賃貸借契約書の反社条項は、法律ではなく県の条例が求めています|築古アパートのオーナーが2026年10月1日までに読む2行
賃貸借契約書の後ろのほうに、「反社会的勢力の排除」という条文が入っています。ひな形に最初から付いてくるので、たいてい読み飛ばす欄です。
ところが「この条文は、何を根拠に入っているのですか」と聞かれると、答えられる方は多くありません。暴力団対策法だろう、と思われがちですが、違います。
結論からお伝えすると、賃貸借契約書に反社条項を入れるよう求めているのは国の法律ではなく、都道府県の条例です。埼玉県なら埼玉県暴力団排除条例(平成23年埼玉県条例第39号)の第23条第3項で、契約に定めるよう努める事項が2つだけ挙げられています。そして2026年(令和8年)10月1日から、この条例の改正が施行されます。
「反社会的勢力」という言葉は、法律のどこにも出てこない
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)の第2条は、用語の意味を決めている条文です。並んでいるのは「暴力的不法行為等」「暴力団」「指定暴力団」「暴力団員」「暴力的要求行為」など。「反社会的勢力」という言葉は1つもありません。
同条第2号の「暴力団」は「その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」、第6号の「暴力団員」は「暴力団の構成員」。法律が名指ししているのは、この2つです。
では、契約書に書いてある「反社会的勢力」とは誰のことか。契約書の中で自分で決めるしかありません。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)は、第7条第1項第1号で「暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という。)」と書いています。法律から借りた定義ではなく、契約書が自前で置いた定義です。
ここを知っておくと、ひな形を比べるときの見方が変わります。定義の1行が短いひな形と長いひな形では、同じ「反社条項あり」でも届く範囲が違います。

条例が求めているのは「暴力団員に貸すな」ではありません
ここが、いちばん取り違えやすいところです。埼玉県暴力団排除条例の第23条は、こう並んでいます。
- 第1項 不動産の譲渡又は貸付けをしようとする者は、契約を締結する前に、相手方に対し、その不動産を暴力団事務所の用に供するものでないことを確認するよう努めなければならない
- 第2項 その不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることを知って、譲渡等をしてはならない
- 第3項 契約において次の2つを定めるよう努めるものとする。(1)相手方は、その不動産を暴力団事務所の用に供してはならない旨。(2)暴力団事務所の用に供されることが判明し、又は供されたときは、催告をすることを要しない契約の解除、買戻しその他の必要な措置を講ずることができる旨
主語はすべて「暴力団事務所の用に供する」です。入居者が暴力団員であること自体を、この条文が禁じているわけではありません。禁じられているのは、事務所として使われると知りながら貸すことです。
逆に言えば、条例が契約書に求めているのは上の2行だけです。標準契約書でいえば、第7条と、第10条第3項・第4項の「何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる」がここに当たります。第10条第3項は「甲又は乙の一方について」と書かれているので、解除できるのは貸主だけではありません。第7条第1項も「甲及び乙は、それぞれ相手方に対し」で始まっていて、大家さんの側も同じ確約をしています。
違反したら、どうなるのですか?
第23条第2項(知って貸した)に違反した場合、条例が用意しているのは罰則ではありません。順番は説明又は資料の提出の求め(第27条第1項)、勧告(第28条)、公表(第29条)です。第29条は、勧告を受けた者が正当な理由なく従わなかったときに「その旨を公表することができる」と定めています。
都合の悪いことも書いておくと、公表は名前が出ます。罰金より軽い話ではありません。募集の仕方より先に、ここを止めておくほうが安いということです。
大家さんは努力義務、仲介会社は義務です
同じ条例の中で、語尾が変わります。
- 貸す人(第23条第1項) 確認するよう努めなければならない
- 貸す人(第23条第3項) 定めるよう努めるものとする
- 代理・媒介をする人(第24条第1項) 助言その他の措置を講じなければならない
第24条第1項は「不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、当該譲渡等をしようとする者に対し、前条の規定の遵守に関する助言その他の措置を講じなければならない」。努力義務ではありません。募集を仲介会社に任せているなら、この助言は本来そちらから来るものです。一度も聞いたことがないなら、聞いてよい話です。

2026年10月1日から変わる3つ
令和8年埼玉県条例第34号による改正が、2026年10月1日に施行されます。オーナーに関係するのは次の3つです。
- 用途地域が禁止区域に加わります(第16条第2項)。第一種低層住居専用地域から工業地域まで12の用途地域が条文に並び、工業専用地域だけが外れています。市街地に建っているアパートの用途地域は、ほぼすべてこの中です
- 都市公園の周囲200メートルが加わります(第16条第1項第9号)。学校・児童福祉施設・公民館・図書館などと同じ扱いになります
- 名義利用等の禁止が新設されます(第22条の2)。第1項は、暴力団員が自らが暴力団員である事実を隠す目的で他人の名義を利用することの禁止。第2項は「何人も、……情を知って、自己又は他人の名義を暴力団員に利用させてはならない」で、主語が「何人も」です
1つ目と2つ目には既存のものへの配慮があり、第16条第3項で施行の際に現に運営されている暴力団事務所には適用しないと書かれています。ただし、その事務所が他の暴力団のものとして開設され、又は運営されたときは、この限りではありません。10月1日にどこかが一斉に閉まる、という制度ではないということです。
3つ目は入居審査にそのまま効きます。申込書の名義と、実際に住む人が違うという場面の話だからです。名義が違うこと自体は珍しくありませんが、「情を知って」通せば、貸す側も条文の中に入ります。人数や同居人の届け出の決め方は二人入居とルームシェアを認めるか|築古アパートのオーナーが人数より先に決める3点に、審査で見る点と見てはいけない点は入居審査でオーナーが見る点と、見てはいけない点|築古アパートで申込を減らさない基準にまとめています。
なお、標準契約書は第7条第1項第3号で「反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと」をすでに確約させています。条例の第22条の2は、契約書が先に置いていた1行に、県の側が追いついた形です。
埼玉・千葉県西部・栃木県南部で確かめること
暴力団排除条例は都道府県ごとに別の条例です。条文番号も、禁止区域の作り方も、県によって違います。物件が県境をまたいでいる方は、県ごとに開く必要があります。埼玉県のものは埼玉県警察のサイトに全文と施行規則、Q&Aが置かれています。
契約書のひな形を仲介会社から受け取っている場合、そのひな形がどの年のどの版かを見てください。平成30年3月版より前のひな形には、催告不要の解除がそろっていないものがあります。契約書の読み方そのものは築古アパートの鍵交換は誰が払うのか|オーナーが特約とシリンダーを決める順番で、特約の効き方の話として書いています。
断定を避ける部分も書いておきます。ここに挙げたのは条文の並びであって、個別の契約が有効かどうか、解除できるかどうかは事情によります。実際に疑わしい申込が来たときは、警察の暴力団排除の相談窓口と、契約書を作った専門家に確認してください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
いま使っている賃貸借契約書を1部開いて、「反社会的勢力の排除」の条文に、次の2つが入っているかだけ見てください。(1)この部屋を暴力団事務所の用に供してはならない旨、(2)判明したときに催告なしで解除できる旨。片方しか入っていない契約書は、実際にあります。
入っていなければ、次に作る契約書から直せば足ります。すでに結んである契約を、これだけのために巻き直す必要はありません。
出典
- 埼玉県暴力団排除条例(平成23年3月18日公布・埼玉県条例第39号/令和8年埼玉県条例第34号による改正・2026年10月1日施行) 埼玉県警察「埼玉県暴力団排除条例」2026年7月9日更新(条例全文・施行規則・Q&A)
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条 e-Gov法令検索・2026年9月15日時点
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版・連帯保証人型)第7条・第10条


