入居者が自己破産しても、オーナーから解約はできません|築古アパートのオーナーが破産管財人へ出す催告

家賃が2か月遅れたところで督促の電話をかけたら、本人ではなく弁護士事務所につながった。数週間後、裁判所から「破産手続開始決定」と書かれた通知が届く。築古アパートを長く持っていると、いつかは当たる場面です。ここで多くのオーナーが「破産したのだから出ていってもらえる」と考えます。

結論からお伝えすると、入居者が自己破産しても、オーナーの側から契約を解約する権利は生まれません。契約を続けるか終わらせるかを決めるのは破産管財人です(破産法53条1項)。ただし、オーナーが黙って待つしかないわけでもありません。53条2項の催告を出せば、管財人が期限内に答えないこと自体を「解除」として扱えます。そして未収の家賃は、開始決定の日を境に、回収できる見込みがまったく違う2つの層に割れます。

入居者が自己破産したときにオーナーが確かめる6点をまとめた図。解約権は生まれず破産管財人が選ぶこと、催告に答えがなければ解除とみなされること、保証人への請求は残ることを示している。

「破産したから解約できる」の条文上の根拠はどこにもない

まずここを確かめておきます。現行の民法に、借主の破産を理由にオーナーが解約を申し入れられる条文はありません。民法621条は賃借人の原状回復義務を定めた条文で、破産とは関係がありません。

破産法の側から見ても同じです。破産法53条3項は、破産手続が始まったときに当事者が解約や解除をできる場面として、民法631条前段と642条1項前段の2つだけを挙げています。631条は雇用について定めた条文で、見出しは「使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ」です。642条は請負の注文者が破産した場合の解除です。

建物の賃貸借は、この2つのどちらにも入っていません。雇用と請負については破産を理由に抜けられる道が用意されているのに、賃貸借については用意されていない。条文を並べると、その差がはっきり見えます。

決めるのは破産管財人(53条1項)

破産法53条1項は、双務契約について破産者とその相手方が開始の時点でともに履行を完了していないとき、破産管財人は「契約の解除をする」か「破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求する」かを選べると定めています。

賃貸借はこれに当たります。入居者の側は家賃を払い続ける義務が残っており、オーナーの側も部屋を使わせる義務が残っているからです。どちらもまだ終わっていないので、管財人に選択権が渡ります。

管財人が履行を選べば、契約はそのまま続きます。入居者はそのまま住み続け、家賃も入ります。生活の基盤なので、実際に住み続ける方向で処理されることは珍しくありません。

管財人から何も連絡が来ないときは、どうすればよいのか

ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。破産法53条2項は、相手方すなわちオーナーの側から、管財人に対して催告できると定めています。

条文はこうです。相手方は破産管財人に対し「相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる」。そして続けて、「破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす」と定めています。

沈黙が解除として扱われる、という珍しい形の条文です。連絡がつかないまま何か月も空室にできない部屋を抱え込む、という事態を避けるための道がここに用意されています。相当の期間がどれくらいかは事案によるので、実際に出すときは弁護士に文面と期間を確認してください。

未収の家賃が破産手続開始決定の日で二つに割れることを左右で比べた図。開始決定より前の分は破産債権で配当を待ち、後の分は破産法148条1項8号の財団債権になることを示している。

未収の家賃は、開始決定の日で2つに割れる

回収の見込みを分けるのが、この線です。

開始決定より前に発生していた滞納分は、破産債権になります。他の債権者と同じ列に並び、配当を待つことになります。実際に戻る割合は事案によりますが、全額が戻る前提で考えるものではありません。

一方、開始決定より後の家賃は財団債権です。根拠は破産法148条1項8号で、条文は「破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第五十三条第一項又は第二項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権」を財団債権とすると定めています。

注目していただきたいのは、かっこ書きです。この号は「賃貸借契約の解除」を名指しで書き込んでいます。53条1項の解除だけでなく、先ほどの53条2項による解除、つまり管財人が答えなかった場合まで含めて名指しされています。

財団債権は配当の手続を待たずに支払われる扱いなので、破産債権とは位置がまったく違います。つまり53条2項の催告を出すことには、契約を終わらせる意味だけでなく、財団債権として扱われる期間の終わりをはっきりさせるという意味もあります。

なお、解除によってオーナーに損害が出た場合、その損害賠償は破産債権です。破産法54条1項が「相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる」と定めています。解除そのものは早くできても、それによる損害の回収は元の列に戻るということです。

保証会社と連帯保証人には、免責は及ばない

免責が確定すると、破産した本人は破産債権について責任を免れます(破産法253条1項)。ではオーナーの未収は全部消えるのか、というとそうではありません。

破産法253条2項は、免責許可の決定は「破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利」に影響を及ぼさないと定めています。連帯保証人や家賃保証会社に対する請求は、入居者本人の免責とは別に残るということです。

だからこそ、申込の段階で保証の形を決めておくことが効いてきます。保証会社の使い方は家賃保証会社は築古物件でも使えるのか|オーナーが加入前に決める6つのことに、保証人も保証会社も付けられない申込への対応は保証人も保証会社も付けられない申込が来たとき|築古アパートのオーナーが断る前に見る3つの制度にまとめています。連帯保証の効力が切れる場面は連帯保証人の保証が切れる3つの場面|極度額を書いていない契約は無効ですで扱っています。

そもそも、いつ知ることができるのか

破産法32条1項は、裁判所が開始決定をしたときは直ちに、決定の主文や破産管財人の氏名などを公告しなければならないと定めています。さらに32条3項1号は、破産管財人・破産者に加えて「知れている破産債権者」にも通知しなければならないとしています。

逆にいえば、滞納が債権として認識されていなければ、通知の対象から漏れる可能性があります。埼玉県や千葉県西部、栃木県南部で管理会社を入れている物件なら、滞納の記録が管理会社側にあるかどうかも合わせて確認しておくと動きが変わります。滞納が起きた直後の動き方は家賃滞納の対応は最初の1週間で決まる|築古アパートのオーナーがやる順番にまとめました。

今日やることを1つだけ選ぶなら

いま滞納が出ている部屋について、保証会社か連帯保証人のどちらが付いているかを一覧にしてください。入居者本人の免責では消えない相手が誰なのかを先に把握しておけば、破産の通知が届いた日に慌てずに済みます。

なお、破産手続の中での個別の判断は事案ごとに変わります。実際に通知が届いたときは、催告の文面や期間の置き方も含めて、弁護士に確認したうえで動いてください。この記事でお伝えしたのは、動く前に知っておくと選択肢が増える条文の位置です。

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