロについて「居住者の数により算定する」とだけ書いています。床面積でも戸数でもなく、住んでいる人の数です。
単身向け6戸のアパートなら、居住者は6人前後。30人には遠く届きません。だから2階建てのままなら第2号にかからず、階数が2階なので第5号にもかかりません。ハッチが付いていないこと自体は、珍しくもなんともないということです。
逆に、3階建てで階段が片側1か所しかなく、居住者が10人以上いる物件は第5号に入ります。自分の物件がどちらなのかは、消防用設備等の届出の控えを見るか、所轄の消防署に確認してください。ここは推測で済ませる場所ではありません。
付いているなら、条文の側が「置くな」と言っている
避難器具がある物件では、話が反転します。消防法施行令第25条第2項は、設置と維持の基準としてこう書いています。
- 第2号:避難器具は、避難に際して容易に接近することができ、階段、避難口その他の避難施設から適当な距離にあり、かつ、当該器具を使用するについて安全な構造を有する開口部に設置すること
- 第3号:避難器具は、前号の開口部に常時取り付けておくか、又は必要に応じて速やかに当該開口部に取り付けることができるような状態にしておくこと
「容易に接近することができ」「常時取り付けておく」。人工芝とプランターがふたの上に乗っている状態は、この文言と正面からぶつかります。これは入居者のマナーの問題ではなく、設備を維持する側の基準として書かれている点が大事です。
もう1か所が隔て板です。隣の部屋との仕切りに使われている薄い板は、火が出たときに蹴破って隣のベランダへ抜けるためのものです。板そのものに全国一律の寸法規定があるわけではありませんが、目的は変わりません。板の前に衣装ケースが積んであれば、蹴破っても人は通れません。
この2か所だけは、「承諾すれば置ける」の枠から外れます。

では、オーナーはどう伝えるのか
- 一律禁止の貼り紙をやめる。ベランダを使わせない契約になっていない以上、守られない紙が増えるだけです
- 2か所だけを図で示す。隔て板の前、ハッチのふたの上。文字より線で囲った図のほうが伝わります
- 入居のときに渡す。入居後に配る紙は「注意された」になりますが、入居時の紙は「そういう建物なのか」になります
- 空室の内見前に自分で見る。退去した部屋のベランダは、次の入居者に渡す状態そのものです。内見のときのにおいはどこから来るのかと同じで、見られる前に見ておくのが早い
そして、ふたを覆っていた人工芝をはがしたあとの床が傷んでいたら、そこは防水の話になります。ベランダの防水と屋上・陸屋根の周期は、足場の要否で費用が変わるので、陸屋根の防水はいつやるかと合わせて年を決めてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
自分の物件のベランダに、避難ハッチと隔て板があるかどうかを確かめてください。写真を1枚ずつ撮るだけで構いません。あるなら、その上に何が乗っているか。ないなら、階数と居住者の数を数えて、義務の対象かどうかを消防署に一度聞いておく。ここが分かっていないと、貼り紙も、入居時の説明も、どこを守ればいいのか決まりません。
出典
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第126条第1項、第13条の2(e-Gov法令検索・2026年8月29日確認)
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第25条第1項第2号・第5号、第2項第2号・第3号、別表第一(五)項ロ(e-Gov法令検索・2026年8月29日確認)
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第1条の3(収容人員の算定方法)(e-Gov法令検索・2026年8月29日確認)
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)別表第2
耐震・構造・消防設備の可否は、建築士・特定行政庁・所轄消防署の判断によります。この記事は条文の位置を示すもので、個別の建物の適否を判定するものではありません。


