「管理不全空家」に命令はありません|築古アパートのオーナーが空家法で数える指導・勧告・命令の段

市役所から封筒が届いた。中の紙に「管理不全空家等に該当するおそれがある」と書かれている。思い当たることはある。隣の家から「木の枝が越えてきている」と言われたまま、半年ほど手を付けていない。相続で引き継いだ戸建で、最後に中へ入ったのがいつだったか思い出せない。こういう封筒は、いきなり届きます。

結論からお伝えすると、管理不全空家等に用意されているのは「指導」と「勧告」の2段だけです。命令も、行政代執行も、この段には入っていません。それが出てくるのは「特定空家等」に進んだあとで、しかもその特定空家等でさえ、倒壊のおそれなどがない場合は「壊せ」とは言えません。条文にそう書いてあります。

空家法の手続きが今どの段にいるのかを並べた図。空家等に当たるか、まず出るのは指導、次に勧告が来る、特定空家に進むと22条、代執行の費用は国税滞納処分の例で取られる。

まず「空家等」に当たるかを、常態で見ます

空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)第2条第1項の定義はこうです。

「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地をいう

効いているのは「常態」の2文字です。たまたま今月だけ空いている、という状態は指していません。ただし書で国又は地方公共団体が所有・管理するものは除かれます。

第2条第2項が「特定空家等」で、こちらは①そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態 ②著しく衛生上有害となるおそれのある状態 ③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態 ④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態——このどれかにあると認められるものです。

管理不全空家等は第13条。指導と勧告で終わります

第13条第1項が入口です。「そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」にあると認めるとき、市町村長はその所有者等に必要な措置をとるよう指導をすることができる。この状態の空家等が「管理不全空家等」と呼ばれます。

第13条第2項が次の段です。指導をしたのに状態が改善されず、特定空家等になるおそれが大きいと認めるとき、市町村長は「修繕、立木竹の伐採その他の……必要な具体的な措置について勧告することができる」。

第13条はここで終わりです。命令の規定も、代執行の規定も、この条にはありません。封筒に書かれているのが「指導」なら、勧告の前の段にいます。

なお、住宅用地の特例が外れるのは、この勧告を受けてからです。税の側の数え方は空室で効いてくるのは固定資産税ではなく3年の線です|築古アパートのオーナーが半年を過ぎた部屋で残す5つの記録にまとめています。指導の段階では動きません。

命令が出てくるのは第22条から

第22条第1項は特定空家等への助言又は指導です。ここに、見落とされやすいかっこ書きが入っています。

「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く」

つまり景観や周辺の生活環境を理由に特定空家等とされた場合、市町村長は「建物を壊せ」とは言えません。言えるのは修繕や立木竹の伐採までです。第2項の勧告にも同じかっこ書きが効きます。

第22条第2項が相当の猶予期限を付けた勧告、第3項が命令です。命令に進むのは、勧告を受けた者が正当な理由がなくてその措置をとらなかった場合で、特に必要があると認めるときに限られます。

命令が出る前に、こちらから言えることはありますか?

あります。しかも期限が短いので、ここだけは先に覚えておいてください。

  1. 第22条第4項——命じようとするときは、あらかじめ通知書を交付し、意見書及び自己に有利な証拠を提出する機会を与えなければならない
  2. 第22条第5項——通知書の交付を受けた者は、交付を受けた日から5日以内に、意見書の提出に代えて公開による意見の聴取を請求できる
  3. 第22条第7項——市町村長は、意見の聴取の期日と場所を期日の3日前までに通知し、公告しなければならない
  4. 第22条第8項——意見の聴取に際して、証人を出席させ、自己に有利な証拠を提出することができる

第22条第15項では行政手続法第3章(第12条及び第14条を除く)の規定は適用しないとされています。聴聞や弁明の機会の規定が、いま挙げた空家法の手続に置き換わっているという意味です。除かれていない第12条(処分基準)と第14条(理由の提示)は生きています。処分の理由は示されます。

管理不全空家等と特定空家等で市町村が使える手段を比べた図。管理不全空家等は13条の指導と勧告だけで命令も代執行もない。特定空家等は22条で助言指導、勧告、命令に進み、命令違反は50万円以下の過料。

代執行の費用は、税金と同じ取り立て方になります

第22条第9項が行政代執行です。命令に従わない、従っても十分でない、期限までに完了する見込みがない——このときに、市町村長が自ら、または第三者に行わせることができます。

第10項は、過失なく命令の相手を確知できないときの措置です。市町村長はその者の負担で措置を行えますが、あらかじめ「期限内に行うべき旨」と「行わないときは費用を徴収する旨」を公告しなければなりません。第11項は災害その他の非常時で、命ずるいとまがないときの規定です。

費用の取り立て方は第12項が決めています。行政代執行法第5条・第6条の準用です。第5条で実際に要した費用の額と納期日を定めて文書で納付を命じ、第6条で国税滞納処分の例により徴収することができるとされ、さらに国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権が付きます。普通の債権とは取り立ての強さが違います。

第13項・第14項では、命令をしたときに標識を設置して公示することになっており、所有者等はその標識の設置を拒んだり妨げたりしてはならないとされています。

罰則は「過料」です。刑罰ではありません

第30条第1項——第22条第3項の命令に違反した者は、50万円以下の過料。
第30条第2項——第9条第2項の報告をせず、虚偽の報告をし、又は立入調査を拒み、妨げ、忌避した者は、20万円以下の過料。

過料は行政上の秩序罰で、罰金とは違います。その立入調査にも条件があり、第9条第3項で「その五日前までに」所有者等へ通知しなければならないとされています(通知が困難なときを除く)。第4項で調査に来る人は身分を示す証明書を携帯し、請求があれば提示します。第5項には「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と書かれています。

連絡が取れない共有者がいるときの条文

第14条は民法の特例です。市町村長は、適切な管理のために特に必要があると認めるとき、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任(民法第25条第1項)や相続財産の清算人の選任(同第952条第1項)を請求できます。第2項では地方裁判所に所有者不明建物管理命令(同第264条の8第1項)を、第3項では管理不全土地・建物管理命令(同第264条の9第1項・第264条の14第1項)を請求できます。

「相続人が多すぎて話がまとまらないから動かせない」は、行政の側からは止まりません。相続で共有になった物件の意思決定は相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのか|築古アパートのオーナーが民法252条で引く3本の線を先に読んでください。

都合の悪いことも書いておきます

ここに書いたのは国の法律の枠です。どの状態を管理不全空家等と見るかの具体的な判断は、市町村が国の指針に沿って運用します。埼玉・千葉県西部・栃木県南部でも、担当課の呼び方から通知の様式まで市町村ごとに違います。封筒に書かれた担当課へ電話して、「いまどの条のどの段か」を聞くのがいちばん早いです。

また、建物を壊せば税の扱いも登記も動きます。取り壊したあとの登記の期限は建物を取り壊したら滅失登記は1か月以内です|築古アパートのオーナーが過料と1月1日で見る2つの日付に、貸す以外の回し方は空き家を貸す以外で回す方法|築古物件のオーナーが撤退しやすい順に試すことに分けています。税務の判断は税理士か税務署、法律の判断は弁護士へご確認ください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

届いた紙の中から、条番号と「指導」「勧告」「命令」のどの語が使われているかを探してください。第13条なら指導か勧告で、命令も代執行もまだありません。第22条第3項の命令なら、通知書を受け取った日から5日が意見の聴取を請求できる期限です。日付を見ないまま「役所ともめたくないから言われたとおりにする」と決めると、言われていない工事まで抱えることになります。

出典

  • 空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第2条・第9条・第13条・第14条・第22条・第30条(e-Gov法令検索・2026年9月17日時点)
  • 行政代執行法(昭和23年法律第43号)第5条・第6条(同上)
  • 民法(明治29年法律第89号)第25条・第264条の8・第264条の9・第264条の14・第952条(同上)

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