築古アパートでも家賃を上げられるのはどんなときか|オーナーの判断手順
結論からお伝えすると、家賃は貸主の判断だけで上げられるものではありません。借主との合意が原則です。そのうえで、築古の物件でも家賃が上がることはあります。ただし現実的に動かしやすいのは、いま住んでいる方への値上げではなく、退去が出たあとの募集家賃のほうです。順番を間違えると、増えるはずだった分より失うもののほうが大きくなります。
5月の午前、更新の案内を出す前。テーブルにレントロールを広げ、その横に駅前の仲介店でもらってきた募集図面を3枚並べる。同じ駅、同じ2DK、築年数もほぼ同じ。図面を渡してくれた担当者が言う。「同じ広さで、いまはこちらのほうが高く出ていますよ」。手元の部屋は5年前に決めた家賃のまま。翌週、更新の書類を作りながら、上げるべきかどうかで手が止まる——ここからの決め方の話です。

法律の上では、どういう扱いになっているのか
建物の賃貸借には借地借家法という法律があり、家賃が近隣と比べて不相当になったときに、増額を請求できるとされています。判断の材料として挙げられているのは、土地や建物にかかる公租公課の増減、土地建物の価格の変動、そして近くの似た建物の家賃との比較です。
ただし、実務のうえで押さえておきたいのは次の点です。
- 通知すれば自動的に上がるものではありません。合意ができなければ、借主は従来の額を支払い続けることができるとされています
- 一定期間は家賃を増額しない旨の特約がある場合、その期間は請求できないとされています。まず契約書を読み直してください
- 話し合いがまとまらない場合、まず調停を経る扱いとされています。いきなり訴えるという道ではありません
ここは法律の領域です。増額を請求する・しないの判断、通知の出し方、調停や訴訟に進むかどうかは、動く前に必ず弁護士にご相談ください。この記事では上げ幅の相場も書きません。物件ごとに事情が違いすぎて、目安の数字が判断を歪めるためです。
上げる前に、何を変えたのか
ここがいちばん大事なところです。入居者から見れば、部屋は昨日と何も変わっていません。「相場が上がったので」は、貸す側の事情であって、住んでいる方の関心事ではありません。
だから順番としては、先に「変わったもの」を作ることになります。たとえば次のようなものです。
- 無かった設備を足した:エアコンの新設、モニター付きインターホン、独立洗面、追い焚き、宅配ボックス、コンセントの増設
- 不便を1つ消した:鍵の受け渡し、駐輪場の区画整理、ゴミ置き場の囲い、共用灯の交換
- 使える幅を広げた:ペット可、楽器の可否、在宅勤務を前提とした通信環境
- 入居者層そのものを見直した:どんな方に住んでいただくかで、通る家賃は変わります(築古アパートは誰に貸すか)
設備をどの順番で入れ替えるかは 給湯器とエアコンはいつ交換するか が参考になります。お金をかけずに上げる方法を探すより、上げてもいいと思ってもらえる状態を先に作るほうが、結果として遠回りになりません。
むしろ上げないほうがよい場合もある
見落とされやすいのは、増える額ではなく失うほうの数字です。値上げの話をきっかけに退去になった場合、そこで発生する費用は増額分よりずっと大きくなることがあります。ご自身の数字で計算してみてください。
- 増える分:月3,000円上がるなら、年間で36,000円
- 出ていく分:原状回復の工事費、募集にかかる費用、そして決まるまでの空室期間の家賃
空室が2か月続けば、それだけで家賃2か月分が消えます。何年分の増額に相当するかを先に出しておくと、判断が感情から離れます。工事費は数量の入った見積りで2〜3社比べてください。
そして、そもそも埋まりにくい物件で値上げをすると、空室期間が延びます。埋まらない理由が家賃以外にある場合はなおさらです。原因の切り分けは 昭和築アパートの空室が埋まらない5つの原因 に、下げる前の打ち手は 家賃を下げる前に試す4つの手 にまとめています。

上げられるのは、どういう状態か
逆に、次のような状態がそろっているなら、検討する価値はあります。
- 募集をかけると短い期間で決まる:直近の空室がどのくらいで埋まったか
- 近くの同じ間取り・同じ築年数帯の募集が、明らかに上に出ている:3件以上並べて確認する
- 設備を足した直後である:変わったものを説明できる
- 空室になっても埋められる見込みがある:断られたときに引ける状態か
まず募集家賃で試す、という手はどうか
いちばん角が立たないのは、退去が出た部屋の募集家賃で試すことです。住んでいる方に何も求めずに済み、決まらなければ戻せます。反応が出れば、それが次の更新のときの材料になります。収支の全体像は 満室なのにお金が残らない築古アパート と合わせて見てください。家賃だけを追いかけても、手元に残る額は増えないことがあります。
まとめ
築古の家賃は、「上げる」ものというより「上げてよい状態になったかを確かめる」ものだと考えたほうが、失敗が減ります。埼玉・千葉県西部・栃木県南部では、同じ駅の同じ間取りでも、手を入れた部屋とそうでない部屋で募集家賃が離れていくことがあります。差がついているなら、その差の理由は現地に出ています。
今日やることを1つだけ選ぶなら、お持ちの部屋と同じ駅・同じ間取り・同じ築年数帯の募集を3件、印刷して並べてください。設備の欄まで見比べると、家賃の差がどこから来ているかが分かります。家賃の増額請求、契約内容の変更、調停や訴訟に進むかどうかの判断は、必ず弁護士にご相談ください。税務の扱いは税理士の領域です。


