退去した入居者の荷物を預かったら、保管の責任は自分の物と同じ注意までです|築古アパートのオーナーが読む民法413条と659条
結論からお伝えすると、退去した入居者が「荷物はあとで取りに来ます」と言い、大家さんが「分かりました」と預かったとき、その約束は民法657条の寄託(物を預かる契約)と読まれる可能性があります。報酬をもらわない預かりなら、保管の注意は「自己の財産に対するのと同一の注意」で足ります(659条)。入居者が取りに来ないときも、返す準備をして知らせたあとは、同じ程度の注意で足り(413条1項)、保管の費用が増えた分は入居者の負担です(413条2項)。ただし、預かった荷物を大家さんの判断で処分してよいことにはなりません。
仮の話です。退去の立会いの日、入居者が「布団と家電は、来週取りに来ます」と言いました。大家さんは「では、空室の押入れに入れておきます」と答えました。1か月たっても連絡がなく、次の入居者の募集を始めたい。押入れの荷物はどうすればよいのか。条文の考え方を整理します。
「預かる」と言った時点で、何が始まるのか?
- 657条:寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる
- 659条:無報酬の受寄者(預かる側)は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う
- 663条:返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。返還の時期の定めがあるときは、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない
657条は、契約書がなくても、「預かってください」「分かりました」という言葉だけで成り立つと読めます。大家さんにその気がなくても、「置いておきます」という返事が預かる約束と受け取られるおそれがあります。
もう1つ押さえたいのが663条です。「来月末まで預かる」と期限を決めると、やむを得ない事由がなければ、その前に返せません。期限を決めずに預かれば、大家さんはいつでも返還できます。預かるなら、期限を書くかどうかを意識して決めてください。

取りに来ないとき、責任はどこまで軽くなるのか?
413条は、債権者(荷物を受け取る側)が受け取りを拒み、または受け取れない場合を定めています。
- 1項:債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時から引渡しまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる
- 2項:履行の費用が増加したときは、その増加額は債権者の負担とする
400条は、特定物を引き渡す債務者に、本来は「善良な管理者の注意」を求めています。報酬をもらって預かったなら、この水準です。ところが、返す準備をして入居者に知らせたのに受け取りに来ないときは、413条1項により、注意の水準が「自己の財産と同一」まで下がります。さらに、413条の2第2項は、履行の提供があった時以後に、双方に責任のない事由で引渡しが不能になったときは、その不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす、と定めています。
では、どうすれば「履行の提供をした」と言えるのか。493条は、弁済の提供は債務の本旨に従って現実にしなければならないが、債権者があらかじめ受け取りを拒んでいるときなどは、弁済の準備をしたことを通知して受け取りを催告すれば足りる、と定めています。「いつでも返せる状態にした」と書面で知らせ、受け取りを求めた記録が、ここで意味を持ちます。

預かり続けられないとき、処分してよいのか?
条文が用意している道は、大家さんの判断による処分ではありません。
- 494条:弁済の提供をしたのに債権者が受け取りを拒んだとき、または債権者が受領できないときは、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託することができる
- 497条:供託に適しないとき、価格が下がるおそれがあるとき、保存に過分の費用がかかるときなどは、裁判所の許可を得て、目的物を競売にかけ、その代金を供託することができる
供託の基本的な仕組みは、入居者が家賃を供託してきたら、大家はまず受け取りを拒んだ覚えがあるかを確かめます|築古アパートのオーナーが読む民法494条から496条にまとめています。家財の場合は、供託に適さないことが多く、497条の裁判所の許可が出発点になります。許可の要件に当たるかは、事案ごとの判断です。
預かっていない荷物(入居者が置いていった残置物)は、また別の話です。退去後の残置物はオーナーが捨てていいのか|築古アパートの処分と原状回復の負担区分と、アパートの無断駐車と放置自転車をどう止めるか|築古アパートのオーナーが自分で動かす前に踏む3つの段をご覧ください。
都合の悪いことも書いておきます
- 「預かる」と評価されるかは、やりとりの中身で決まります。口頭だけだと、何を預かったのかも、期限があったのかも、後で証明できません
- 413条は、返す準備をして知らせたあとの話です。知らせる前は、大家さんは預かった人としての注意を求められます
- 保管の費用を入居者に請求できても、実際に回収できるとは限りません。連絡が取れない入居者には、そもそも請求が届きません。連絡が取れないときの段取りは、連絡が取れない入居者への対応にまとめています
- 貴重品や、通帳・印鑑・個人情報の入った物が含まれていると、扱いが一段重くなります。弁護士に相談してください
今日できること
- 退去時に荷物を預かる場面があるなら、預かる前に「何を・どこに・いつまで・費用は誰が」を書いた覚書の様式を用意する
- すでに預かっている荷物があるなら、預かった日と中身を写真付きで記録する
- 取りに来ない入居者には、返す準備ができたことと、受け取りを求めることを、書面で知らせる
出典
民法400条・413条・413条の2・493条・494条・497条・657条・659条・663条(e-Gov 法令検索・2026年10月3日時点)。


