賃貸借契約書は、もともと書面でなくても成立します|築古アパートのオーナーが電子契約で手順を踏む1か所
「電子契約にしたいと言われたのですが、賃貸でも大丈夫でしょうか」。仲介会社からそう聞かれて、判断を止めたことがある方がいると思います。
結論からお伝えすると、普通の賃貸借契約書は、もともと書面でなくても成立します。民法第522条第2項が「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と書いているからです。賃貸借を定めた民法第601条にも、書面の要件はありません。
つまり「電子契約にしてよいか」ではなく、最初から方式は自由だったという順番です。そのうえで、方式が決まっている例外が3つあります。築古アパートのオーナーに関係するのは、そのうち1つです。

例外1 定期借家は、書面か電磁的記録が要ります
借地借家法第38条第1項は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」更新がないことを定められる、としています。ここは方式が決まっている場面です。
ただし第2項があります。「前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する」。令和4年5月18日から、この第2項が入りました。電子で結んでも、定期借家は定期借家のままです。定期借家そのものの向き不向きは定期借家は築古アパートのどこで使えるか|オーナーが外せない手続きと向く場面にまとめています。
例外2 定期借家の事前説明だけ、手順が政令で決まっています
ここが、電子契約でいちばん転びやすい1か所です。
借地借家法第38条第3項は、契約の前に「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならないと定めています。契約書とは別の紙です。
第4項で、この書面の交付に代えて電磁的方法で提供できることになりました。ただし条文はこう続きます。「政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て」。その政令が借地借家法施行令(令和4年政令第187号)で、中身は次のとおりです。
- 賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、提供に用いる電磁的方法の種類及び内容を示す
- そのうえで、賃借人から書面等(書面または法務省令で定める情報通信の技術を利用する方法)によって承諾を得る
- 承諾を得たあとでも、賃借人から「電磁的方法による提供を受けない」という申出があったときは、提供してはならない(再び承諾を得た場合を除く)
さらに借地借家法施行規則(令和4年法務省令第29号)第1条第2項が、その方法は「受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない」と定めています。画面で見られるだけでは足りず、印刷できる形であることが要件です。
なぜここが怖いか。第38条第5項が「建物の賃貸人が第3項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」と書いているからです。手順を飛ばすと、定期借家のつもりの契約が、更新のある普通の賃貸借として残ります。
電子化そのものが危ないのではありません。承諾を先に取る、種類と内容を示す、断られたら送らない。この3つを飛ばしたときだけ危ない、という話です。
例外3 連帯保証は、書面でなければ効力が生じません
民法第446条第2項は「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」。賃貸借契約書と違い、こちらは方式が決まっています。
ただし第3項があります。「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する」。電磁的記録なら書面と同じ扱いです。印刷して郵送して返送してもらう、という往復は法律が求めているものではありません。
なお、連帯保証には極度額の定めという別の要件があります。そこは電子か紙かとは関係のない話です。

仲介会社や管理会社が入ると、承諾の取り方がもう一段増えます
大家さんが直接結ぶのではなく、間に業者が入る場合は、業者側の法律が別に効きます。
- 宅地建物取引業法 重要事項説明書は第35条第8項、契約書面は第37条第4項で、政令で定めるところにより相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できます
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律 管理委託契約の締結前の書面は第13条第2項、締結時の書面は第14条第2項(第13条第2項の準用)で、賃貸人の承諾を得て電磁的方法で提供できます
いずれも「承諾を得て」が条件です。大家さんが口頭で「電子でいいですよ」と言うだけでは、業者側の要件は満たされません。管理会社を変えるときに受け取る書類の一覧は管理会社を変更するときの引き継ぎ書類|築古アパートのオーナーが受け取る一覧にありますが、電子で受け取っているものは、その承諾の記録もセットで持っておくと後で困りません。
紙をやめたら、控えはどこに置くのですか?
ここは税務の側の話につながります。契約書を電子でやり取りしたなら、それは電子取引です。印刷して紙で保存する形は、保存の要件を満たしません。この点は送金明細のPDFは印刷しても保存になりません|築古アパートのオーナーが無料で足りる電子取引の残し方に、具体的な残し方まで書いています。
都合の悪いことも書いておきます。電子にすると手元に紙が残らないので、どこに何があるか分からなくなります。10年前の契約書を探すときに困るのは、たいてい紙ではなくこちらです。ファイル名の付け方だけは、最初に決めてください。
埼玉・千葉県西部・栃木県南部で実際に起きること
入居者が遠方から申し込む場合、契約のために来てもらう往復が丸ごと消えます。学生と転勤者の割合が高い物件ほど効きます。逆に、高齢の入居者が多い築古アパートでは、承諾を取る段階で止まります。
そのときに無理をしないでください。借地借家法施行令は、断られたら送ってはいけないと書いています。紙に戻すのは後退ではなく、条文が用意している道です。
法律の適用や個別の契約の有効性は事情によって変わります。定期借家を電子で結ぶときは、手順を宅地建物取引士か弁護士に一度確認してください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
自分の物件に定期借家があるかどうかだけ、先に確かめてください。1件もないなら、電子契約でつまずく場所はほぼありません。普通の賃貸借は、もともと方式が自由だからです。
1件でもあるなら、事前説明の書面をどう渡しているかを仲介会社に聞いてください。紙で渡しているなら、いまのままで問題ありません。電子に変えるときだけ、承諾の3つの手順が要ります。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第522条・第601条・第446条
- 借地借家法(平成3年法律第90号)第38条/借地借家法施行令(令和4年政令第187号)/借地借家法施行規則(令和4年法務省令第29号)第1条。施行令の附則は「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)第35条の規定の施行の日(令和4年5月18日)から施行する」
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第35条第8項・第37条第4項/賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)第13条・第14条
- いずれもe-Gov法令検索・2026年9月15日時点


