現金で受け取った家賃は、領収書の控えが7年保存になります|築古アパートのオーナーが2つの300万円で分ける記録
毎月25日、集金袋と複写式の領収書を持って2部屋を回る。長く住んでいる入居者で、振込に変えてほしいと言っても「現金がいい」と返される。手元のノートには日付と部屋番号と金額だけ。通帳には、その2部屋分の入金の記録が1行も残らない。
結論からお伝えすると、現金で家賃を受け取ると、領収書の控えの保存期間が5年ではなく7年になります。根拠は所得税法施行規則第63条で、「現金預金取引等関係書類」に当たる書類だけ、ほかの書類と別扱いになっているためです。受け取り方を変えただけで、残す年数が変わります。

書類の保存は、5年と7年に分かれています
青色申告の場合、帳簿書類の保存は所得税法施行規則第63条第1項です。ここが3つの号に分かれています。
- 第1号——仕訳帳・総勘定元帳など、取引に関する帳簿。7年
- 第2号——棚卸表、貸借対照表、損益計算書など決算に関して作成した書類。7年
- 第3号——取引の相手方から受け取った注文書・契約書・送り状・領収書・見積書等、および自分が作成したこれらの書類の写し。原則5年
ふつうに読めば、大家が書いた家賃の領収書の控えは第3号で5年です。ところが第1項のかっこ書きに、こう書かれています。
「第三号に掲げる書類のうち、現金預金取引等関係書類に該当する書類以外のものにあつては、五年間」
つまり5年でよいのは「現金預金取引等関係書類に当たらないもの」だけで、当たるものは第1号・第2号と同じ7年に戻ります。その定義は同条第3項です。
「現金の収受若しくは払出し又は預貯金の預入若しくは引出しに際して作成されたもの」
家賃を現金で受け取ったときに切る領収書の控えは、まさに現金の収受に際して作成されたものです。同じ「家賃をもらった」という事実でも、振込で通帳に記録が残る形と、現金でその場で領収書を書く形では、控えの保存年数が2年違います。
起算日は第4項に書かれていて、帳簿はその閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日、書類はその作成または受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日です。年末に切った領収書の控えは、翌年の3月16日から数えて7年、ということになります。
300万円を下回っていれば、5年に戻ります
ここに救いの規定があります。同条第2項です。
その年3月15日における前々年分の不動産所得の金額および事業所得の金額の合計額が300万円以下であるものは、第1項第3号の書類について5年を超えて保存することを要しない——つまり現金でやりとりしていても、規模が小さければ5年でよい、という作りです。
この300万円は、事業専従者給与(控除)を必要経費に算入しないで計算した金額です。自分がどちら側にいるかで、倉庫に置いておく箱の数が変わります。
同じ300万円が、もう1か所に出てきます
不動産所得の計算は、原則として入金された日ではなく、契約で決まっている支払日で計上します。現金でもらった月がずれても、計上する月は変わりません。
ただし、これには特例があります。所得税法第67条第1項です。
「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者で不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を行うもののうち小規模事業者として政令で定める要件に該当するもの……の計算上総収入金額及び必要経費に算入すべき金額は、政令で定めるところにより、その業務につきその年において収入した金額及び支出した費用の額とすることができる」
この「小規模事業者」の要件が所得税法施行令第195条で、第1号に「その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額の合計額が300万円以下であること」とあります。保存年数の分かれ目と同じ数字です。
これを選ぶと、収入も費用も「その年において収入した金額」「その年において支出した費用の額」で計算できます(施行令第196条)。現金でもらっている物件では、帳簿と手元のお金が一致するので、記録がぐっと楽になります。
選ぶには、何をすればいいのですか?
届出が要ります。国税庁の手続案内によれば、「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を、適用を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに開業した場合は開業した日から2か月以内)に、納税地を所轄する税務署長へ提出します。手続根拠は所得税法施行令第197条です。
青色申告の承認申請とあわせて出す場合は、「所得税の青色申告承認申請書、現金主義の所得計算による旨の届出書」という1枚の様式があります。今年から、という使い方はできません。3月15日を過ぎたら、その年は原則どおりの計上になります。
気をつける点が2つあります。1つは、償却費と、所得税法第51条第1項・第4項の資産損失は、現金主義にしても「支出した費用」の枠の外で計算することです(施行令第196条第2項)。払った年に全部落ちる、という話ではありません。
もう1つが重いほうです。青色申告特別控除の条文である租税特別措置法第25条の2は、第3項で55万円、第4項で65万円の控除を定めていますが、その第3項の主語にかっこ書きが付いています。
「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人で不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの(所得税法第六十七条第一項の規定の適用を受ける者を除く。)が」
第67条第1項というのが、いま見た現金主義の条文です。現金主義を選んだ人は、55万円・65万円の控除から、条文で名指しで除かれています。残るのは第1項の10万円だけ。記録の手間と、控除額の差を天秤にかける話になります。

白色申告でも、帳簿は義務です
青色ではない場合でも、所得税法第232条第1項で帳簿の備付けと保存が義務づけられています。記録の方法は所得税法施行規則第102条で、財務大臣の定める簡易な方法でよいとされています。
保存の年数は第102条第4項です。帳簿は7年、その他の帳簿および請求書・納品書・送り状・領収書等の書類は5年。青色と同じく、起算日は翌年3月15日の翌日です。
なお、送金明細や請求書をメールやウェブで受け取っている場合は、また別の法律(電子帳簿保存法)の話になります。そちらは送金明細のPDFは印刷しても保存になりません|築古アパートのオーナーが無料で足りる電子取引の残し方にまとめました。紙で受け取ったものと、データで受け取ったものは、置き場所のルールが違います。
領収書は「渡す」ではなく「引換え」です
記録の前に、そもそも領収書を出す義務があります。民法第486条第1項は、弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができると定めています。「あとで郵送します」ではなく、引換えです。
第2項では、紙の受取証書に代えて電磁的記録の提供を請求することもできますが、受領する側に不相当な負担を課すときは、この限りではありません。受取方法そのものを条文の側から並べた話は、家賃の振込手数料は入居者が払うのが原則です|築古アパートのオーナーが受取方法を決める前に読む民法5か条にあります。
5万円以上を現金で受け取ると、印紙が出てきます
家賃の領収書は、印紙税法別表第一の第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)に当たります。家賃は「資産を使用させることによる対価」なので、1の「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」のほうです。
非課税物件の欄に、「記載された受取金額が5万円未満の受取書」と「営業に関しない受取書」の2つが並んでいます。受取金額が100万円以下であれば税額は1通につき200円です。
家賃5万円の部屋を12か月分、現金で受け取って毎回領収書を切れば、それだけで年間2,400円。振込にすれば、そもそも領収書を書く場面がなくなります。印紙が要るかどうかの細かい判断は、税務署か税理士に確認してください。
結局、現金の部屋で何を残すのか
順番にすると、次の4つです。
- 複写式の領収書を使い、控えを部屋番号順に綴る(控えが「自己の作成したこれらの書類でその写しのあるもの」に当たります)
- 受け取ったその日に日付・部屋番号・入居者名・金額・充当した月を帳簿に書く。あとでまとめて書くと、現金の残高が合わなくなります
- 集金した現金をいつ口座に入れたかも記録に残す。通帳の入金と帳簿がつながります
- 控えの束は、7年(前々年の所得が300万円以下なら5年)を過ぎるまで捨てない
不動産所得が事業的規模かどうかで変わる論点は、また別にあります。数え方の違いは事業的規模の線は1本ではありません|築古アパートのオーナーが所得税と個人事業税で数え方を分けるに整理しています。
都合の悪いことも書いておきます
現金集金には、記録以外の弱点があります。払った・払っていないの水掛け論になったとき、こちらの手元にあるのは自分が書いた控えだけです。振込なら、入金の記録は銀行が持っています。
もう1つは、滞納に気づくのが遅れることです。振込であれば、口座を見れば入っていない部屋がすぐ分かります。集金に行って会えなかった月が続くと、それが留守なのか滞納なのか、区別がつかないまま時間が過ぎます。
それでも現金で受け取り続けるのであれば、領収書の控えと帳簿だけは、その日のうちに書いてください。あとから思い出して書いた帳簿は、記録としていちばん弱い形になります。
ここに書いたのは条文と国税庁が公表している手続の整理です。自分の申告でどう扱うかは、税務署または税理士に確認しながら進めてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
前々年(2026年分なら2024年分)の不動産所得と事業所得の合計が300万円を超えているかどうかを確かめてください。超えていれば、現金でもらっている部屋の領収書の控えは7年です。超えていなければ5年で、しかも現金主義という選択肢が使えます。どちらでも、判断の入口は同じ1つの数字です。


