職人に直接頼むとオーナー側に来る3つの役目|築古アパートで元請を外す前に確かめること
結論からお伝えすると、職人に直接頼むと安くなるのは本当です。ただし、間に入っていた会社が持っていた役目が、そのままオーナー側に移ってきます。移ってくるのは大きく3つ。契約書面をつくる役、同じ現場に2社以上入るときに統括する1社を指名する役、そして解体をともなう工事の届出をする役です。3つとも法律に書かれていて、うち2つには罰則か行政の手続きが付いています。
「クロス屋さんと直接やり取りできれば、1㎡あたり数百円は違う」という話は、埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートでも珍しくありません。金額の効果は確かにあります。だから、金額の話より先に、来る役目のほうを先に見ておきます。

1つめ:相手に建設業の許可がないことは、普通に起こる
建設業法3条1項は、建設業を営もうとする者は国土交通大臣または都道府県知事の許可を受けなければならないとしていますが、ただし書で「政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない」としています。その軽微な工事の範囲は施行令1条の2で、工事1件の請負代金の額が500万円(建築一式工事は1,500万円)に満たない工事、または建築一式工事のうち延べ面積が150㎡に満たない木造住宅を建設する工事と決められています。
空室1室の原状回復は、ほぼ全部この中に入ります。つまり許可を持っていない職人・一人親方と契約することは、法律上まったく普通のことです。ここを「無許可だから危ない」と読むのは正確ではありません。
ただし、覚えておく点が2つあります。ひとつは、許可を持たない相手には建設業法20条の見積の規定(材料費等記載見積書の交付義務など)が法律としてはかからないこと。もうひとつは施行令1条の2第3項で、注文者が材料を提供する場合は、その市場価格または市場価格および運送賃を請負代金の額に加えたものを500万円の判定に使うと定められていることです。「材料はこちらで買うから工賃だけ」という頼み方をしても、500万円のラインは材料費込みで判定されます。同条2項で、分割した契約は合計額で判定されることも同じです。
そして建設業法24条は、「委託その他いかなる名義をもってするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する」としています。「作業をお願いする」という言い方にしても、扱いは請負契約です。契約書面の記載事項(19条1項の16号)は、こちらから用意することになります。

2つめ:2社を同じ日に入れると、指名の義務が発生する
ここが、直接発注でいちばん知られていないところです。労働安全衛生法30条2項を引きます。
「特定事業の仕事の発注者(注文者のうち、その仕事を他の者から請け負わないで注文している者をいう。)で、特定元方事業者以外のものは、一の場所において行われる特定事業の仕事を二以上の請負人に請け負わせている場合において、当該場所において当該仕事に係る二以上の請負人に係る作業従事者が作業を行うときは、厚生労働省令で定めるところにより、請負人で当該仕事を自ら行う事業者であるもののうちから、前項に規定する措置を講ずべき者として一人を指名しなければならない。」
用語を置き換えます。「特定事業」は同法15条1項で建設業その他政令で定める業種とされていて、建設業は条文本文に直接書かれています。原状回復工事は建設業です。「発注者」は他の者から請け負わないで注文している者——元請から下請へ流す立場ではなく、いちばん上で注文している人。オーナーそのものです。
つまり同じ空室に、内装屋と設備屋を別々に直接発注して、同じ場所で作業させるとき、オーナーには「統括する1社を指名する」義務があるということになります。指名された会社が講じるべき措置は30条1項に並んでいて、協議組織の設置と運営、作業間の連絡と調整、作業場所の巡視、関係請負人が行う安全衛生教育への指導と援助などです。
指名のしかたは労働安全衛生規則643条に決まりがあります。1項で「あらかじめその者の同意を得て行わなければならない」とされ、対象はその場所で仕事を自ら行う請負人のうち、主要な部分を請け負ったもの(該当者が2人以上いるときは、これらの者が互選した者)です。そして2項で、指名ができないときは、遅滞なくその旨を当該場所を管轄する労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。届出先は業者ではなく、指名する義務を負う発注者です。さらに法30条3項は、指名がされないときは労働基準監督署長が指名すると定めています。
整理すると、「元請を挟まないほうが手続きが少ない」は逆です。挟んでいた会社は、値段の裏でこの役目を持っていました。直接発注に切り替えるなら、①同じ日に2社を重ねない工程にするか、②重ねるなら1社に同意をもらって指名するか、どちらかを先に決めておくことになります。工程を分ける段取りは相見積もりは金額より先に条件を渡すの「同じ紙を配る」考え方がそのまま使えます。
3つめ:解体をともなう工事の届出は、オーナーがする
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)10条1項は、こう定めています。「対象建設工事の発注者又は自主施工者は、工事に着手する日の七日前までに、主務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。」 届け出る中身は、解体する建築物等の構造、工事着手の時期と工程の概要、分別解体等の計画、解体する建築物等に用いられた建設資材の量の見込みなどです。
対象になる規模は施行令2条1項で決まっています。建築物に係る解体工事は、当該建築物(解体工事に係る部分に限る)の床面積の合計が80㎡。新築・増築は500㎡、それ以外の新築工事等は請負代金1億円、建築物以外は請負代金500万円です。同条2項で、同一の者が2以上の契約に分割して請け負う場合は1つの契約とみなして判定されます。
ここでの主語は発注者です。分別解体そのものを実施する義務は9条1項で受注者と自主施工者に置かれていますが、届出の義務は発注者——つまりオーナーの側にあります。そして51条1号は、10条1項または2項の届出をせず、または虚偽の届出をした者は20万円以下の罰金としています。届出をした事項のうち省令で定めるものを変更するときも、着手7日前までの届出が必要です(10条2項)。
あわせて13条1項は、対象建設工事の請負契約の当事者は、建設業法19条1項に定めるもののほか、分別解体等の方法、解体工事に要する費用その他主務省令で定める事項を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付しなければならないとしています。解体費用を契約書に明記するという条文です。一式の見積書のままでは、この形になりません。
築古アパートで80㎡というのは、遠い数字ではありません。1室の内装解体では届きませんが、木造アパート1棟の解体、離れや車庫の解体、ニコイチのように2部屋分の壁と間取りを大きく触る工事では、床面積の合計が近づいてきます。「業者が出しておいてくれる」で流すと、罰則の対象はオーナーの側に残ります。
直接発注に向く工事、向かない工事はどう分かれるのか
ここまでの3つを裏返すと、境目が見えてきます。1社で完結して、解体をともなわず、金額が数十万円までの工事——クロスとクッションフロアの張り替え、ハウスクリーニング、畳の表替え、器具の交換。ここは直接発注の効果がそのまま出ます。
逆に同じ期間に複数の業種が入る工事、壁や床を壊す工事、水を止めたり電気を触る工事は、指名・届出・工程調整がまとめて発生します。金額の差より、段取りを引き受けられるかどうかで決めたほうが結果は安定します。工事の順番の考え方は築古アパートの水回りはどこまで直すか、費用の内訳の読み方は原状回復の見積書は「一式」の行から見るにまとめています。
金額の効果は、業者価格と一般消費者価格の差として見る
参考として、賃貸の原状回復を専門にしている大家さんの内装屋は料金表を公開しています。スタンダードクロスの張り替え1,088円/m(めくり代・残材処分代・下地処理代を含む)、クッションフロア貼り3,980円/㎡(既存のCFへ上貼りが可能な場合)、畳表替え3,780円/畳(いずれも税抜・2026年7月1日改定。出典:大家さんの内装屋「クロス張替えの料金表」)。
これは継続して発注する事業者向けの業者価格で、オーナーが単発で頼む一般消費者価格はここから2〜3割上になります。直接発注で近づけたいのは、この2〜3割の部分です。3つの役目を引き受ける手間と、2〜3割を並べて比べる——これが判断の形になります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
次の空室で、工程表に同じ日に2社が入っている行があるかだけを見てください。ある場合は、そのうち主要な部分を請け負っている1社に「取りまとめをお願いできますか」と聞いて、同意をもらっておく。ない場合は、そのままで問題ありません。この1行の確認が、直接発注でいちばん抜けやすいところです。


