築後20〜25年で価値ゼロは、国が改めるよう求めた慣行です|築古アパートのオーナーが売れないときに開く2つの根拠

査定書はA4が1枚でした。上に物件の住所、真ん中に「周辺相場より」の一文、その下に金額が1つ。根拠を書く欄はありません。売り出して2か月、内見は1件、問い合わせは3件。オーナーからの質問は「もう少し下げたほうがいいでしょうか」でした。

結論からお伝えすると、問い合わせが来ないときに先に確かめるのは、価格そのものではなくその価格の根拠を、誰が、何を使って出したかです。根拠を示すことは業者の好意ではなく、宅地建物取引業法が課している義務です。そして築古の建物については、国が「築20〜25年で価値ゼロ」という慣行を名指しで問題視し、評価のやり方を改めるよう指針を出しています。

査定額の根拠として確かめる4点。価格査定マニュアルで出したか、取引事例なら何件かいつかどこか、躯体と内外装を分けて見ているか、土地は更地としての価格か。

その査定額の根拠は、法律で「明らかにしなければならない」と決まっている

宅地建物取引業法34条の2第2項は、こう書いてあります。

宅地建物取引業者は、前項第二号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。

「前項第二号」は、媒介契約書に必ず書く項目のうち「当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額」のことです。つまり売り出し価格について意見を述べる以上、その根拠を出すところまでが1セットになっています。

では「根拠」として何が認められるのか。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(平成13年1月6日国総動発第3号)の第34条の2関係4(1)に書かれています。

意見の根拠としては、価格査定マニュアル((公財)不動産流通推進センターが作成した価格査定マニュアル又はこれに準じた価格査定マニュアル)や、同種の取引事例等他に合理的な説明がつくものであることとする。

ここまで具体的に書かれています。「周辺相場より」の6文字は、このどれにも当てはまりません。査定書を受け取ったら、次の3つのどれで出した数字なのかを聞いてください。

  • 価格査定マニュアル(またはそれに準じたもの)で計算した
  • 同種の取引事例を並べて比較した ── 何件の、いつの、どこの事例か
  • それ以外の方法 ── どう合理的に説明がつくのか

この質問に答えられない相手は、法律が求めている手順を踏んでいません。値下げの相談をする前に、ここが先です。

価格査定マニュアルには、公示価格が組み込まれている

価格査定マニュアルは昭和56年度に作られ、その後たびたび改訂されています。令和4年度の改訂では「住宅地版」で地価公示の標準地・都道府県地価調査の基準地の情報を事例地情報として使えるようになりました。令和7年度は、不動産情報ライブラリの取引価格情報を住宅地版の事例地情報として活用する検討が進められています(出典:国土交通省「価格査定マニュアルについて」)。

築20〜25年で建物ゼロは、国が「改めるべき慣行」と書いたもの

築古のアパートや戸建を売ろうとすると、ほぼ必ず「建物の値段は付きません」と言われます。オーナーの側もそういうものだと思っています。ところが国土交通省は、平成26年3月に策定した「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」で、この扱いを問題として取り上げています。

指針が背景として挙げているのは、次の状態です。

中古戸建て住宅の流通市場においては、全ての住宅が一律に経年減価し、築後20〜25年程度で市場価値がゼロとなる慣行が存在。

「慣行」という言葉が使われています。法律や耐用年数でそう決まっているのではなく、市場の側の習慣としてそうなっているという整理です。そのうえで指針は、原価法の運用を次のように改善するよう示しています。

  1. 住宅を大きく「基礎・躯体部分」と「内外装・設備部分」に区分し、それぞれの部位の特性に応じて評価したうえで合算する
  2. 基礎・躯体は、性能に応じて20年より長い耐用年数を設定する(参考となる数値として、長期優良住宅は100年超、劣化対策等級3は75〜90年が挙げられています)
  3. 適切な内外装・設備の補修等を行えば、基礎・躯体の機能が失われない限り、住宅の使用価値は何度でも回復・向上するものととらえて評価に反映する

この考え方は、平成27年7月に「既存住宅価格査定マニュアル」の改訂として反映されました。同じ時期に、不動産鑑定評価の側でも「既存戸建住宅の評価に関する留意点」が作られています。

ここが実務の分かれ目です。躯体と内外装を分けて見る査定を受けているか、建物一括で経年減価させた査定を受けているかで、同じ物件の建物評価が変わります。「建物はゼロですね」と言われたときに、オーナーの側が持ち出せる公的な文書があるということです。

ただし、指針は価格を保証するものではありません

指針が求めているのは評価の手順であって、「築古でも建物に値が付く」と決めたものではありません。基礎・躯体の機能が失われていれば、その前提が崩れます。躯体の状態を第三者が見た記録があるかどうかで、この話は説得力が変わります。修繕の記録をどうまとめるかは築古アパートを売るなら満室にしてからか空室のままか|オーナーが決める順番とあわせて読んでください。

土地の側にも、公表されている物差しがある

土地については地価公示法があります。この法律の条文には、オーナー本人に向けた一文が入っています。

都市及びその周辺の地域等において、土地の取引を行なう者は、取引の対象土地に類似する利用価値を有すると認められる標準地について公示された価格を指標として取引を行なうよう努めなければならない。(地価公示法1条の2)

努力義務ですが、名あて人は業者ではなく「土地の取引を行なう者」です。売主であるオーナーも入ります。公示価格は業者だけが見るものではない、という建て付けになっています。不動産鑑定士については8条で「公示価格を規準としなければならない」と、努力義務ではない書き方になります。

公示価格をそのまま自分の土地に当てはめてよいのか

ここは注意が要ります。公示される「正常な価格」の定義は2条2項にあり、次のかっこ書きが付いています。

当該土地に建物その他の定着物がある場合又は当該土地に関して地上権その他当該土地の使用若しくは収益を制限する権利が存する場合には、これらの定着物又は権利が存しないものとして通常成立すると認められる価格

つまり公示価格は、建物も借地権もない状態、いわば更地としての価格です。築古アパートが建っていて入居者もいる土地に、公示価格をそのまま掛け算して「うちはこの金額のはず」とはなりません。建物を解体する費用も、入居者がいることも、価格から引く側の材料になります。この線を先に引いておかないと、査定額を見たときに「安すぎる」という感想だけが残ります。

公示価格は毎年1回、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、土地鑑定委員会が審査・調整して判定します(2条1項)。1つの意見ではなく、手続きを踏んで出された数字だという点は、根拠として使える理由になります。

どこで止まっているかを切り分ける4つの手順。掲載の閲覧数を確認し、問い合わせ件数を数え、内見に至った件数を数え、申込みが出たかを確かめる。

では、問い合わせが来ないのは価格のせいなのか

価格の話をここまでしておいて逆のことを書きますが、「問い合わせが来ない」は、価格以外の原因でも同じ見え方になります。まず、どこで止まっているのかを分けてください。

  • 掲載自体が見られていない ── 写真が少ない、間取り図がない、掲載が始まったばかり
  • 見られているが問い合わせがない ── 価格、または情報が足りず判断できない
  • 問い合わせはあるが内見に至らない ── 電話の受け答え、案内できる日程、鍵の所在
  • 内見はあるが申込みがない ── 現地で見えたもの、隣地との関係、修繕の見込み

このうち2番目でなければ、値下げをしても数字は動きません。露出の側で何が起きているかを見る手順(レインズの登録期限、報告の頻度、申込みがあったときの報告義務)は買取のとき、宅建業法のいわゆる八種制限は働きません|築古アパートのオーナーが仲介と比べる3つの物差しにまとめてあります。売り出し中のオーナーは、そちらを先に読むほうが早いこともあります。

売り出す前に、手元にそろえておくもの

査定を受ける側が何も持たずに座ると、話は相手の材料だけで進みます。次の4点は、オーナーが自分で用意できます。

  1. 修繕の記録 ── いつ、どこを、いくらで直したか。領収書の束でかまいません
  2. 躯体に関する書類 ── 確認済証・検査済証、建物状況調査を受けているならその結果
  3. 入居状況の一覧 ── 各室の家賃、入居開始の年月、契約の種類
  4. 土地の資料 ── 公図、測量図、境界の確認書。ないなら「ない」と分かっている状態にする

4番目が抜けたまま売り出して、契約直前に境界の話が出て止まるのが、いちばん時間を失う形です。境界と越境の確かめ方はアパートの雨樋の詰まりを放置すると何が起きるか|築古オーナーが建物と隣地の両方で見る3か所でも触れています。入居者がいる状態で売るときの手続きはオーナーチェンジで売るときの注意点|入居者の承諾より先に必要なのは登記を参照してください。

なお、税務の扱い(譲渡所得、控除が使えるか)は要件が細かく、同じ物件でも経緯によって結論が変わります。ここは税務署か税理士に確認してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

手元の査定書を出して、金額の根拠が書いてある行を探してください。見つからなければ、担当者に一言だけ聞きます。「この金額は、価格査定マニュアルで出した数字ですか、取引事例で出した数字ですか」。

答えが返ってくれば、そこから先は具体的な話になります。返ってこなければ、値下げの前に確かめることがまだ残っている、ということです。

築古の物件は、根拠のない一言で数百万円が動きます。数字そのものより、その数字がどこから来たのかを聞ける状態にしておくほうが、結果として手取りを守ります。

条文の引用は e-Gov 法令検索の宅地建物取引業法・地価公示法(2026年9月6日時点)、解釈通達は国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(平成13年1月6日国総動発第3号)、指針は同省「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」(平成26年3月)によります。譲渡所得や控除の要件は経緯と時期によって結論が変わるため、税務署または税理士に確認してください。

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