高齢の入居者が増えた築古アパートの備え|オーナーが整える緊急連絡先と見守り
結論からお伝えすると、高齢の入居者への備えは、入居してからではなく契約のときにほとんどが決まります。用意するのは特別な設備ではなく、「いつでも連絡が取れる状態」を保つ仕組みのほうです。
3月の夕方、入居して12年になる1階の方から電話が入る、という場面があります。「玄関の電球が切れてしまって、脚立に上がれなくて」。伺って交換し、少し世間話をして帰る。用事そのものは5分で終わります。ところが事務所に戻って契約書を開くと、緊急連絡先の欄に書かれた息子さんの番号は、12年前に一度書いていただいたきりです。かけてみても、つながりません。困るのは、この状態のほうです。

備えるのは設備ではなく「連絡が取れる状態」
受け入れるかどうかで迷ったとき、判断の材料になるのは年齢そのものではありません。見るのは次の2つです。
- 連絡が取れる相手が、ご本人以外に何人いるか
- その連絡先が、古くなっていないか
ここが動いていれば、日々の管理は他のお部屋と変わりません。逆にここが止まっていると、水が出ない、家賃が入っていない、工事の立ち会いをお願いしたい、といったどの用件でも手が止まります。設備を新しくするより先に、この一本を通してください。
どなたに貸すかを決めてから募集する順番は 築古アパートは誰に貸すか|オーナーが入居者層を決めてから募集する順番 にまとめています。この記事はその先、入居していただいたあとに何を整えるかの話です。
緊急連絡先は、なぜ1件では足りないのか
契約書の緊急連絡先が1件だけだと、そこにつながらなかった時点で次の手がありません。ご同年代のご兄弟が書かれている場合、ご本人と同じように連絡が取りにくくなることもあります。
- 2件以上いただく。できれば世代の違う方を1件(お子さん、甥姪の方など)
- 続柄と住所も書いていただく。電話番号だけだと、変わったときに追いかけられません
- 更新のたびに書き直していただく。「変更はありませんか」と尋ねると「ありません」で終わってしまうことがあります。白紙の欄に書いていただくほうが確かです
- 控えを1か所にまとめる。契約書のファイルの中だけにあると、夜間に見られません
保証人を立てられない場合の受け皿は 家賃保証会社は築古物件でも使えるのか|オーナーが加入前に決める6つのこと をご覧ください。ただし保証会社は家賃についての取り決めであって、体調や生活の変化に対応するものではありません。緊急連絡先は別に必要です。
入居中の見守りをどう整えるか
費用をかけずにできること
- ゴミ出しの日に共用部を一度歩く。郵便受けのたまり方は外から見えます
- 電気やガスのメーターを、点検のついでに見る
- 年に1回、消防設備や給湯器の点検を名目に室内へ入る機会を作る
- 隣室や1階の方と、あいさつができる関係を作っておく
機器やサービスを使う場合
- 照明や電気ポットの使用、ドアの開閉に反応してご家族へ知らせる機器
- 自治体の見守り・配食・訪問の仕組み。地域包括支援センターが窓口になります
- 民間の見守りサービスや、家主向けの保険に付けられる特約
ここで止まりやすいのは、費用の決め方です。物件で持つのか、入居者にご負担いただくのか、家賃に含めるのかを決めずに導入すると、途中で止まります。そしてご本人の同意なく室内を監視する形にしてはいけません。何のために、どこまで見るのかを書面で説明し、同意をいただいてから始めてください。
室内での事故は、直せる場所から減らす
大がかりな改修をしなくても、手をつけられる場所があります。定規を当てて高さを測り、大きい段差から順に潰していくのが早道です。
- 段差。玄関の上がり框、和室と廊下の境、浴室の入口
- 手すり。浴室・トイレ・玄関。下地のある位置に留める必要があるので、思いつきで打たない
- 照明。玄関と廊下が暗いと足元が見えません。人感センサーの器具は入居中でも交換できます
- 浴室の床。滑り止めのマットや手すりで済むこともあります
畳をやめて床に変えると段差が減ることもありますが、その分の費用はかかりますし、家賃に乗せにくい部分です。判断の順番は 和室を洋室に変えるか|築古アパートのオーナーが費用と埋まりやすさを判断する順番 をご覧ください。工事の中身と金額は、数量の入った見積りで2〜3社を比べてから決めてください。
万一のときの取り決めは、先に専門家と作る
お部屋の中でご入居者が亡くなられたとき、お荷物(残置物)を誰がどう片づけるのか、原状回復や次の募集をどうするのかは、契約の内容やご事情によって扱いが変わります。これは年齢に関係なく、どのお部屋でも起こりうることです。
オーナーの判断だけで動かさないでください。鍵を開けてお荷物を処分する行為は、相続人の方の財産に触れることになる場合があります。
- 残置物の取り扱いを契約の中でどこまで決められるか、弁護士や宅建業者に相談する
- ご親族・相続人の方への連絡の順番を、緊急連絡先とあわせて整理しておく
- 費用に備えられる特約があるか、保険会社に確認する
そのあとの募集の考え方は 「事故物件」になったあとの募集|築古オーナーが決める順番と告知の考え方 にまとめました。

まとめ
年齢を理由にお断りするのは簡単ですが、築古の部屋にとっては受け入れられる条件を1つ手放すことでもあります。埼玉・千葉県西部・栃木県南部のように駅から離れた物件では、なおさらもったいない話です。
整えるのは、連絡先・見守り・段差の3つだけです。順番は、連絡先が先です。
今日やることを1つだけ選ぶなら、契約書のファイルを開いて、緊急連絡先が1件しか書かれていないお部屋がいくつあるかを数えてください。それが、次の更新でお願いする作業リストになります。
残置物の扱い、保険の特約、手直しの要否については、弁護士・宅建業者・保険会社・建築士など、それぞれの専門家にご確認ください。自治体の見守りの仕組みは、お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターにお問い合わせください。


