郵便受けにたまった手紙を大家が捨てると罪になり得ます|築古アパートのオーナーが空室と退去後で分ける手順

結論からお伝えすると、郵便受けにたまった手紙を、大家が抜いて捨てると犯罪になり得ます。建物は自分のものでも、封筒の中身は自分のものではないからです。空室でも、退去のあとでも、そこは変わりません。大家にできるのは、たまっていることを郵便局と入居者に伝えることまでです。

半年空いている1階の部屋。郵便受けの口からチラシが束になってはみ出し、雨に濡れて固まっている。その中に、封筒が3通まじっている。宛名は前の入居者の名前。ここで束ごと引き抜いてゴミ袋に入れたくなる場面が、築古アパートの現場にはあります。やってはいけない理由を、条文で分けておきます。

郵便受けの手紙に大家が手を出せない理由を5点にまとめた図解。郵便法77条・刑法133条・261条・誤配の扱い・転送期間

「配達の前」と「配達の後」で、効く条文が変わります

郵便法77条は、会社の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、毀損し、隠匿し、放棄し、または受取人でない者に交付した者を、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。

ここで効くのが「会社の取扱中」という限定です。日本郵便が引き受けてから配達を終えるまでの間を指すと解されており、郵便受けに投函されて配達が終わったあとの郵便物は、この77条の外に出ます。では何もないのかというと、そうではありません。

  • 封をしてある信書を開けた…刑法133条の信書開封罪。1年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金。135条により親告罪です
  • 捨てた・破った・濡らして読めなくした…刑法261条の器物損壊等。3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料
  • 自分のものにした…占有の状態によっては刑法254条の遺失物等横領(1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料)

条文が変わるだけで、やってはいけないことは変わりません。「配達済みだからもう郵便物ではない」という理屈は立ちません。

誤配が自分の郵便受けに入っていたときは、どうするのが正解ですか?

郵便法42条1項が手順を書いています。誤配達を受けた者は、その郵便物にその旨を表示して郵便差出箱(ポスト)に差し入れるか、会社に通知しなければならないとされています。義務です。

親切のつもりで隣の部屋の郵便受けに入れ直すのは、条文が書いている方法ではありません。付せんに「誤配」と書いてポストに入れるのが法律どおりの動き方です。うっかり開けてしまったときは42条2項があり、修補したうえで、その旨と氏名・住所(または居所)を郵便物に表示することになっています。

入居中にたまっているとき、退去後にたまっているとき

場面で分けます。

  1. 入居中で、あふれている…まず入居者に連絡します。連絡がつかないときは、安否の問題として扱います。郵便物の滞留は、室内で何かが起きているときの最初のサインになることがあります
  2. 退去が済み、鍵も返ってきた…その部屋あての郵便はまだ届きます。退去手続きのときに、転居届を出したかを必ず確認してください
  3. 入居者と連絡がつかないまま部屋が空いている…郵便物に手をつけずに、郵便局と相談します。契約の終わらせ方は別の手続きです

日本郵便の転居・転送サービスは、届出日から1年間、旧住所あての郵便物を新住所へ転送します。起点は転送開始希望日ではなく届出日です。期間が過ぎると差出人に返還されます(出典:日本郵便「旧住所あての郵便物等を新住所に転送してもらえる転送期間は?」)。

つまり、退去から1年たてば自然に止まりますが、その1年のあいだは届き続けます。転居届を出していない入居者だと、止まる日が来ません。ここが空室の郵便受けがあふれる最大の原因です。

郵便物がたまっていたときに大家が動く手順を4段でまとめた図解。写真・本人への連絡・郵便局・退去時の確認

大家の側でできる手当ては3つです

  • 退去の立会いのチェック項目に「転居届」を1行入れる。鍵の返却・精算と同じ列に並べておけば聞き忘れません
  • 空室の郵便受けに投入口をふさぐ札を付ける。「空室」と書いた札は、チラシを減らす効果があります。ただし郵便物そのものは止まりません
  • あふれている状態を郵便局に伝える。配達を担当する郵便局に連絡すると、郵便物は「あて所に尋ねあたりません」として差出人へ返還される扱いになることがあります。判断するのは郵便局で、大家ではありません

札や掲示の出し方は玄関まわりで決まる第一印象で書いた考え方とあわせてください。郵便受けの周りは、内見で最初に目に入る場所でもあります。

都合の悪いことも書いておきます

正しく動いても、時間はかかります。郵便局に伝えてすぐ止まるわけではなく、差出人に返還されて相手が住所を直すまで届き続けます。あふれた郵便受けを見るたびに「捨ててしまえば早いのに」と思う日が続きます。

それでも捨てないのは、1通が督促状や裁判所からの書類だったときに、取り返しがつかないからです。相手方に届いたかどうかで手続きが動く書類があります。中身を確かめずに捨てるという判断は、その可能性ごと引き受けることになります。

なお、長期間たまっていること自体を記録に残しておくと、あとで役に立ちます。空室で効いてくるのは固定資産税ではなく3年の線ですで書いた記録の残し方と同じで、日付入りの写真が1枚あれば、経過を説明できます。

今日やることを1つだけ選ぶなら

退去立会いのチェックリストに「転居届は出しましたか」の1行を足してください。これだけで、退去後にあふれる郵便受けはかなり減ります。すでにあふれている郵便受けがあるなら、抜かずに写真を1枚撮って、配達を担当する郵便局に電話する。順番はこの2つだけです。

入居者と連絡がつかないまま部屋が空いている場合は、郵便物より先に契約の側の手当てが要ります。お知らせの投函を業者に頼むと、頼んだ側も郵便法に触れますで書いたとおり、伝え方そのものにも決まりがあります。刑事上の評価や個別の対応の可否は、弁護士・郵便局の窓口へご確認ください。

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