改修工事も100万円を超えると石綿の報告が要ります|築古アパートのオーナーが自分の名前で出す届出は別にあります
空室の見積書に「石綿事前調査費」という行があった。金額は数万円。工事そのものの話ではないので、削ってもらえないかと聞きたくなる。あるいは逆に、その行が1行も入っていない見積書が届いて、安いほうを選びそうになる。昭和築のアパートを持っていると、どちらの場面も起きます。
結論からお伝えすると、解体だけの話ではありません。改修工事でも、請負代金が100万円以上なら石綿の事前調査の結果を国に報告することが義務づけられています。そして、その報告を出すのは工事業者ですが、吹付け石綿や断熱材が見つかったときの届出は、条文上オーナー(発注者)の名前で出します。出す人が途中で入れ替わる、というのがこの分野の分かりにくさの正体です。

調査そのものは、工事の規模に関係なく全部にかかります
根拠は石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)第3条第1項です。
「事業者は、建築物、工作物又は船舶の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業を行うときは……あらかじめ、当該建築物……について、石綿等の使用の有無を調査しなければならない」
金額も面積も書かれていません。クロスの張り替えでも、床の貼り替えでも、建具の交換でも、「改修」であれば調査は必要です。しかも第3条第2項は、調査の方法を設計図書等の文書の確認と、目視による確認の両方と定めています。図面があるからよい、という話でも、見ればよいという話でもありません。
例外は第3条第3項第3号です。新築工事の着工日が平成18年9月1日以降の建物なら、その着工日を設計図書等の文書で確認する方法だけでよい、とされています。裏返すと、平成18年8月31日までに着工した建物は、この省略が使えません。築古アパートはまず全部こちら側です。
さらに第3条第4項で、事前調査は「適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるもの」に行わせなければならないとされています。誰でもよいわけではなく、資格を持った調査者の仕事です。見積書に調査費が1行も入っていないときは、その業者が対象外と判断した理由を必ず聞いてください。
報告が要るのは、解体80平方メートル・改修100万円からです
調査した結果を国に報告する義務は、同規則第4条の2第1項にあります。対象はこの4つです。
- 建築物の解体工事(工事に係る部分の床面積の合計が80平方メートル以上のもの)
- 建築物の改修工事(当該工事の請負代金の額が100万円以上のもの)
- 厚生労働大臣が定める工作物の解体・改修工事(請負代金100万円以上)
- 総トン数20トン以上の船舶の解体・改修工事
解体は面積で、改修は金額で線が引かれています。100万円は税込か税抜かを迷うところですが、条文は「請負代金の額」とだけ書いています。ここは工事契約の内容で扱いが変わるので、業者と労働基準監督署に確認してください。
報告先は所轄の労働基準監督署長で、方法は電子情報処理組織(石綿事前調査結果報告システム)を使ってと条文に書かれています。第4条の2第3項で、様式第一号の報告書を提出する方法に代えることもできます。
2つに分けて発注すれば逃げられますか?
できません。第4条の2第4項が先回りしています。
「第一項各号に掲げる工事を同一の事業者が二以上の契約に分割して請け負う場合においては、これを一の契約で請け負ったものとみなして、同項の規定を適用する」
60万円の内装と50万円の設備に分けても、同じ業者が請けるなら合計110万円の1件として数えます。これは解体の届出で使われる同じ発想で、建物を壊すときの80平方メートルの線も同じ考え方になっています。そちらは解体の届出を出すのは業者ではなく発注者です|築古アパートのオーナーが80平方メートルと7日前で確かめる3点に書きました。
報告を出すのは元請です。オーナーではありません
第4条の2第5項が、誰が出すかを決めています。
「第一項各号に掲げる工事の一部を請負人に請け負わせている事業者(……その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。)があるときは、当該仕事の作業の全部について、当該事業者が同項の規定による報告を行わなければならない」
下請が何社入っていても、いちばん上の元請が、現場全部をまとめて1件で報告します。オーナーが自分で報告システムに入力する場面はありません。
そのうえで、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)側には、オーナーに直接かかる条文が3つあります。
1. 調査の結果は、書面で受け取ります(第18条の15第1項)
「解体等工事の元請業者は、当該解体等工事が特定工事に該当するか否かについて……調査を行うとともに……当該解体等工事の発注者に対し、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない」
調査結果の書面は、オーナーが受け取るものです。口頭で「大丈夫でした」だけなら、条文が求めている形になっていません。もらった書面は捨てないでください。次の工事でも売却でも使います。
2. 調査の費用は、発注者が負担すると書いてあります(第18条の15第2項)
「解体等工事の発注者は、当該解体等工事の元請業者が行う前項の規定による調査に要する費用を適正に負担することその他当該調査に関し必要な措置を講ずることにより、当該調査に協力しなければならない」
ここは意外に知られていません。見積書の調査費は、値引き交渉の対象として法律が想定していない項目です。「適正に負担すること」が発注者の協力義務として条文に置かれています。削ってくれと言うより、内訳を出してもらったほうが筋が通ります。
関連して第18条の16第1項は、発注者は元請業者に対し「施工方法、工期、工事費その他……作業基準の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない」と定めています。「明日までに終わらせて」「この金額でやって」が、条文上まずい形になる場面があるということです。工期と追加費用の考え方は職人に直接頼むとオーナー側に来る3つの役目|築古アパートで元請を外す前に確かめることにも書いています。
3. 吹付け石綿などが出たら、届出はオーナーの名前です(第18条の17第1項)
ここが一番の分かれ目です。条文はこうなっています。
「届出対象特定工事……の発注者又は自主施工者は、当該特定粉じん排出等作業の開始の日の十四日前までに……次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない」
主語は発注者、つまりオーナーです。しかも着手の14日前まで。労働基準監督署への報告(元請が出す)とは、出す人も、出す先も、期限も違います。
「届出対象特定工事」に当たるかどうかは、大気汚染防止法施行令第10条の2が決めています。
「法第18条の17第1項の政令で定める特定建築材料は、吹付け石綿並びに石綿を含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材とする」
一方、同じ施行令の第3条の3は、大気汚染防止法全体でいう「特定建築材料」を「吹付け石綿その他の石綿を含有する建築材料」と、はるかに広く定めています。同じ法律の中に広い言葉と狭い言葉が両方あり、14日前の届出がかかるのは狭いほうだけ、という構造です。スレート屋根やビニル床タイルのような成形板は広いほうには入りますが、14日前の届出の対象にはなりません。
そして罰則があります。大気汚染防止法第34条第1号は、第18条の17第1項の届出をせず、または虚偽の届出をしたときに3月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定めています。届出義務者は発注者なので、この罰則はオーナーに向いています。

ほかにも、書類が動く場面があります
- 現場の掲示(第18条の15第5項)……元請または自主施工者が、調査の記録の写しを現場に備え置き、調査結果を公衆に見やすいように掲示します
- 都道府県知事への報告(第18条の15第6項)……調査を行ったら、元請または自主施工者が遅滞なく報告します。怠ると第35条第4号で30万円以下の罰金です
- 作業完了後の報告(第18条の23第1項)……特定工事の元請業者は、作業が完了したらその結果を遅滞なく発注者に書面で報告します。ここでもオーナーは受け取る側です
- オーナーが自分で施工するとき(第18条の15第4項)……請負契約によらず自ら施工する「自主施工者」は、自分で調査し、記録を作成して保存しなければなりません。届出も第18条の17第1項で自主施工者が出します
最後の1つが、実務でいちばん見落とされます。知り合いの職人さんに材料だけ持ってきてもらって自分で貼る、という形にすると、調査も記録も届出も全部オーナー側に来ます。大規模な修繕になると建築確認まで絡むので、範囲の見極めは木造2階建てのアパートは面積を問わず建築確認の対象です|築古オーナーが大規模修繕の前に見る号の分け方を先に読んでください。
見積書のどこを見ればよいですか?
次の4点です。
- 石綿の事前調査費が入っているか。入っていないなら、対象外と判断した理由と、その根拠になった資料を聞く
- 請負代金が100万円以上かどうか。1棟まとめての改修なら、まず超えます
- 分割した見積になっていないか。同じ業者が2本に分けても、第4条の2第4項で合算されます
- 調査結果の書面を、いつもらえるか。第18条の15第1項で交付が義務です。着工前に受け取ります
費用の相場は、建物の年代・図面の有無・分析が必要かどうかで大きく動きます。分析調査に回ると別料金になるので、「調査費一式」ではなく、書面調査・目視・分析の内訳に分けてもらってください。個別の工事がどの区分に当たるかは、埼玉・千葉県西部・栃木県南部それぞれの労働基準監督署と、都道府県または政令市の大気環境担当に確認するのが確実です。
今日やることを1つだけ選ぶなら
いちばん古い1棟の、新築の着工日を調べてください。平成18年9月1日より前なら、その建物の改修工事は全部、事前調査の対象です。建築確認済証か、建物の登記事項証明書に書かれた新築年月日から当たりがつきます。
そのうえで、次に予定している工事の見積金額が100万円を超えるかどうかだけ見る。超えるなら報告が要る工事です。過去にもらった調査結果の書面が残っていれば、次の工事で使える場合があります。修繕の費用をどう分けるかは20万円と60万円は同じ基準ではありません|築古アパートのオーナーが修繕費の通達を上から順に読むにまとめました。
出典
- 石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)第3条第1項・第2項・第3項第3号・第4項、第4条の2第1項・第3項・第4項・第5項。e-Gov法令検索・2026年9月16日時点
- 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)第2条第11項・第12項、第18条の15、第18条の16、第18条の17第1項、第18条の23、第34条第1号、第35条第4号。e-Gov法令検索・2026年9月16日時点
- 大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号)第3条の3、第3条の4、第10条の2。e-Gov法令検索・2026年9月16日時点


