買主の側の事情で引渡しが遅れたとき、買主は541条・542条の解除ができません|築古アパートのオーナーが読む民法543条

結論からお伝えすると、築古アパートの売買で引渡しが遅れた原因が買主の側にあるとき、買主は民法541条・542条の解除をすることができません。民法543条は、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は前二条の規定による契約の解除をすることができない、と定めています。売買の引渡しの債務では、引渡しを受ける買主が債権者にあたります。遅れの原因が買主の側にあれば、その遅れを理由に解除を言い出せない、という読み方になります。

仮の話です。築古アパートの売買契約を結び、決済と引渡しの日を決めました。ところが当日、買主が残代金を用意できず、立会いの日程も何度か動きました。引渡しは予定より遅れています。買主が「引渡しが遅れたから契約を解除する」と言ってきたとき、売主は何を見ればよいのか。条文の流れを整理します。

543条は、何を決めているか?

  • 543条:債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない
  • 前二条とは:541条(催告による解除)と542条(催告によらない解除)
  • 541条:相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときに解除できる。不履行が軽微なときは除かれる
  • 542条:履行の不能や、履行を拒む意思の明確な表示など、催告をせずに解除できる場面を列挙している

売主の引渡しが遅れたとき、買主は、ふつう541条の催告を出して解除に進みます。543条は、その入口を閉じる規定です。ただし閉じるのは、遅れが「債権者の責めに帰すべき事由」によるときだけです。売主の側の事情で遅れたのであれば、543条は働きません。

引渡しが遅れた原因で、民法543条の解除の入口がどう変わるかを整理した図

「債権者の責めに帰すべき事由」とは、どんな場合か?

条文には、具体的な基準が書かれていません。たとえば、決済日に買主が残代金を用意できなかった場合や、買主が登記の手続きに必要な書類を出さなかった場合、立会いの日を何度も変えさせた場合が、争いになりやすいところです。どれが「責めに帰すべき事由」にあたるかは、契約書の内容と、遅れた経緯の事実で決まります。

仮の話の売主は、遅れの原因が買主の資金にあると考えています。条文だけでは、これが543条にあたるのかを言い切れません。契約書の決済日の定め、融資のローン特約の有無、日程が動いた経緯を書面やメールで残しておき、専門家(弁護士)に見せて確認してください。

引渡しを拒める場面は、543条とは別にあります

売買では、代金の支払いと物件の引渡しは、お互いに相手の履行を待てる関係にあります。民法533条(同時履行の抗弁)は、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができると定めています。買主が代金を提供していないのに、売主が引渡しを待つのは、この条文の範囲で説明できる場面があります。

代金が提供されていないために売主が引渡しを待っているなら、そもそも売主の不履行といえるのかが、まず問われます。543条は、そのうえで、不履行が買主の側の事情によるときに、解除の入口を閉じる規定として働きます。支払日の読み方は、売買契約書に代金の支払日が書かれていないとき、引渡しの期限と同じ期限が付いたものと推定されます|築古アパートのオーナーが読む民法573条・574条にまとめています。

引渡しの遅れの原因が売主の側か買主の側かで、解除の扱いを比べた図

解除できなくなると、買主は何も言えなくなるのか?

543条が閉じるのは、541条と542条による解除です。次の道は、条文の上では別に残っています。

損害賠償については、民法415条1項のただし書きが、債務者の責めに帰することができない事由による不履行には、賠償を認めない形を取っています。遅れの原因が買主の側にあれば、売主が賠償を求められる場面は、条文の上でも狭くなります。

なお、売主が受け取りを待つ立場に回ったときの責任は、退去した入居者の荷物を預かったら、保管の責任は自分の物と同じ注意までです|築古アパートのオーナーが読む民法413条と659条が扱う受領遅滞の考え方とつながります。

都合の悪いことも書いておきます

  • 「債権者の責めに帰すべき事由」にあたるかどうかは、事実の積み重ねで決まります。売主が「買主のせいだ」と言うだけでは足りません
  • 売主の側の準備が遅れていたなら、543条は使えません。物件の鍵、残置物の撤去、必要な書類の準備が、期日にそろっていたかを先に確かめてください
  • 543条は、解除の入口を閉じるだけです。契約そのものが消えるわけではなく、買主の側にも、売主の側にも、別の請求の道が残ることがあります

今日できること

  1. 手元の売買契約書で、決済日と引渡しの日、ローン特約の期限を確かめる
  2. 引渡しが遅れている経緯を、日付つきで書き出す(誰が、何を、いつまでに用意するはずだったか)
  3. 相手方とのやり取りは、メールや書面で残す。口頭の約束は、あとで日付を確認できる形にする

出典

民法415条・533条・541条・542条・543条・557条(e-Gov 法令検索・2026年10月7日時点)。

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