井戸水のアパートは10世帯から埼玉県の条例に入ります|築古オーナーが年2回の検査と消毒で引き受けるもの
前の所有者から引き継いだ昭和築のアパート。敷地の隅に、四角いコンクリートのふたがある。ポンプの音がときどきする。台所の蛇口から出ている水が、市の水道なのか、この井戸からなのか、引き継いだ書類のどこにも書かれていない。水道局からの請求書は、共用部の分しか来ていない。
結論からお伝えすると、井戸水で部屋に給水しているアパートは、規模が小さくても「何の規制もかからない」ということはまずありません。埼玉県の場合、10世帯以上に飲み水を供給していれば、それだけで県の条例の対象になります。人数ではなく世帯数でも線が引かれているところが、見落とされやすい点です。

まず、その井戸がどの段にいるかを数えます
井戸水の給水施設は、規模によって3つの段に分かれます。どの段にいるかで、検査の回数も、届出の要否も、罰則の有無も変わります。
- 水道法の「専用水道」——101人を超える人に居住用の水を供給するか、1日最大給水量が20立方メートルを超えるもの
- 埼玉県自家用水道条例の「自家用水道」——専用水道に届かないもので、50人以上または10世帯以上に飲用水を供給するもの
- それ未満——国の「飲用井戸等衛生対策要領」で、都道府県が指導する対象
上の段ほど義務が重くなります。そして、いちばん下の段でも「何もしなくてよい」にはなりません。
なお、ここで扱うのは井戸から汲み上げた水を自分で送っている場合です。市の水道をいったん受水槽にためて送っている物件は、まったく別の条文の並びになります。そちらは受水槽のあるアパートには毎年2つの義務がある|築古アパートのオーナーが掃除と検査を分けて考えるにまとめました。
埼玉県は「10世帯」で線を引いています
埼玉県自家用水道条例(昭和32年埼玉県条例第2号)第2条は、自家用水道をこう定義しています。
「水道法に規定する水道事業の用に供する水道、専用水道及び簡易専用水道以外の水道であつて、規則で定める人数以上の人又は世帯数以上の世帯にその飲用に必要な水を供給するもの」
その「規則で定める人数」と「世帯数」が、埼玉県自家用水道条例施行規則第1条に書かれています。人数は50人、世帯数は10世帯です。1棟10戸のアパートで、10戸に井戸水を送っていれば、居住者が何人かにかかわらず入口に入ります。
設置者に課されている義務は、条文の順に4つです。
- 第4条第1項——布設しようとする者は知事の確認を受けなければならない(施行規則第2条で、様式第一号の確認申請書を保健所長に提出)
- 第5条——工事がしゅん工したら届け出て検査を受け、合格した後でなければ使用してはならない
- 第6条第1項——年2回以上、知事の指定する施設において水質の検査を受けなければならない。保健所長から要求があったときも同じ
- 第7条——次亜塩素酸ナトリウム、液体塩素等により消毒した後でなければ給水してはならない
第8条では、水源地や取入口にさく壁等を設けて、みだりに人畜が立ち入らないようにすることも求められています。
守らなかったときは、どうなるのですか?
この条例には罰則があります。しかも2段に分かれています。
第12条——第4条第1項(確認)、第5条(しゅん工検査)に違反した者、または第11条の使用停止処分に違反した者は10万円以下の罰金。
第13条——第6条第1項(年2回の検査)、第7条(消毒)、第8条(さく壁)などに違反した者、立入検査を拒んだ者、改善命令に従わなかった者は3万円以下の罰金又は科料。
第14条は両罰規定で、法人の従業者が違反したときは、その法人にも同じ刑が科されます。法人名義で持っているアパートなら、ここも読んでおく必要があります。
第6条第3項には、もう1つ重い規定があります。検査の結果、人の飲用に適する水と認められたもののほかは、知事が指示する措置を講じた後でなければ人の飲用に供してはならない。基準を外れたら、直すまで飲み水として出せない、という意味です。
101人を超えると、今度は水道法の側に入ります
水道法第3条第6項の「専用水道」は、寄宿舎・社宅・療養所等における自家用の水道のうち、①101人を超える者にその居住に必要な水を供給するもの、または②1日最大給水量が政令の基準を超えるものです。②の基準は水道法施行令第1条第2項で20立方メートルと決まっています。
ここで、井戸を持つオーナーが取り違えやすいかっこ書きがあります。第3条第6項には「ただし、他の水道から供給を受ける水のみを水源とし、かつ、その水道施設のうち地中又は地表に施設されている部分の規模が政令で定める基準以下である水道を除く」というただし書があり、その基準は施行令第1条第1項で口径25ミリメートル以上の導管の全長1,500メートル、水槽の有効容量の合計100立方メートルとされています。
このただし書が使えるのは「他の水道から供給を受ける水のみを水源とする」場合だけです。井戸は自分で汲み上げている水源なので、配管が短くても水槽が小さくても、ただし書では抜けられません。人数か水量のどちらかで線を越えれば、専用水道になります。
専用水道になると、水道法第34条第1項によって第19条・第20条から第22条の2までが準用されます。実務上いちばん重いのは検査の頻度です。水道法施行規則第15条第1項第1号イは「一日一回以上行う色及び濁り並びに消毒の残留効果に関する検査」を求めています。毎日です。そのうえで、一般細菌・大腸菌・塩化物イオン・有機物(TOC)・pH値・味・臭気・色度・濁度はおおむね1か月に1回以上、そのほかの項目はおおむね3か月に1回以上。第19条で水道技術管理者を1人置くことも必要になり、第20条第2項で検査の記録は5年間保存です。
どちらにも当たらない小さな井戸は、どう扱われるのか
ここで出てくるのが「飲用井戸等衛生対策要領」(昭和62年1月29日衛水第12号。最近改正 平成26年3月31日健発0331第30号)です。水道法や建築物衛生法の適用を受けない井戸等を対象にした、国から都道府県等への通知です。
要領は対象施設を3つに分けていて、共同住宅に居住する者に対して飲用水を供給する井戸等の給水施設は「一般飲用井戸」に当たります(事業所等に供給するものが「業務用飲用井戸」で、アパートはこちらではありません)。
定期の水質検査の中身は、水質基準項目のうち一般細菌、大腸菌、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、塩化物イオン、有機物(全有機炭素(TOC)の量)、pH値、味、臭気、色度、濁度の11項目に、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン等に代表される有機溶剤その他、周辺の水質検査結果等から判断して必要となる事項を加えたものです。11項目で終わり、ではありません。
そして、大家にとって効くのはここのかっこ書きです。
「定期の水質検査は、一般飲用井戸(設置者が専ら自己の居住の用に供する住宅のみに飲用水を供給するために設置するものを除く。)、業務用飲用井戸及び小規模受水槽水道にあつては1年以内ごとに1回行うものとするが、これ以外のものにあつても1年以内ごとに1回行うことが望ましい。」
自分の家だけに使っている井戸は「望ましい」。人に貸している部屋へ送っている井戸は、かっこ書きで除かれて「行うもの」の側に置かれています。同じ井戸でも、貸した瞬間に文章の中の立ち位置が変わります。
なお、要領は検査の依頼先を「水道法第20条第3項に規定する地方公共団体の機関又は厚生労働大臣の登録を受けた者」と書いていますが、現行の水道法第20条第3項は「国土交通大臣及び環境大臣の登録を受けた者」です。2024年4月に水道行政が厚生労働省から国土交通省・環境省へ移り、条文の側が書き換わりました。埼玉県も井戸のページで、この要領を「国土交通省・環境省通知」として案内しています。
2026年4月1日から、検査する項目が1つ増えました
水道法第4条第2項は、水質基準の中身を環境省令に委ねています。その省令が「水質基準に関する省令」で、2026年(令和8年)4月1日から項目が1つ増え、52項目になりました。増えたのは第20号、ペルフルオロ(オクタン―1―スルホン酸)(別名PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(別名PFOA)で、基準値は0.00005ミリグラム毎リットル以下(=50ナノグラム毎リットル)です。改正省令の公布は2025年(令和7年)6月30日でした。
「水質基準は51項目」と書かれた記事や検査案内が今も多く並んでいますが、2026年4月1日以降はその数字が1つ古くなっています。
この改正は、井戸のほうにも降りてきています。埼玉県は自家用水道の「水質検査頻度等一覧」を令和8年4月1日適用で見直し、PFOS及びPFOAを追加しました。この一覧では、項目ごとに省略の可否が決められているのですが、第20号のPFOS・PFOAは毎年度1回目の検査で「不可」——つまり省略できない側に置かれています。
埼玉の地下水は、実際どうなっているのか
埼玉県は水質汚濁防止法に基づいて、毎年度、地下水の水質を測っています。令和7年度の結果(調査期間は令和7年5月から令和8年2月)は次のとおりです。
- 概況調査——85地点(46市町)を調査し、4地点で環境基準を超過。超過した項目はカドミウム、鉛、砒素、ふっ素、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素
- 継続監視調査——111地点(32市町)のうち36地点で環境基準を超過。超過項目は六価クロム、砒素、四塩化炭素、クロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素の10項目
- PFOS及びPFOA——県内50地点を調査し、深谷市岡の1地点で指針値(50ナノグラム毎リットル)を超過。県が原因特定に向けた調査を実施中(令和6年度は吉見町大字大串で1地点)
県はこの結果に対して、「環境基準を超過した場合は、市町村及び関係機関と連携し、井戸所有者等に対して飲用を控えるよう周知を行いました」と書いています(出典:埼玉県「令和7年度地下水の水質測定結果」。県政ニュースでの発表は2026年7月21日)。
数字の読み方には注意が要ります。継続監視調査の111地点は、すでに汚染が確認された地域を選んで見ている地点です。「地下水の3割が汚れている」という意味ではありません。逆に、無作為に近い概況調査のほうは85地点中4地点でした。それでも、自分の井戸が測られているわけではない、という点は変わりません。県が調べているのはメッシュで選んだ1地点で、隣の敷地の井戸ではありません。

検査は、どこでいくらかかるのか
埼玉県が設置する保健所では、一般飲料水の水質検査を月に2回(原則として月曜日)受け付けています。手数料は1検体9,740円で、内訳は理化学検査11項目と細菌検査2項目の計13項目です。
実務で引っかかるのは、費用より段取りのほうです。
- 採水びん(大・小)を事前に受け取っておく必要がある
- 採水は原則として依頼する側が行い、検査を依頼する当日に採る
- 細菌検査用の小びんは中をゆすがない(残留塩素を消す薬品が入っているため)。ふたの裏側を手や蛇口に触れさせない
- 理化学検査用の大びんは、5分ほど流した後の水で2〜3回ゆすいでから満杯にする
水質基準の全項目や、保健所で受け付けていない項目を測りたいときは、国土交通省・環境省の登録を受けた民間の検査機関に依頼することになります。さいたま市・川越市にお住まいの場合は各市の保健所、川口市・越谷市は水質検査の受付をしていないため近くの県設置保健所が窓口です。
配管は、建築基準法の側にもかかります
井戸水のアパートで、意外に見落とされるのが配管の規制です。建築基準法施行令第129条の2の4第2項は、建築物に設ける飲料水の配管設備について定めていますが、その主語にかっこ書きが付いています。
「建築物に設ける飲料水の配管設備(水道法第3条第9項に規定する給水装置に該当する配管設備を除く。)」
給水装置とは、水道事業者の配水管から分岐して設けられた給水管とこれに直結する給水用具のことです。井戸からの配管は給水装置ではありません。つまり、このかっこ書きで除かれる側に入らず、第2項の規定がそのままかかります。
第1号は「飲料水の配管設備(これと給水系統を同じくする配管設備を含む。)とその他の配管設備とは、直接連結させないこと」。水道と井戸を同じ系統につなぐことができない、という規定です。「断水のときだけ井戸に切り替えられるようにしておく」という配管は、ここに当たります。ほかに、第2号で吐水口と水面の垂直距離(逆流防止)、第4号で凍結による破壊への防凍措置、第5号でタンクにほこり等が入らない構造とさび止めが求められています。第4号の防凍は井戸のほうがむしろ重い話で、露出した配管とポンプが凍れば建物全体の水が止まります。冬前に回る場所はアパートの水道管の凍結対策は11月までに決まる|築古アパートのオーナーが冬の前に回る5か所にまとめています。
都合の悪いことも書いておきます
井戸水は、水道料金がかからない代わりに、止まらないコストが3つあります。検査の費用(年1回か2回)、消毒設備の薬品と手間、そしてポンプの電気代と更新費用です。ポンプは10年から15年ほどで交換が必要になり、そのあいだ部屋の水は止まります。
募集の側でも不利に働くことがあります。「井戸水」と書いてあるだけで候補から外す入居希望者は一定数います。水質検査の結果を最新のものにしておき、内見のときに見せられる状態にしておくのが、いちばん現実的な打ち手です。
水道の給水区域内であれば、申し込めば水道を引くことができます。切り替えの工事費は決して安くありませんが、検査・消毒・ポンプの3つが丸ごと消えるので、長い目で見て比べる価値はあります。埼玉県も、給水区域内の住民に対しては水道水の利用を勧めています。切り替えたあとに敷地内のどこまでが自分の負担になるかは、敷地内の水道管は誰が直すのか|築古アパートのオーナーがメーターの前後で分ける負担で分けています。受水槽を残すか外すかを迷っている場合は受水槽をやめると、断水のとき水が1滴も出なくなります|築古アパートのオーナーが直結給水の承諾書で引き受けるものもあわせて読んでください。
なお、水質が基準を外れて飲めない状態が続けば、貸している側の修繕義務(民法第606条第1項)の話になります。使用収益できない部分があれば賃料の減額が問題になる場面もあります。個別の判断は、弁護士や司法書士に確認しながら進めてください。条例の適用範囲や検査項目は保健所が窓口です。
断水したときの連絡の順番そのものは、水道であっても井戸であっても変わりません。停電でポンプが止まれば井戸は水が出なくなるので、4年に1回の電気の調査は、断られたら行われません|築古アパートのオーナーが停電と断水で動く順番の順番をそのまま使えます。
今日やることを1つだけ選ぶなら
その井戸が何戸に給水しているかを、数字で書き出してください。10戸以上なら、埼玉県では条例の対象です。前の所有者が確認申請を出しているかどうかは、管轄の保健所に物件の所在地を伝えれば確認できます。出ていなければ、そこが最初の1手になります。9戸以下でも、検査は1年以内ごとに1回です。


