屋根の点検を誰に頼むか|築古アパートのオーナーに、点検商法のクーリング・オフは届きません

「近くで工事をしていまして、お宅のアパートの屋根、瓦が1枚ずれているのが下から見えたんです」。軽トラックから降りてきた人が、そう言って名刺を出してきました。梯子は荷台に積んであります。

結論からお伝えすると、屋根の点検を誰に頼むかは、「上がり方」を聞けば9割が分かります。高さ2メートル以上の場所で作業させるなら、足場か墜落制止用器具が法令上の前提になるからです(労働安全衛生規則518条)。梯子1本で1人で上がる相手は、そこを満たしていません。

そしてもう1つ、多くのオーナーが誤解している点があります。飛び込みで契約した屋根工事に、8日間のクーリング・オフは原則として届きません。自宅なら届きます。アパートだと外れるのです。

なぜアパートだとクーリング・オフが外れるのか

飛び込みの訪問は、特定商取引法2条1項1号の「訪問販売」に当たります。営業所以外の場所で契約の申込みを受けるかたちだからです。訪問販売であれば、本来は次の保護が付きます。

  • 4条1項:申込みを受けたら、直ちに申込書面を交付しなければならない
  • 5条1項:契約したら、遅滞なく契約書面を交付しなければならない
  • 9条1項:書面を受領した日から起算して8日を経過するまでは、書面または電磁的記録で申込みの撤回・契約の解除ができる
  • 9条3項:撤回にともなう損害賠償や違約金を請求されない
  • 9条7項:工事で土地や建物の現状が変更されたときは、原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求できる
  • 3条の2第2項:契約しない旨の意思を表示した人に、重ねて勧誘してはならない

ところが26条1項1号に適用除外があります。条文は「購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するもの」を、この節の規定から外しています。賃貸経営のためにアパートの屋根を直す契約は、一般的にはここに当たります。

では、アパートのオーナーには何も残らないのですか?

いいえ。残るものが2つあります。

1つは、同じ敷地に建つ自宅部分の工事は、営業のためではないので除外に入らないと考えられることです。自宅兼アパートで一括の見積を取ると、境目が曖昧になります。見積書を分けてもらうだけで、扱いがはっきりします。

2つめは、除外に当たるかどうかが形式ではなく実質で判断されることがある点です。事業者名義で契約していても、実態として消費者と変わらない状況だと見られる場合があると説明されています。ここは法律家の判断が要る領域なので、断定せずに弁護士や消費生活センターに相談してください。相談すること自体に費用はかかりません。

屋根の点検を頼む相手に聞く3つの問いを、体の固定・足場の見積行・所在地と許可番号の順に並べた図

上がり方を聞くと、何が分かるのか

労働安全衛生規則は、事業者が労働者を働かせるときの決まりです。条文は具体的です。

  1. 518条1項:高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合、墜落の危険があるときは足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない
  2. 518条2項:作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、要求性能墜落制止用器具を使用させる等の措置を講じなければならない
  3. 521条1項:墜落制止用器具を使わせるときは、それを安全に取り付けるための設備等を設けなければならない
  4. 526条1項:高さまたは深さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは、安全に昇降するための設備等を設けなければならない

2階建てアパートの軒先は、地面から4メートル前後あります。2メートルの線は、1階の屋根でも超えています。

「点検だけだから足場は要らない」と言われたら

点検も作業です。ただ、点検のたびに足場を組めば費用が跳ね上がるのも事実で、実務では墜落制止用器具と親綱で対応します。聞くのは「足場を組むか」ではなく「どうやって身体を固定するか」です。521条1項が求めているのは、器具そのものではなく取り付けるための設備だからです。屋根の上に取り付け先が無ければ、器具を持っていても意味がありません。

最近はドローンや高所カメラで撮るだけの点検も増えました。屋根に上がらない方法なら、この条文の話は最初から出てきません。報告書の写真が下から見上げた1枚しかないときは、何を見て何を見ていないかを聞いてください。

自宅の工事とアパートの工事で訪問販売の保護が届くかどうかが分かれることを、特定商取引法26条1項1号で左右に比べた図

頼む相手を3つに分けて考える

屋根に関わる相手は、実務上3つに分かれます。

埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートは、足場の設置費用が工事費の2〜3割を占めることが珍しくありません。足場を組む工事は、まとめたほうが安くなります。外壁塗装や防水と時期を合わせる考え方は陸屋根の防水はいつやるか|築古アパートのオーナーが足場から逆算して決めるで整理しました。後回しにしたときに何が起きるかは外壁と屋根の修繕を後回しにすると何が起きるか|築古アパートのオーナーが順番を決める基準にあります。

都合の悪いことも書いておきます

飛び込みの業者がすべて悪質なわけではありません。地元の板金屋が本当に通りがかりに気づくこともあります。問題は、その場で判断させようとするかどうかです。

「今日決めてくれれば足場代をサービスします」と言われたら、それは3条の2第2項が想定している場面に近づいています。屋根は、1週間待って悪化するものではありません。ただし雨漏りが始まっているなら別です。その順番は雨漏りの連絡が入ったときオーナーが最初にやること|初動の順番と費用の切り分けに書きました。

今日やることを1つだけ選ぶなら

次に屋根の話が来たとき用に、聞く文を3つ手元に書いておいてください。「上がるときはどうやって身体を固定しますか」「足場の費用は見積のどの行ですか」「会社の所在地と建設業の許可番号を教えてください」。この3つに詰まる相手には、屋根を預けない。それだけで判断がつきます。

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