原状回復の見積書は「一式」の行から見る|築古アパートのオーナーが数量と単価で崩す3つの質問

結論からお伝えすると、「一式」と書かれた見積書は、請求すれば内訳の入ったものに差し替えてもらえます。2025年12月12日から建設業法20条が変わり、内訳を書いた見積書に材料費等記載見積書という名前が付きました。注文者から請求があったときは、契約が成立するまでに交付しなければならない、と書かれています。

退去のあとに届いた見積書が1枚。金額の欄には数字が入っているのに、品名の欄は「室内改装工事一式」の1行だけ。数量は「1」、単位は「式」。これでは高いのか安いのかを確かめる手がかりがありません。崩し方は、単位と数量から入ります。

一式と書かれた見積の行を崩す3つの質問の図。単位と数量を聞く、めくりと処分が込みかを確かめる、床は上貼りか剥がすかを決める。

2025年12月12日から、見積書の条文が変わりました

国土交通省は令和7年11月14日の報道発表で、建設業法等改正法を令和7年12月12日から完全施行すると公表しました。この改正で、建設業法20条1項はこうなっています。

建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの(中略)その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した建設工事の見積書(中略)を作成するよう努めなければならない。

ここは努力義務です。ところが4項は書き方が違います。

建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。

「努めなければならない」ではなく「交付しなければならない」です。作るところは努力義務でも、こちらから請求すれば交付は義務になります。オーナーの側で必要なのは、契約が成立する前に、口頭ではなく形に残る方法で請求しておくことです。

どんな業者にもこの条文が効くのですか

効きません。ここが実務では大きいところです。建設業法2条3項は「この法律において『建設業者』とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう」と定めています。20条の主語は「建設業者」です。

そして3条1項ただし書は「政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない」として許可を不要にしており、建設業法施行令1条の2がその中身を「工事一件の請負代金の額が五百万円(建築一式工事である場合にあつては、千五百万円)に満たない工事」と定めています。

原状回復工事のほとんどは1件500万円未満です。つまり、無許可のまま営業できる範囲に丸ごと入っています。相手が許可を持っていなければ、20条は法律上かかりません。だから「許可はお持ちですか」は、値段の話より先に聞く質問です。許可があるなら条文で請求でき、許可がないなら見積書の出し方を契約の条件として決めるしかありません。

単位を見れば、一式の行は崩せます

原状回復の工事は、種目ごとに数える単位が違います。参考として、当社グループで賃貸の原状回復を専門にしている大家さんの内装屋の料金表(税抜)を並べます。

  • クロス張替え(スタンダード) 1,088円/m 単位はメートル
  • クロス張替え(ハイグレード) 1,548円/m
  • クッションフロア貼り 3,980円/㎡ 単位は平方メートル
  • フロアタイル貼り 6,999円/㎡
  • カーペット張替え 6,190円/㎡
  • 畳表替え 3,780円/畳 単位は
  • 襖の張替え 2,800円/枚 単位は
  • ハウスクリーニング 1R/1K(25㎡迄)18,000円 単位は部屋の広さの区分

これは業者価格です。大家さんや管理会社のように継続して発注する事業者に向けた水準で、個人が単発で頼む一般消費者価格は、ここから2〜3割ほど上になります。

見てほしいのは金額そのものより、単位がm・㎡・畳・枚・区分と5種類あることです。単位が違うものを足し込むと、掛け算で検算できなくなります。「一式」は、この5種類をまとめて1行にしたものです。崩すときは「この一式の中に、何がいくつ入っていますか」と聞けば足ります。

原状回復の単価が動く条件6つの図。クロスの種類の数、床が上貼りか剥がしか、畳の切り込みと厚み、ダンボール襖かどうか、工事を頼む時期、駐車スペースなど現場の条件。

同じ工事名でも、単価が変わる条件があります

単価表の右にある備考欄が、実は本体です。大家さんの内装屋の料金表から、単価が動く条件を抜き出します。

  • クロスは、めくり代・残材処分代・下地処理代を含む単価。「単価と消費税以外のコストがかかることはありません」と明記されている
  • クッションフロアとフロアタイルは「既存の床材へ上貼りが可能な場合」の料金。剥がして張り替える場合は、別途処分代と下地処理代が発生する場合がある
  • クロスを3種類以上使うと1,248円/m、7種類以上で1,388円/m(スタンダードの場合)。ハイグレードは3種類以上で1,748円/m、7種類以上で1,968円/m
  • 畳は切り込みがあると+1,500円/畳、薄畳(厚み3cm以下)も+1,500円/畳、3階以上でエレベーターがない場合は階数×100円×枚数
  • ダンボール襖は張替えができず新調になり、1本18,800円。張替え2,800円の約6.7倍
  • ハウスクリーニングは、分譲マンションだと+6,000円〜20,000円、ロフト付きは+4,000円
  • 駐車スペースが確保できない場合は駐車場代が別途

3つ目に目を留めてください。アクセントクロスを入れたい、という要望は、施工面積を増やさなくても単価そのものを上げます。1面だけ色を変えるつもりが2種類、水回りも変えて3種類——ここで1,088円が1,248円になります。25mなら4,000円の差です。「柄を増やすと高くなる」という感覚は正しくて、その理由は面積ではなく手間の側にあります。

時期で動くものもあります。同じ料金表の設備工事では、エアコン設置にピークシーズン(7月〜9月)の価格が別に置かれていて、6畳用2.2kWが通常69,980円のところ75,980円(いずれも税抜・標準取付工事込み)です。真夏に壊れた連絡が来たときの費用は、同じ工事でも夏価格だということです。夏の設備故障への動き方は真夏にエアコンが壊れた連絡が来たらにまとめています。

一式の行に投げる3つの質問

  1. 単位と数量は何ですか。クロスなら何m、床なら何㎡、畳なら何枚。数量が出てくれば、単価との掛け算で検算できます
  2. めくり・残材処分・下地処理は、この単価に入っていますか。入っている前提で比べると、あとから別行で乗ってきます
  3. 床は上貼りですか、剥がしますか。上貼りできる前提の単価と、剥がす前提の単価は別物です

この3つが埋まれば、金額の妥当性はオーナー自身で確かめられます。逆に、この3つが埋まらないまま金額だけを値切ると、削られるのは下地処理か処分費です。張り替え範囲の決め方はクロスは全面か一面か、床材の選び分けは築古アパートの床は何にするかに分けて書いています。

「明日までに」は、法律が想定していません

建設業法20条3項は、注文者に対してこう書いています。

建設工事の注文者は、(中略)第十九条第一項各号(第二号を除く。)に掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までの間に、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な期間として政令で定める期間を設けなければならない

その期間を定めているのは建設業法施行令5条の9で、工事1件の予定価格が500万円に満たない工事については1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上です。古い解説が「施行令6条」と書いていることがありますが、現行の6条は電磁的方法の承諾に関する条文で、中身が別です。

1日以上というのは短く見えますが、「提示から」の1日です。工事の内容を具体的に示した時点が起点になります。何を頼むかを渡さないまま「概算だけ先に」と急がせると、起点そのものが立ちません。この続き、つまり出す側の作り方は、別の記事で扱います。

今日やることを1つだけ選ぶなら

手元にある直近の見積書を1枚出して、「式」と書かれた行が何行あるかを数えてください。0行なら、いまの取引先は内訳を出してくれています。1行でもあれば、その行に上の3つの質問を投げるところから始まります。

あわせて、相手が建設業許可を持っているかどうかを確認しておいてください。持っているなら建設業法20条4項で内訳の交付を請求できます。持っていないなら、条文ではなく発注の条件として決めることになります。設備が壊れたときに修理と交換のどちらで見積を取るかの分かれ目は、設備が壊れた連絡が入ったらにまとめています。

※条文は2026年8月20日にe-Gov法令検索で現行条文を、施行日は国土交通省の報道発表(令和7年11月14日)で確認しています。料金は大家さんの内装屋の公開料金表(税抜)で、2026年8月20日に実際のページを開いて突き合わせました。

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