隣の土地を通って出入りしているアパートは、地役権の登記があるかで売るときの話が変わります|築古アパートのオーナーが読む民法280条と283条
結論からお伝えすると、隣の土地を通って出入りしているアパートは、その通る権利が「地役権」として登記されているかどうかで、売るときと隣が代替わりしたときの話がまるで変わります。地役権は民法280条で「設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利」とされ、当事者の約束で生まれる権利です。約束だけで登記がなければ、隣の土地を買った人には原則として主張できません(177条)。まず登記簿の乙区を、自分の土地と隣の土地の両方で取るところから始めます。
たとえば、昭和の終わりに建ったアパートの敷地が、前の道路から幅2メートルほどの砂利の通路で奥へつながっているとします。通路の土地は隣の家の名義で、先代同士が「使っていい」と口で約束していた。ある日、隣の家が売りに出され、買主の側の不動産会社から「通路部分の利用について、書面はありますか」と電話が来た。手元には何もない。ここからが分かれ目です。

公道に出られない土地の「通行権」とは何が違うのですか?
周りを他人の土地に囲まれて公道に出られない土地には、民法210条の通行権が法律上当然に認められます。こちらは約束がなくても生まれる権利で、詳しくは公道に出られない敷地のアパートでも、隣の土地を通る権利は民法210条にありますに書いています。
一方の地役権は、公道に出られる土地でも、便利だから隣を通らせてもらうという約束で設定できます。条文の言葉では、便益を受ける自分の土地を「要役地」、通らせる側の隣の土地を「承役地」と呼びます(281条1項・285条1項)。違いを並べると次のとおりです。
- 210条の通行権:法律が与える。囲まれていることが条件。通る場所と方法は、通る側に必要で、囲む側に損害が最も少ないものに限られる(211条1項)
- 地役権:約束(設定行為)で生まれる。囲まれていなくてよい。目的と範囲は約束で決める
前の道路に別の出口があるなら、210条は使えません。通路が「便利だから」使っているものなら、頼れるのは地役権の約束だけです。

口約束の地役権は、隣が売られたらどうなりますか?
地役権は物権なので、不動産に関する物権の変動として、登記をしなければ第三者に対抗できません(177条)。先代同士の口約束は、約束した本人どうしの間では有効でも、隣の土地を買った新しい所有者に「通らせてくれ」と主張する根拠としては弱いのが原則です。登記がない場合にどこまで主張できるかは、通路の見た目や買主の認識など個別の事情で判断が分かれるため、ここは弁護士に見てもらう領域です。
逆に、自分のアパートを売るときは、地役権は要役地の所有権に従って一緒に移ります(281条1項)。地役権だけを切り離して売ることはできません(同条2項)。登記があれば、買主は「通路込みの土地」として値段を付けられます。なければ、買主は隣との交渉という宿題を値引きの理由にします。
長年通っていれば、時効で権利になりますか?
条文上は道があります。所有権以外の財産権は、平穏・公然に自分のために行使を続ければ、10年または20年で取得できます(163条)。ただし地役権については283条が条件を絞っていて、「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるもの」に限って時効で取得できます。
通路として砂利が敷かれ、毎日人や車が通っている形は「外形上認識できる」側に寄ります。それでも「継続的」の判断は、通路を誰が開設したか、どう使ってきたかといった事情で争いになりやすいところです。時効を当てにするのは、登記を作れなかったときの最後の手段と考えてください。
反対に、権利が消える時効もあります。継続的に使う地役権は、使用を妨げる事実が生じた時から20年で消えます(291条・166条2項)。隣が通路に塀を建てて、そのまま20年放っておけば消える、という向きの話です。
登記簿のどこを見れば、地役権があるか分かりますか?
不動産登記法80条は、承役地にする地役権の登記事項を「要役地」「地役権設定の目的及び範囲」などと定めています。次の2か所を取ります。
- 隣の土地(承役地)の乙区:「地役権設定」の欄に、目的(例:通行)と範囲(例:南側幅2メートル)、要役地の地番が載る
- 自分の土地(要役地):承役地に設定の登記がされると、登記官が職権で要役地の側にも記録します(80条4項)
どちらにも何もなければ、権利は登記されていません。なお、地役権者の氏名と住所は登記されません(80条2項)。地役権は「人」ではなく「土地」に付く権利だからです。
これから登記するには、何が要りますか?
隣の所有者と地役権の設定を合意し、共同で登記を申請します。登録免許税は、地役権の設定の登記で承役地の不動産1個につき1,500円です(登録免許税法 別表第一1(4))。税額そのものは小さく、重いのは隣との合意と、範囲を図面で特定する手間です。範囲が通路の一部なら、地積測量図で場所を示すことになります。
合意の中身で決めておきたいのは次の3点です。
- 目的と範囲:徒歩だけか車もか、幅は何メートルか
- 対価:無償か、年いくらか
- 通路の舗装や側溝の修繕を誰がするか:隣が自分の費用で修繕する義務を負う定めは、隣の土地を買った人にも引き継がれます(286条)。逆に、隣も通路を使うなら、使う割合で費用を分担します(288条)
通路の舗装を考えるなら、償却の年数は駐車場に砂利を敷いただけでも、償却はアスファルトより長い15年ですが参考になります。
都合の悪いことも書いておきます
隣の代替わりや売却が決まってから地役権の設定を頼むと、相手には応じる理由がありません。対価を求められることもありますし、断られれば、それまでの通路は法的な裏付けを失います。話しやすいのは、隣と関係が良い今のうちです。また、承役地に先に抵当権が付いていると、競売になったときに後から設定した地役権が消える場合があります。設定前に隣の土地の乙区も見て、登記の段取りは司法書士に、争いの見込みは弁護士に相談してください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
アパートの敷地と、通路にしている隣の土地の登記簿を、両方取ってください。隣の土地の乙区に「地役権設定」がなく、通路が「便利だから使っている」ものなら、いまの通行は約束だけで支えられています。売却や建て替えの予定が少しでもあるなら、その前に隣と話す順番です。抵当権の欄の読み方は買う不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記があるとき、買主は代金の支払を拒めますでも触れています。
出典
- 民法163条・166条・177条・210条・211条・280条・281条・283条・285条・286条・288条・291条(e-Gov 法令検索・2026年10月13日時点)
- 不動産登記法80条、登録免許税法 別表第一1(4)(同上)


