お知らせの投函を業者に頼むと、頼んだ側も郵便法に触れます|築古アパートのオーナーが入居者への連絡を1本にする順番
受水槽の清掃で1日だけ断水する。8戸に知らせる方法は、玄関ドアへの投函、掲示板の貼り紙、そして3人だけ知っている携帯番号へのショートメッセージ。前回は貼り紙を見ていない入居者から「聞いていない」と電話が来た。今回は投函を業者に頼もうかと思って、見積りを取ろうとしたところで手が止まった。
結論からお伝えすると、入居者へのお知らせは郵便法でいう「信書」に当たります。自分でポストに入れるぶんには何の問題もありませんが、許可を持たない業者に配達を頼むと、頼んだ側も郵便法第4条第5項に触れます。連絡手段を1本にするときは、この線を先に引いておきます。

お知らせは、法律上「信書」です
郵便法第4条第2項に、信書の定義がそのまま書かれています。
「他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない」
断水のお知らせは、特定の受取人(各戸の入居者)に対して、事実を通知する文書です。定義にそのまま当てはまります。そのうえで同条第5項が、頼む側を縛っています。
「何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書の送達を委託してはならない」
禁じられているのは配る側だけではありません。「何人も」で始まり、委託する側も対象に入っています。罰則は第76条第1項で、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
では、どうやって配ればいいのですか?
方法は3つあります。
- 自分で、または自分の従業員が投函する——「送達を業とする」に当たらないので、第4条の話になりません
- 郵便で送る——日本郵便が行うので当然に適法です。届いたかどうかを残したいときは配達証明を付けます
- 信書便の許可を持つ事業者に頼む——民間事業者による信書の送達に関する法律にもとづく許可事業者であれば、第4条第5項の禁止に当たりません
頼む前に確かめるのは、料金でも速さでもなく「信書を扱えるか」です。ポスティングの見積りを取るときに、この1行を聞くだけで分かれます。
入居者へのメールは、広告メールの規制の外にあります
メールやメッセージアプリに一本化したい、という相談は増えています。ここでよく心配されるのが、いわゆる迷惑メール規制です。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律は、第2条第2号で対象をこう定義しています。
「電子メールの送信をする者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。)が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メールをいう」
かかっている条件は「広告又は宣伝を行うための手段として」です。断水のお知らせ、工事の日程、更新の案内は、広告でも宣伝でもありません。この法律の対象に入らないので、第3条第1項の同意も、第4条の表示義務もかかりません。
ただし、境目は自分で作れてしまいます。同じメールの末尾に「空いている部屋があります。お知り合いにご紹介ください」と1行足した瞬間、そのメールは営業の広告を行うための手段になります。そうなると第3条第1項により、あらかじめ送信を求める旨または同意する旨を通知した人以外には送れません。さらに第3条第2項で同意があったことを証する記録の保存、第4条で送信者の氏名または名称と、受信拒否の通知先の表示が要ります。
お知らせと募集を、同じ配信に混ぜない。これだけで、規制の外側に居続けられます。
管理会社に連絡先を渡すのは、第三者提供ですか?
違います。個人情報の保護に関する法律第27条第5項第1号が、こう書いています。
「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」は、提供を受ける者を第三者に該当しないものとする
管理を委託している会社へ入居者の連絡先を渡すのは委託なので、本人の同意は要りません。ただし、義務が消えるわけではなく、第25条が残ります。
「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」
渡したあとの管理まで、オーナー側の義務です。職人に修繕へ行ってもらうために電話番号を伝えるのも、同じく委託にもとづく提供です。防犯カメラの映像を誰に渡すかと同じ法律の、別の条文の話になります。

一本化するときの決め方
手段を1つに絞るのではなく、用件の種類で手段を固定するのが現実的です。
- 全戸に同じ内容を伝える(断水・清掃・工事)——各戸へ投函+掲示。自分で入れる
- 相手を特定して、届いたことを残す必要がある(更新、契約に関わる通知)——郵便。必要なら配達証明
- 急ぐ、双方向のやりとりが要る(設備の不具合、日程調整)——電話またはメッセージ
- 募集や紹介のお願い——上の3つと混ぜない。同意を取った人にだけ
そして、どの手段でも共通して効くのが民法第97条第1項の到達主義です。送った時点ではなく、相手に到達した時点で効力が生じます。連絡がつかない相手に何をどこまでやれば足りるのかは、連絡がつかない入居者との契約をどう終わらせるかで扱っています。一本化を考える本当の理由は、伝えやすさではなく、届いたと言える記録を残すためです。
高齢の入居者が増えている物件では、メールやアプリへの一本化がそのまま連絡不能につながります。緊急連絡先と見守りの整え方で書いたとおり、手段を減らすことと、届く経路を1本にすることは別です。
個別の判断、とくに信書に当たるかどうかの当てはめは、文書の中身によって変わります。この記事は条文がどこで線を引いているかを並べたもので、個別の判定をするものではありません。迷うときは総務省の窓口や弁護士にご確認ください。
今日やることを1つだけ選ぶなら、次に全戸へ配るお知らせを、誰が投函するのかを決めてください。自分か従業員なら、そのまま進めて差し支えありません。外に頼むなら、信書を扱えるかを先に聞く——それだけで線の内側に留まれます。埼玉・千葉県西部・栃木県南部で複数棟を持っていると、投函を外に出したくなる場面が必ず来ます。


