「事故物件」になったあとの募集|築古オーナーが決める順番と告知の考え方
結論からお伝えすると、順番は「片付けきる → 告知の範囲を宅建業者と整理する → 募集を組み立てる」です。いちばんやってはいけないのは、原状回復が終わっていない段階で賃料を下げることです。値段は最後に触ります。
管理会社から電話が入るのは、たいてい平日の昼間です。「◯号室の方が、お部屋でお亡くなりになっていました」。警察の確認が終わるまで、部屋には入れません。数日たって鍵を開けると、においが外の廊下まで出ている。畳をめくると、その下の板まで替えることになる。この時点で、オーナーが決めなければならないことが同時に5つくらい並びます。そして電話の翌週には、仲介会社から「あの部屋、どう案内すればいいですか」と聞かれます。

連絡が入った直後の順番
- 警察の確認が終わるのを待つ:先に片付けることはできません
- 相続人・親族に連絡を取る:室内の家財は入居者の財産です。誰の許可で処分するのかを整理しないまま動くと、あとで問題になります
- 連帯保証人・保証会社に連絡する:原状回復や残置物の扱いが契約に含まれるかを確認します
- 保険を確認する:入居者が加入している家財の保険や、オーナー側の保険に特約が付いていることがあります。使えるかどうかを判断するのは保険会社です。着工する前に連絡してください
- 特殊清掃と原状回復の範囲を決める:においが残ると、募集で必ず影響します。ここは削る場所ではありません
残置物の処分と費用の負担については、契約の内容と相続の状況で扱いが変わります。動く前に宅建業者・弁護士にご相談ください。
においはどこまで取ればいいのか
「取れたつもり」で募集を始めると、内見のときに分かります。においは下地まで入るので、表面の張り替えだけでは戻らないことがあります。床下・壁の下地・天井裏まで見てもらってください。ここを中途半端にしたまま賃料を下げると、下げた賃料でも決まらない状態になります。ここを飛ばすと、あとで打ち手が残りません。
告知はどこまで必要なのか
ここは断定できない領域なので、考え方の枠だけ整理します。
一般に、国土交通省は2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しています。そこでは、次のような考え方が示されています。
- 取引の対象となる不動産で発生した自然死や、日常生活の中での不慮の死については、原則として告げなくてもよいとされています
- 賃貸の取引や集合住宅の共用部分については、事案の発生からおおむね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよいとされています
- ただし、借主から問われた場合や、社会的な影響が大きい事案は例外として扱われます
注意してほしいのは、これはガイドラインであって、個別の事案に当てはめた結論ではないことです。自然死であっても、発見までに時間がかかって特殊清掃が必要になった場合など、扱いが変わる場面があります。この部屋をどう説明するかは、必ず宅建業者に、必要なら弁護士にご確認ください。オーナーが自分で線を引く場所ではありません。
伝えずに貸したほうが早く決まるのではないか
いいえ。説明が必要な事案を伝えないまま契約すると、あとで分かったときの損失のほうが大きくなります。入居者との関係も、案内してくれる仲介会社との関係も壊れます。10年20年と貸していく物件で、それは高すぎる代償です。
そのかわり、伝え方は工夫できます。何があったかを事実として簡潔に伝え、そのあとに「どこまで直したか」を具体的に並べる。畳と下地を交換した、床下まで施工した、クロスは全面張り替えた、給湯器も新しくした。直した内容が具体的であるほど、受け止め方が変わります。あいまいな説明が不安を大きくします。

募集をどう組み立てるか
賃料を下げるのは最後です。先に動かせるものが4つあります。
- 部屋の状態を上げきる:においを完全に処理し、内装は同じ物件の他の部屋より一段上の仕上げにします。「事情はあるが、この物件でいちばんきれいな部屋」という状態を作ります
- 写真を撮り直す:明るい時間に、水回りまで入れて枚数を確保します
- 案内する仲介会社に、先に方針を伝える:説明する内容、直した範囲、条件。担当者がその場で答えられないと、その部屋は案内が後回しにされます
- 初期費用のほうを軽くする:賃料そのものではなく、フリーレントや初期費用の項目で調整します。賃料を下げると、次の入居者にも、売却するときの評価にも残ります
賃料に手を付ける前の考え方は 家賃を下げる前に試す4つの手 に、内見のされやすさは 築古物件で「鍵が現地対応でない」ことがどれだけ機会損失になるか にまとめています。
それでも決まらないとき
時間が味方になる部分があります。上のガイドラインの考え方のとおり、賃貸では時間の経過が扱いに影響します。だから、焦って賃料を下げるより、次の3つを並べたほうがいい場面があります。
- 届ける相手を変える:この部屋を誰に案内してもらうかを決め直します
- 一定期間、募集を止める:条件と部屋を整えるための時間として使います
- 売却も選択肢に並べる:建物全体の修繕時期と重なっているなら、持ち続ける前提を一度外して考えます
誰に貸すかの決め方は 築古アパートは誰に貸すか、建物全体の判断は 築40年のアパートはリフォームか建て替えか が材料になります。
まとめ
事故物件になった部屋は、賃料を下げれば決まる部屋ではありません。においと下地を残したまま値段だけ下げると、下がった賃料が固定されて、部屋の状態は変わらないままになります。
今日やることを1つだけ選ぶなら、賃料の話をする前に、原状回復がどこまで終わっているかを自分の目で確認してください。床下と壁の下地まで手が入っているか。そこが済んでいれば、募集は組み立てられます。告知の範囲、残置物の処分、費用の負担については、宅建業者・弁護士・保険会社に必ずご確認ください。


