工事中に「ここも一緒に」と言われたら|築古アパートのオーナーが追加工事を口約束にしない3つの手順

結論からお伝えすると、工事が始まってから「ここも一緒にやりませんか」と言われたときの判断は、やるかやらないかではありません。やると決めたなら、その変更を書面にして双方で交わすところまでを1セットにする——ここが分かれ目です。建設業法19条2項は、契約内容の変更について「その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」と定めています。追加工事は、法律の上では口約束で済ませてよいものではありません。

床をめくったら下地が湿っていた。クロスを剥がしたら壁の一部が波打っていた。築古アパートの原状回復では、着手してから見えてくるものが必ずあります。現場で電話が鳴って「あと2万円くらいで直せます」と言われたとき、その場で「お願いします」と答えたくなる場面です。

追加工事を頼まれた日にやることを並べた図。変更の内容を書面にする、メールでの取り交わしでもよい、金額の算定方法を先に決める、完成の時期が動くかを確認する。

追加工事は「契約の変更」なので、紙が1枚増える

建設業法19条1項は、契約時に書面に記載して相互に交付すべき事項を16号まで並べています。工事内容(1号)、請負代金の額(2号)、工事着手と完成の時期(3号)などです。そして2項が、1項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、変更の内容を書面に記載して署名または記名押印し、相互に交付しなければならないと続けています。

追加工事は、工事内容(1号)と請負代金の額(2号)を変えます。多くの場合は工期(3号)も動きます。つまり19条2項がそのままかかる場面です。「口頭で頼んだ」「メモを渡した」では、この条文の求める形になっていません。

ただし、紙とハンコが必須というわけではありません。19条3項は、政令の定めるところにより相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法を講じることができ、その措置を講じた者は1項・2項の措置を講じたものとみなす、としています。相手が承諾していれば、メールやクラウド上のやりとりで整えることができます。現場の追加を電話で決めて、その日のうちにメールで内容と金額と工期を確認して双方が返信する——これが、いま現実的にいちばん回る形です。

本当に効くのは、追加が出る前に置いておく1行

追加が出てから金額を交渉すると、こちらには工事を止める以外の材料がありません。そこで効くのが19条1項6号です。

「当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め」

読みにくい条文ですが、要点は最後の「額の算定方法」です。追加が出たときの金額を「そのとき相談」ではなく、最初の契約書で計算方法として決めておけるという意味になります。たとえば「追加は料金表の単価に数量を掛けて算定する」と1行入れておけば、現場で出てくる金額は検算できる数字になります。数量と単価で見積を崩す考え方は、原状回復の見積書は「一式」の行から見るにまとめています。

追加でいくら増えるのかを、先に自分で持っておく

算定方法を決めるには、単価の物差しが必要です。賃貸の原状回復を専門にしている大家さんの内装屋は、料金表を公開しています(2026年7月1日改定・税抜)。追加が出やすいところだけ挙げると次のとおりです。

  • クッションフロア貼り 3,980円/㎡。ただしこれは既存のクッションフロアへ上貼りが可能な場合の料金で、剥がして張り替える場合は別途処分代・下地処理代が発生する場合があると明記されています
  • フロアタイル貼り 6,999円/㎡(同じく上貼りが可能な場合)
  • スタンダードクロスの張り替え 1,088円/m3種類以上を選ぶと1,248円/m、7種類以上で1,388円/m。めくり代・残材処分代・下地処理代を含む
  • 畳表替え 3,780円/畳切り込みがある場合は+1,500円/畳、厚み3cm以下の薄畳も+1,500円/畳、3階以上でエレベーターがない場合は階数×100円×枚数

(出典:大家さんの内装屋「クロス張替えの料金表」)。これは継続して発注する事業者向けの業者価格で、オーナーが単発で頼む一般消費者価格はここから2〜3割上になります。

この表を見ると、追加工事の正体が見えてきます。「アクセントで1面だけ色を変えましょう」は、クロスの種類が増えることで壁全体の単価の段が上がる話です。1,088円が1,248円になれば、6帖の壁天井30㎡(m換算で約33m)でも差が出ます。「床は剥がさず上から貼れます」と言われた工事が、開けてみたら剥がしになった——これも料金表の但し書きどおりの追加です。どちらも、現場で初めて聞く話ではなく、着手前に確かめられる話です。床材の選び方は築古アパートの床は何にするか、クロスの範囲はクロスは全面か一面かで扱っています。

追加工事を口約束で足す場合と書面で足す場合を左右に並べた比較図。金額の根拠、条文上の形、責任の所在、工期の更新の違い。

オーナーの指図で足した部分は、あとで責任を問えなくなる

ここは知られていないところです。民法636条は、請負人が引き渡した目的物が契約の内容に適合しない場合について、こう定めています。

「注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」

つまりオーナーが材料を持ち込んだり、オーナーの指図で工事内容を決めた部分は、その指図が原因の不具合について業者に直させることができないということです。追加工事は、まさにオーナーの判断で足す部分です。「ネットで買った洗面台を付けてほしい」「この納まりでいいから」と言って足したものは、この条文の射程に入りやすくなります。

ただし636条にはただし書があります。請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この制限は働きません。だから追加を頼むときに聞くべき質問は「できますか」ではなく、「この決め方で問題が出るところはありますか」になります。相手に言わせておくことが、そのまま自分の側の備えになります。

あわせて民法637条1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないと、追完・減額・損害賠償・解除ができなくなると定めています(2項で、引渡し時に請負人が不適合を知っていた場合や重大な過失で知らなかった場合は適用されません)。気づいてから1年という起算点なので、入居後に見つかった不具合も、気づいた日を記録しておく意味があります。なお、担保責任や解除の判断は契約の書きぶりで結論が変わるため、金額の大きい案件では弁護士へご相談ください。

追加が積み上がると、許可の話が出てくる

建設業法3条1項ただし書は、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負う者には許可が不要としています。その軽微な工事の範囲は施行令1条の2で、工事1件の請負代金の額が500万円(建築一式工事は1,500万円)に満たない工事などと決められています。

ここで見落とされやすいのが同条2項です。「同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする」——正当な理由に基づいて分割したときを除き、追加工事を別契約にしても合算して判定すると書かれています。本体300万円の工事に追加を積んで合計が500万円を超えれば、その相手には許可が必要な工事になります。

また建設業法24条は、「委託その他いかなる名義をもってするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する」としています。「請負契約書」という題名でなくても、注文書でも作業依頼でも、建設業法の規定はかかります。逃げ道として使える書き方はありません。

断るときの言い方も決めておく

追加を全部受ける必要はありません。ただ「今回はやりません」だけで返すと、次の入居中に同じ箇所で連絡が来ます。「今回はやらない。次の退去のときに一緒にやる」と決めて、その場で修繕履歴のメモに残すのが、いちばん揉めない断り方です。優先順位の付け方は築古アパートの水回りはどこまで直すか、判断ラインは設備が壊れた連絡が入ったらを参考にしてください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

次の工事の見積書を出して、「追加が出たときの金額はどう決めますか」と一度だけ聞いてください。答えが「そのときご相談です」なら、こちらから「料金表の単価×数量で」と1行提案する。それだけで、現場で鳴る電話が交渉ではなく確認になります。

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