相見積もりは金額より先に条件を渡す|築古アパートのオーナーが3社に同じ紙を配る作り方

結論からお伝えすると、相見積もりで金額が割れる原因の多くは、業者の差ではなく、こちらが渡した条件の差です。そして建設業法20条3項は、条件を具体的に示すことを注文者の義務として書いています。相見積もりは、取る側の作業から始まります。

退去済みの部屋の鍵を3社に渡して、「この部屋の原状回復、いくらでできますか」と聞く。数日後、3枚の見積書が並びます。金額はばらつき、一番安い1枚に目が行く。けれども3社は、床を上貼りするのか剥がすのか、クロスを何種類使うのかを、それぞれ自分で決めて計算しています。並べているのは金額であって、同じ工事ではありません。

相見積もりの依頼書に書く6行の図。物件と部屋の情報、やる工事とやらない工事、材工か手間か処分は誰か、床は上貼りか剥がすか、クロスは何種類までか、着手日と完成日と鍵と駐車。

条件を示すのは、法律上は注文者の仕事です

建設業法20条3項はこう書いています。

建設工事の注文者は、(中略)第十九条第一項各号(第二号を除く。)に掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までの間に、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な期間として政令で定める期間を設けなければならない。

19条1項各号というのは、請負契約の書面に書く事項の一覧です。2号だけが除かれていて、その2号が「請負代金の額」です。つまり「金額以外は全部こちらから示しなさい」という条文になっています。

19条1項に並んでいる16項目のうち、原状回復で先に決めておけるのはこのあたりです。

  • 工事内容(1号)
  • 工事着手の時期及び工事完成の時期(3号)
  • 工事を施工しない日または時間帯を定めるなら、その内容(4号)
  • 前払や出来形払を定めるなら、その時期と方法(5号)
  • 設計変更・着手の延期・中止があった場合の、工期と代金の変更の決め方(6号)
  • 天災その他不可抗力による工期変更・損害負担の決め方(7号)
  • 工事で第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担(9号)
  • 注文者が完成を確認するための検査の時期と方法、引渡しの時期(11号)
  • 完成後の請負代金の支払の時期と方法(12号)

3社に同じ紙を渡すというのは、この項目に自分の答えを書いておくということです。「鍵は現地キーボックス」「入居者募集の開始日はこの日なので完成はその3日前」「追加が出たら着工前に連絡、金額の合意なしに進めない」——このくらいで足ります。

期間はどれくらい空ければいいのですか

建設業法施行令5条の9が定めています。

  • 工事1件の予定価格が500万円に満たない工事は1日以上
  • 500万円以上5,000万円未満は10日以上
  • 5,000万円以上は15日以上

やむを得ない事情があるときは、2号と3号の期間を5日以内に限り短縮できます。原状回復はほぼ1号なので1日以上ですが、これは条件を提示した時点からの1日です。条件を渡していなければ、起点そのものが立ちません。現行の条文番号は5条の9で、いまの施行令6条は電磁的方法の承諾に関する別の条文です。

揃えないと比べられない4点

同じ「クロス張替え」でも、業者によってどこまで含むかが違います。金額を並べる前に、この4つを自分で決めて全社に同じ指定をしてください。

  1. 材工か、手間だけか(材料をこちらで用意するのか)
  2. めくり(剥がし)を含むか
  3. 下地処理・シーラーを含むか
  4. ゴミの処分は誰が持つか

原状回復のクロスは、めくる → 下地を整える → シーラーを塗る → 張るという順で進みます。新築にはめくる工程がないので、新築を前提にした単価をそのまま持ってくると足りません。この4点を書かずに相見積もりを取ると、一番安く見える1社が、一番少ない工程で計算しているだけということが起こります。

数量と仕様も、こちらで決めて渡します

参考として、当社グループで賃貸の原状回復を専門にしている大家さんの内装屋の料金表(税抜)を見ると、単価が動く条件がはっきり書かれています。

  • クロスの単価は使う種類の数で段が変わる。スタンダードは1種類なら1,088円/mだが、3種類以上で1,248円/m、7種類以上で1,388円/m
  • クッションフロア3,980円/㎡・フロアタイル6,999円/㎡は、いずれも「既存の床材へ上貼りが可能な場合」の料金。剥がすなら処分代と下地処理代が別に乗る
  • 畳表替え3,780円/畳は、切り込みがあれば+1,500円/畳、厚み3cm以下の薄畳も+1,500円/畳、3階以上でエレベーターがなければ階数×100円×枚数
  • エアコン設置には7月〜9月のピークシーズン価格がある(6畳用2.2kWで69,980円→75,980円/税抜・標準取付工事込み)
  • 駐車スペースが確保できない場合は駐車場代が別途

これは業者価格で、個人が単発で頼む一般消費者価格は2〜3割ほど上になります。それより大事なのは、ここに並んでいる条件が全部、こちらから指定できるものだということです。

依頼書に書くとしたら、こうなります。「クロスはスタンダード1種類(品番は任せます)」「床はクッションフロア、既存の上貼りで可」「畳は6枚、切り込みなし、2階」「駐車は敷地内に1台停められます」——ここまで書けば、3社が同じ前提で計算します。返ってきた差額は、腕と段取りの差です。

張り替え範囲そのものをどう決めるかはクロスは全面か一面か、床材の選び分けは築古アパートの床は何にするか、水回りをどこまで触るかは築古アパートの水回りはどこまで直すかに分けて書いています。

見積を取る順番の図。条件を書いた紙を作り、同じ紙を3社に渡し、見積期間を空け、同じ行どうしで見比べ、差が出た行の理由を聞き、工程を削らせずに決める。

一番安い金額に合わせろ、は条文で止められています

2025年12月12日に完全施行された改正で、建設業法20条に6項が入りました。

建設工事の注文者は、(中略)材料費等記載見積書を交付した建設業者(中略)に対し、その材料費等の額について当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない。

「A社は18万円だったので、そこに合わせてください」は、この6項に当たり得ます。材料費等には、材料費と労務費に加えて、法定福利費など「適正な施工を確保するために不可欠な経費」が含まれます(20条1項)。そこを削らせる交渉は、条文が止めています。

違反したら何が起きますか

20条7項は、違反した発注者と契約を結んだ場合に、その建設業者を許可した国土交通大臣または都道府県知事が発注者に対して必要な勧告をすることができると定めています。ただし対象になる請負契約には金額の下限があり、建設業法施行令6条の2で500万円(建築一式工事は1,500万円)とされています。国土交通省が令和7年11月14日の報道発表でこの下限を公表しています。

原状回復のほとんどは500万円未満なので、勧告という行政の手は届きません。それでも6項の禁止そのものに金額の縛りはありません。行政が動かないことと、やっていいことは別です。

そして金額だけを詰めていくと、削られるのは利益ではなく工程になりがちです。めくりや下地処理は、仕上がった直後の写真には写りません。写らない工程から先に消えていきます。

今日やることを1つだけ選ぶなら

A4を1枚つくって、次の6行を埋めてください。次に空室が出たとき、これをそのまま3社に配れます。

  1. 物件名・部屋番号・間取り・階数(エレベーターの有無も)
  2. やってほしい工事と、やらなくていい工事(クロス/床/畳/襖/クリーニング/設備)
  3. 材工か手間か/めくりを含むか/下地処理を含むか/ゴミは誰が持つか
  4. 床は上貼りか、剥がすか
  5. クロスの種類は何種類までか
  6. 着手できる日と、完成してほしい日。鍵の渡し方。駐車スペースの有無

この紙があると、金額を聞く前に相手の力量が見えます。6行に対して質問を返してくる業者は、現場を想像しています。そのまま「いくらでもやります」と返ってくる場合は、あとから追加が出ます。

紙を配る相手をどう増やすかは管理会社を変更するときの引き継ぎ書類設備が壊れた連絡が入ったらが参考になります。本文の条文は2026年8月20日にe-Gov法令検索で現行条文を確認し、施行日と勧告の下限は国土交通省の報道発表(令和7年11月14日)で確認しました。料金は大家さんの内装屋の公開料金表(税抜)を同日に開いて突き合わせています。契約の書き方そのものについては、金額が大きくなる工事ほど専門家に相談してください。

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