家賃保証と孤独死保険は、監督する法律から違います|築古アパートのオーナーが保証料と保険料で分ける5点
「保証会社に入っているから、孤独死のときも大丈夫ですよね」。管理を任せている会社にそう聞いて、少し間が空いたことがある方は、その間の理由を知っておいたほうがいい場面です。
結論からお伝えすると、家賃債務保証と孤独死保険は、監督している法律からして別のものです。片方は民法の保証で、国の登録は任意。もう片方は保険業法の保険で、金融庁の登録が必須。お金を払う人も、払われたあとに起きることも違います。混ぜて考えると、片方でしか埋まらない穴が残ります。
家賃債務保証は「保険」ではありません
家賃債務保証会社が立て替えるお金は、保険金ではありません。民法第446条第1項の保証、つまり「主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う」という仕組みです。
保証である以上、立て替えたあとに入居者への求償が残ります。保証会社が払った瞬間に滞納がなかったことになるわけではなく、請求先が大家さんから保証会社に移るだけです。この先で起きることは入居者が自己破産しても、オーナーから解約はできません|築古アパートのオーナーが破産管財人へ出す催告にも書いたとおりで、大家さんの手が届かない場所で動きます。
そして、ここが意外に知られていません。国土交通省の家賃債務保証業者登録制度は、任意の登録です。同省のページには「なお、これは任意の登録制度であり、登録をしなくても家賃債務保証業を営むことは可能です」と、そのまま書かれています。登録は平成29年国土交通省告示第898号(告示公布は平成29年10月2日、施行は同年10月25日)に基づくもので、登録事業者数は123者(令和8年8月13日時点)です。
つまり「登録がある会社かどうか」は、営業してよいかどうかの線ではありません。選ぶ側の判断材料として国が並べている一覧です。加入前に決めることは家賃保証会社は築古物件でも使えるのか|オーナーが加入前に決める6つのことにまとめています。
保証委託契約には、使ってはいけない条項があります
令和4年12月12日の最高裁判所の判決(令和3年(受)第987号)で、家賃債務保証業者の保証委託契約の2つの条項が、消費者契約法第10条に当たるとして使用を差し止められました。国土交通省は登録事業者と業界団体に対し、次の2つを使わないよう周知しています。
- 所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合に、保証業者が何らの限定もなく賃貸借契約を無催告で解除できる条項
- 賃貸借契約が終了していない場合に、保証業者が明渡しがあったものとみなすことができる条項
大家さんの立場からすると、これは「保証会社が勝手に終わらせてくれる」形が否定された、という意味です。契約を終わらせるのは、いまも大家さん側の仕事です。

孤独死保険という名前の保険商品は、法律上は存在しません
「孤独死保険」は通称です。保険業法に出てくる名前ではありません。中身は、大きく2つに分かれます。
- 大家さんが契約者になる型 室内で亡くなったあとの原状回復費用、残置物の片付け、特殊清掃、空室期間の家賃の損失などを補う損害保険。保険料を払うのは大家さんです
- 入居者が契約者になる型 入居者が入る家財の保険に、同じ費用をまかなう特約を付ける形。保険料を払うのは入居者です
この商品を扱っている会社の多くは、保険会社ではなく少額短期保険業者です。保険業法第2条第18項が「第272条第1項の登録を受けて少額短期保険業を行う者」と定義しています。保険会社が受けるのは第3条第1項の免許で、少額短期保険業者が受けるのは第272条第1項の登録。そこが違います。
そして枠が決まっています。保険業法第2条第17項と同法施行令によると、
- 保険期間 1年以内。ただし損害保険にあたるもの(法第3条第5項第1号に掲げる保険)は2年以内(施行令第1条の5)
- 保険金額 損害保険にあたるものは1000万円まで(施行令第1条の6第6号)。被保険者ごとの合計でも1000万円が上限です
建物の火災保険と並べると、桁が違うことが分かります。孤独死保険は「建物を建て直すための保険」ではなく、1室を貸せる状態に戻すための保険だと考えると、金額の設計が読めます。建物側の備えは築古アパートの火災保険|オーナーが更新の前に確認する5つのことのほうです。
少額短期保険業者は、保険契約者保護機構に入っていません
ここは、都合の悪いことなので先に書いておきます。保険業法第265条の3は「保険会社は……機構の一にその会員として加入しなければならない」と定めています。少額短期保険業者は免許を受けた保険会社ではないので、この加入義務の外にあります。
代わりに置かれているのが供託です。第272条の5第1項が供託を義務づけ、施行令第38条の4がその額を定めています。事業開始から最初の事業年度の4か月後までは1000万円、そのあとは1000万円に前年度の年間収受保険料に応じた額を足した額です。
これは「危ないから避けましょう」という話ではありません。破綻したときに戻ってくる仕組みの形が、保険会社とは違うというだけです。知らずに契約するのと、知って契約するのとでは、次に何を確かめるかが変わります。

結局、どちらが何を埋めるのですか?
1つの表に並べると、重なっていないことが見えます。
- 滞納した家賃 家賃債務保証が立て替える。孤独死保険では出ない
- 亡くなったあとの特殊清掃・原状回復・残置物の片付け 孤独死保険の対象になる商品がある。家賃債務保証の基本の範囲には入っていないことが多い
- 次の入居者が決まるまでの家賃の損失 孤独死保険の側。ただし支払われる月数に上限があります
- お金を払う人 保証料は入居者、保険料は大家さん(大家さんが契約者になる型の場合)
- 払われたあと 保証は入居者へ求償が残る。保険は求償されない
亡くなったあとの部屋の片付けは、契約が終わっていない段階で動けないという別の問題も抱えます。そこは入居者が亡くなっても賃貸借契約は終わりません|築古アパートのオーナーが相続人の有無で分ける2つの道と退去後の残置物はオーナーが捨てていいのか|築古アパートの処分と原状回復の負担区分に分けて書いています。保険に入っていても、片付けてよい立場になるまでの手順は別に踏む必要があります。
保証会社を通さずに受ける申込が来たときの選択肢は保証人も保証会社も付けられない申込が来たとき|築古アパートのオーナーが断る前に見る3つの制度にまとめています。
今日やることを1つだけ選ぶなら
いま加入している家賃債務保証の契約書を開いて、「原状回復」「残置物」「特殊清掃」の3語を探してください。1つも出てこないなら、その穴は保証では埋まりません。埋めるなら別の商品になります。
探して出てこなかったこと自体が、そのまま保険を検討する理由になります。逆に出てきたなら、上限の月数と金額を控えておけば足ります。
保険の商品内容と税務の扱いは物件ごとに違います。加入や見直しの判断は、取扱いのある会社と税理士に確認してください。
出典
- 国土交通省「家賃債務保証業者登録制度」(家賃債務保証業者登録規程=平成29年国土交通省告示第898号、最終改正 令和7年7月18日国土交通省告示第543号)および「登録家賃債務保証業者一覧」(登録事業者数123者・令和8年8月13日時点)
- 最高裁判所 令和4年12月12日判決(令和3年(受)第987号) 国土交通省の上記ページに掲載された周知文
- 民法(明治29年法律第89号)第446条/保険業法(平成7年法律第105号)第2条・第3条・第265条の3・第272条・第272条の5/保険業法施行令(平成7年政令第425号)第1条の5・第1条の6・第38条の4 いずれもe-Gov法令検索・2026年9月15日時点


