民間賃貸の断熱と遮音|国が20%と置いた線を築古アパートのオーナーはどう受けるか
結論からお伝えすると、国が置いた「2035年度に20%」という線は、築古を切り捨てる線ではありません。いま民間賃貸住宅で、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅は9.8%です。10戸に1戸しかないということでもあります。そして音のほうは、アパートの壁に数値の決まった基準がすでにあります。「木造だから仕方ない」で終わる話ではありません。
2026年3月27日に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)に、次の成果指標が入りました。
民間賃貸住宅のうち、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅の割合【9.8%(2023(令和5))→ 20%(2035(令和 17))】

この数字は何を判定するものではありません
先に枠を書きます。これは全国計画に掲げる目標の進捗を測るための成果指標であって、個々の物件が基準に合っているかどうかを判定する制度ではありません。「一定の断熱性能」「遮音対策が講じられた」が具体的に何を指すかは、計画本文にも、公表されている成果指標・重要観測指標の資料にも書かれていません。したがって、この記事では「自分の物件が9.8%の中に入るかどうか」の判定はしません。
それでも、この指標には読む値打ちがあります。断熱と遮音が、ひとつの指標にまとめて入っていることです。国は民間賃貸の住み心地を、この2つの組み合わせで見ています。
計画の別紙にも、2つは別々に立っています
同じ計画の別紙1(住宅性能水準)には、こう書かれています。
- (6)断熱性等 快適な温熱環境の確保が図られるように、結露の防止等に配慮しつつ、断熱性、気密性等について、適正な水準を確保する。また、住戸内の室温差が小さくなるよう、適正な水準を確保する。
- (9)遮音性等 隣接住戸、上階住戸からの音等が日常生活に支障とならないように、居室の界床及び界壁並びに外壁の開口部の遮音等について、適正な水準を確保する。
遮音のほうに「外壁の開口部」=窓が入っているのが目にとまります。断熱でやることと遮音でやることが、窓のところで重なります。
木造アパートの音は、直しようがないのでしょうか
ここが今日の本題です。アパートの戸境の壁には、建築基準法で数値の決まった基準があります。
建築基準法30条1項は「長屋又は共同住宅の各戸の界壁」について、2つの基準を挙げています。
- 隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものまたは大臣の認定を受けたものであること
- 小屋裏又は天井裏に達するものであること
1号の「政令で定める技術的基準」が、建築基準法施行令22条の3です。表になっていて、透過損失が次の数値以上であることと定められています。
- 125ヘルツ 25デシベル以上
- 500ヘルツ 40デシベル以上
- 2,000ヘルツ 50デシベル以上
低い音ほど基準が緩いのが読み取れます。125ヘルツは25デシベル、2,000ヘルツは50デシベル。低音(足音、ドアの開閉、低い話し声の芯の部分)は、基準どおりに造られた壁でも通りやすい、ということです。入居者から「隣の音が聞こえる」と言われたときに、どの高さの音かを聞き取ると、原因の切り分けが変わります。
「界壁は必ず小屋裏まで」は、いまの条文では正しくありません
築古アパートでよく言われるのが「天井裏で壁が途切れているから音が回る」という話です。実際、法30条1項2号は小屋裏または天井裏に達することを求めています。
ただし、同じ条の2項にこう書かれています。
前項第二号の規定は、長屋又は共同住宅の天井の構造が、隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために天井に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものである場合においては、適用しない。
天井側が基準を満たしていれば、界壁が小屋裏まで達していなくてよい、という定めです。天井に求められる技術的基準は、令22条の3第2項によって壁と同じ数値(125Hz・25dB、500Hz・40dB、2,000Hz・50dB)とされています。
ただし、防火の側の条文は残ります
ここを取り違えないでください。いま見たのは「音」の条文です。「火」の条文は別にあります。
建築基準法施行令114条1項は、こう書いています。
長屋又は共同住宅の各戸の界壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の界壁を除く。)は、準耐火構造とし、第百十二条第四項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。
遮音の30条2項で「小屋裏まで達しなくてよい」となっても、防火の114条1項は別に効いています。こちらにも大臣が定める部分などの除外はありますが、音の条文と同じ理屈で外れるわけではありません。「天井で代替できると聞いたので小屋裏の壁を開けた」という判断は、ここで引っかかります。
自分の建物の界壁がどうなっているか、どの条文がかかるかは、建築士か特定行政庁に確認してください。この記事では判定をしません。天井裏を開けて見る作業自体、下地や配線を傷めるおそれがあるので、オーナーが1人でやるところではありません。

断熱のほうは、窓から始めるのが現実的です
築古アパートで壁を剥がして断熱材を入れるのは、入居中はできません。空室のうちに、しかも1室ずつとなると、費用も工期も重くなります。先に窓を触るほうが、遮音(外壁の開口部)にも同時に効きます。
内窓(既存の窓の内側にもう1枚入れる)の費用相場は、次のように紹介されています。
- 小窓 3〜8万円
- 腰高窓 5〜12万円
- 掃き出し窓 8〜20万円
1窓だけの施工であれば5〜15万円程度が一般的、とされています(出典:リショップナビ「内窓リフォームの費用相場はいくら?窓サイズ別・補助金別に解説」2026年6月29日更新)。
大家さんの内装屋の料金表には、内窓の項目はありません。クロスやクッションフロアのような数の出る工事ではないので、当社の業者価格を並べて比べることができません。上の数字は一般消費者向けの相場として置いています。複数室をまとめて発注すると単価が動くところなので、見積は必ず窓の種類と数を書いて取ってください。
この指標を、募集にどう使うか
9.8%という数字は、裏返すと「やっている物件が10戸に1戸しかない」ということです。築古であることは変えられませんが、同じ家賃帯の中で、窓の内側にもう1枚入っている部屋はほとんどありません。
募集図面の設備欄に書けること、内見で言えることが1つ増えます。設備を足すときの見られ方はインターネット無料は築古賃貸でも導入できるか|オーナーが確かめる順番や電気温水器のままでいいのか|築古賃貸の募集での見られ方と交換の判断順と同じ考え方で見てください。結露の相談が来たときの対応は結露とカビの相談が入居者から来たとき|築古アパートのオーナーが最初にやることと負担の分かれ目にまとめています。
今日やることを1つだけ選ぶなら
空室の窓を1つ選んで、種類(小窓・腰高窓・掃き出し窓)と枚数を数えてください。それだけで見積が取れる形になります。数えるついでに、いまのサッシがアルミの1枚ガラスかどうかも見ておくと、話が早くなります。
費用をかける順番を全体で決めたいときは家賃を下げる前に試す4つの手|築古アパートのオーナーが順番に確かめることを、収支の中でどこに使うかは満室なのにお金が残らない築古アパート|オーナーが収支のどこを見直すかをご覧ください。


