共有持分を買い取るかどうかは、相続から10年で使える条文が変わります|築古アパートのオーナーが引く線

父から引き継いだ6戸のアパートは、登記簿の甲区に3人の名前が並んでいます。自分が6分の4、妹が6分の1、そしてもう1人。20年前に一度だけ会った従兄弟で、住所は当時のまま、手紙は宛先不明で戻ってきました。

結論からお伝えすると、持分を買い取るかどうかは、「相手と連絡がつくか」と「相続開始から10年が経っているか」の2つで、使える条文が変わります。2021年の民法改正で、連絡がつかない共有者の持分を裁判所を通じて取得する道ができました(民法262条の2)。ただし相続がからむ場合には、10年という期限が付いています。

まず、いつでもできることが1つある

民法256条1項は「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定めています。ただし書で、5年を超えない期間の不分割特約は認められ、2項でその更新も5年までとされています。

協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、258条1項により裁判所に分割を請求できます。ここで裁判所が命じられる方法が、2021年の改正で条文に書かれました。

  • 258条2項1号:共有物の現物を分割する方法
  • 258条2項2号:共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
  • 258条3項:前項の方法で分割できないとき、または分割により価格を著しく減少させるおそれがあるときは、競売を命ずることができる

2号が、いわゆる賠償分割です。「お金を払って、相手の持分をこちらが取る」という形が、条文に正面から書かれました。アパートは物理的に切り分けられないので、実務ではこの2号か、3項の競売かに進みます。

258条4項は、裁判所が金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができるとしています。判決で登記まで動かせるということです。

共有持分の扱いが相続開始から10年で変わることを、まだ経っていない・経ったあと・異議・所在不明の4つに分けて並べた図

ところが、相続がからむと258条は使えない

ここが見落とされやすい場所です。民法258条の2第1項は、共有物やその持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産の分割をすべきときは、258条による分割をすることができないとしています。遺産分割は家庭裁判所の手続きで、共有物分割は地方裁判所の手続き。入口が別なのです。

そして2項に期限があります。

共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。

ただし書があり、遺産分割の請求があった場合に相続人が異議を申し出たときは、この限りではありません。3項によれば、その異議は、裁判所からの通知を受けた日から2か月以内に出す必要があります。

10年という線は、相続の場面でほかにも出てきます。遺産が共有のまま動かないときに誰の同意で貸せるかは、相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのか|築古アパートのオーナーが民法252条で引く3本の線にまとめています。

連絡がつかない共有者がいるとき

民法262条の2第1項は、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、裁判所が、請求した共有者にその「所在等不明共有者」の持分を取得させる旨の裁判をすることができるとしています。請求した共有者が2人以上いるときは、持分の割合で按分して取得します。

この手続きには、押さえておく制限が3つあります。

  1. 262条の2第2項:同じ不動産について258条1項の分割請求や遺産分割の請求があり、他の共有者が異議の届出をしたときは、裁判所はこの裁判をすることができない
  2. 262条の2第3項:所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産分割をすべき場合に限る)で、相続開始の時から10年を経過していないときは、この裁判をすることができない
  3. 262条の2第4項:持分を取得した後も、所在等不明共有者は取得された持分の時価相当額の支払を請求することができる

4項が重要です。持分は手に入りますが、支払いの義務が消えるわけではありません。実務では、裁判所が定めた額を供託したうえで裁判を受けるかたちになります。「連絡がつかないから、ただで取れる」制度ではありません。

売るために使う条文は、別にあります

買い取るのではなく、1棟をまとめて第三者に売りたいときは262条の3です。1項は、他の共有者の全員が特定の者に持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分をその特定の者に譲渡する権限を裁判所が付与できるとしています。

3項により、譲渡したあとも所在等不明共有者は、不動産の時価相当額を持分に応じて按分した額の支払を請求できます。2項の10年制限は262条の2と同じです。

売却を出口に考えるなら、価格の付き方も先に見ておいたほうが順番を間違えません。売る前にまとめておく書類はアパートの修繕履歴は重要事項説明に出てきません|築古アパートのオーナーが売る前にまとめる4つの束にあります。

連絡がつかない共有者がいるときに、持分を買い取る民法262条の2と、全員で第三者に売る262条の3を左右に比べた図

買い取ると決める前に、数字で見ておくこと

埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートで、6分の1の持分を買い取る場面を考えます。

いずれも税務と法務がからむため、実際に動く前に弁護士と税理士の両方に当たってください。ここは一般論の範囲で書いています。

今日やることを1つだけ選ぶなら

登記簿謄本を取って、甲区の持分と、相続開始の日を紙に書き出してください。相続開始から10年が経っているかどうかで、使える条文が変わります。経っていなければ、いま急いでも動きません。経っていれば、258条の2第2項と262条の2第3項の両方が開いています。

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