最上階が暑くて決まらないアパートで大家が打てる手|熱中症警戒アラートは法律では「情報」という名前です
同じ間取りの1階と2階が同時に空きました。1階は3週間で決まり、2階は2か月たっても決まりません。内見に来た方が玄関を開けて2歩入り、「ちょっと暑いですね」と言って、そのまま帰った日がありました。西向きの部屋でもありません。上に何もない、それだけの違いです。
結論からお伝えすると、最上階の暑さは屋根と、その下の空間から来ています。打てる手は「屋根」「窓」「設備」の3つの層に分かれていて、費用も効き方もまるで違います。あわせて、夏の掲示に使える制度が法律の側にあります。ただしその情報が大家に届く経路は、法律の中にありません。

なぜ最上階だけが暑くなるのでしょうか
2階建てアパートの1階には、上に部屋があります。夏の日射で屋根が受けた熱は、まず最上階の天井裏にたまり、そこから天井を通って室内に降りてきます。1階の天井の上にあるのは2階の床なので、同じ熱の道が通りません。最上階だけが、屋根の熱を直接受け持っています。
だから、最上階の暑さ対策は室内から始めても効きが薄い。手を入れる順番は、上から下です。
「熱中症警戒アラート」は、法律では別の名前です
夏になると必ず聞く言葉ですが、法律の条文にこの名前は出てきません。気候変動適応法18条です。
環境大臣は、気温が著しく高くなることにより熱中症による人の健康に係る被害が生ずるおそれがある場合(中略)に該当すると認めるときは、期間及び地域を明らかにして、当該被害の発生を警戒すべき旨の情報(第二十条において「熱中症警戒情報」という。)を発表し(中略)これを一般に周知させなければならない。
さらに19条が、上位の情報を置いています。
環境大臣は、気温が特に著しく高くなることにより熱中症による人の健康に係る重大な被害が生ずるおそれがある場合(中略)に該当すると認めるときは、期間、地域その他環境省令で定める事項を明らかにして、当該被害の発生を特に警戒すべき旨の情報(以下この節において「熱中症特別警戒情報」という。)を発表し、関係都道府県知事に通知する(後略)
環境省自身が「従前から運用してきた『熱中症警戒アラート』が『熱中症警戒情報』として位置づけられる」と書いています(令和5年の法改正)。アラートは通称で、法律上は「情報」です。ここを知っていると、市の資料や条例で「熱中症特別警戒情報」と書かれていても、同じものだと分かります。
2つは、発表の基準がまったく違います
令和8年度は2026年4月22日から運用が始まっています。基準は環境省の報道発表にこう書かれています。
- 熱中症警戒アラート ── 府県予報区等内の暑さ指数(WBGT)情報提供地点のいずれかで、翌日または当日の日最高暑さ指数が33以上と予測される場合。発表は前日の午後5時と当日の午前5時
- 熱中症特別警戒アラート ── 都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点で、翌日の日最高暑さ指数が35以上と予測される場合。発表は前日の午後2時
「いずれか」と「全て」、33と35。この2つの差が、そのまま出やすさの差です。特別のほうは、県内のどこか1か所が涼しいだけで出ません。「特別警戒が出ていないから今日は安全」という読み方ができないのは、このためです(出典:環境省「令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します」)。
大家に連絡が来る経路は、条文の中にありません
19条の続きに、伝達の道筋が書かれています。
2 都道府県知事は、前項の規定による通知を受けたときは、関係市町村長(中略)にその旨を通知しなければならない。
3 市町村長は、前項の規定による通知を受けたときは、当該通知に係る事項を住民及び関係のある公私の団体に伝達しなければならない。
環境大臣 → 都道府県知事 → 市町村長 → 住民、という順です。賃貸住宅のオーナーや管理会社を名指しした条文は、どこにもありません。入居者は住民として市の情報を受け取りますが、それが自分の物件の掲示板に貼られるわけではない。掲示は大家の仕事として残っています。

特別警戒情報が出ると、開く場所が決まっています
これは知っておくと掲示の中身が変わります。同法21条1項で、市町村長は「適当な冷房設備を有すること」などの基準を満たす施設を指定暑熱避難施設として指定できます。通称はクーリングシェルターです。そして5項。
指定暑熱避難施設の管理者は、当該指定暑熱避難施設の存する区域に係る熱中症特別警戒情報が発表されたときは(中略)当該指定暑熱避難施設を開放しなければならない。
努力義務ではなく、義務です。しかも指定できるのは公共施設だけではありません。2項と3項で、市町村以外の者が管理する施設も、管理者の同意と協定で指定できると定めています。環境省の説明でも、公民館・図書館とならんでショッピングセンターが例に挙げられています。
4項で、名称・所在地・開放できる日と時間帯・受け入れ可能な人数は公表しなければならないことになっています。つまり、自分の物件がある市のクーリングシェルターは、調べれば必ず一覧で出てきます。「暑い日はここが開きます」と場所を書いた1枚を掲示板に貼れるのは、この公表義務があるからです。高齢の入居者がいる棟では、この1枚の価値が大きい。
屋根から順に、打てる手と費用を並べる
建物側の話に戻します。上から順です。
- 遮熱塗装 ── 1平方メートルあたり3,000〜6,000円
- 遮熱屋根材への葺き替え・重ね葺き ── 1平方メートルあたり6,000〜13,000円
- 遮熱シート ── 1平方メートルあたり2,500円前後
いずれも足場の設置費が15〜20万円ほど別途かかります(出典:リショップナビ「屋根の遮熱対策リフォーム費用相場は?築年数別の遮熱方法や事例も紹介」2025年12月12日更新)。この足場代が、屋根の工事を「思いついたときにやる」ものにさせない理由です。外壁塗装や防水と時期を合わせれば、足場は1回で済みます。陸屋根の防水を足場から逆算する考え方は陸屋根の防水はいつやるか|築古アパートのオーナーが足場から逆算して決めるに書きました。
同じ出典に、見落としやすい注意が添えられています。遮熱シートについて「基本的には屋根裏に熱が溜まりやすくなるため、棟換気を設置するなどの対策が合わせて必要となります」。熱を跳ね返すだけでは、跳ね返しきれなかった分が天井裏にこもります。入れることと、抜くこと。この2つは対で考えるものです。断熱の指標そのものについては民間賃貸の断熱と遮音|国が20%と置いた線を築古アパートのオーナーはどう受けるかで扱っています。
エアコンは、夏に頼むと高くなります
設備の層です。大家さんの内装屋の価格表では、エアコンの設置(本体と標準取付工事込み)に7〜9月のハイシーズン価格が別に立っています。
- 6畳用(2.2kW)── 通年でだいたい7万円程度、7〜9月はだいたい7万6千円程度(税別)
- 8畳用(2.5kW)── 7〜9月はだいたい9万円台(税別)
- 10畳用(2.8kW)── 7〜9月はだいたい10万円台(税別)
差はおおむね6千円前後です。既存機の撤去と処分は、それぞれ別に数千円かかります。この金額は業者価格かそれ以下で、大家さんが単発で1件だけ頼む一般消費者価格は、ここから2〜3割ほど上と考えてください。
夏に壊れてから動くと、この上乗せに加えて、工事の順番待ちが乗ります。最上階の空室は、募集を始める前に決めておくところです。エアコンが「貸主の設備」なのか「前の入居者の置いていったもの」なのかを決めておく話は熱中症で運ばれた場所の1位は住居|大家が空室のうちに決めるエアコンの扱いが詳しく、実際に真夏に壊れた連絡が来たときの動き方は真夏にエアコンが壊れた連絡が来たら|築古アパートのオーナーが最初の24時間で決める順番にまとめてあります。
賃料を下げる前に、順番があります
最上階が決まらないとき、いちばん早い手は賃料を下げることです。ただし、下げた賃料は次の入居者にも、その次にも続きます。月3,000円下げれば、4年住んでもらって14万4千円。遮熱塗装と足場の半分くらいは、そこで消えます。
順番としては、こう考えます。
- 窓まわりで今日できること(遮光カーテンレールの有無、すだれを掛けられるフックの位置)を確かめる
- エアコンの能力が部屋に合っているかを見る(畳数の目安より小さい機種が付いていないか)
- 屋根の工事は、外壁や防水と時期を合わせて足場を1回にする
- それでも決まらないときに、賃料を動かす
1と2は、空室のうちなら費用も工期も小さく済みます。入居中に「暑いので何とかしてほしい」と言われてからでは、選べる手が減ります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
物件のある市のクーリングシェルター(指定暑熱避難施設)の一覧を調べて、掲示用の1枚にしておくこと。費用はかかりません。市が公表している義務のある情報なので、探せば必ず出てきます。屋根の工事は足場の都合で来年になっても、この1枚は今日から貼れます。
条文の引用は e-Gov 法令検索の気候変動適応法(2026年9月7日時点)、発表基準は環境省「令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します」および環境省熱中症予防情報サイト「熱中症特別警戒情報とは」によります。屋根の工法が自分の建物に使えるかどうかは、屋根の状態と下地によって変わるため、現地を見た施工業者または建築士にご確認ください。


