排水の詰まりは、法律が「清掃」と「修繕」で分けています|築古アパートのオーナーが読む下水道法10条2項
「台所の水が流れません」。夜の9時に入居者から電話が入る。翌朝、業者が来て30分で流れるようになり、請求は1万円台。ここで手が止まります。この1万円台を、どちらが払うのか。
結論からお伝えすると、答えは契約書より先に下水道法10条2項に書かれています。同じ排水管でも、「改築・修繕」はオーナー、「清掃その他の維持」は入居者と、法律が言葉を分けて割り当てています。詰まりが清掃で流れたのか、管そのものを直したのかで、払う人が変わります。

下水道法10条は、敷地の中の排水管を2つに割っている
下水道法10条1項は、公共下水道の供用が開始された区域で、排水管など排水設備を設置しなければならない者を定めています。同項1号は「建築物の敷地である土地にあつては、当該建築物の所有者」。アパートなら、まずオーナーです。
そのうえで2項が、こう続きます。
- 改築又は修繕は、1項により設置すべき者(=建築物の所有者)が行う
- 清掃その他の維持は、当該土地の占有者が行う
アパートで「占有者」にあたるのは、その部屋を使っている入居者です。つまり、管を直すのはオーナー、詰まりを取り除くのは入居者という線が、民法や特約の前に法律の側で引かれています。
なぜこの条文が実務で効くのか
退去精算のときは原状回復の話になり、入居中は民法606条1項の修繕義務の話になります。どちらも「どこまでが通常の使用か」という争いになりやすい論点です。ところが排水設備には、工事の種類で先に割ってくれる条文がある。見積書の行が「高圧洗浄」なのか「排水管更生」なのかを見れば、議論の出発点が決まります。
油や生ごみを流し続けた結果の詰まりなら清掃の領域で、これは占有者側の維持です。一方、管の勾配不足や継手のずれ、木の根の侵入は清掃では直りません。ここは修繕で、オーナー側です。
勾配1%・ますは内径の120倍以内|詰まる原因は数字で決まっている
「築古だから詰まる」と言われますが、詰まりやすい排水設備には共通点があります。下水道法施行令8条が、排水設備の技術上の基準を数字で決めているからです。
- 管渠の勾配は、やむを得ない場合を除き100分の1以上(8条5号)=10メートルで10センチ下げる
- ますまたはマンホールは、管の長さが内径または内のり幅の120倍を超えない範囲で、清掃上適当な箇所に設ける(8条8号ハ)=内径100ミリなら12メートルごと
- 下水の流路の方向や勾配が著しく変化する箇所にも、ますを設ける(8条8号ロ)
- 汚水のますのふたは、密閉することができるもの(8条9号)
- ますの底は、雨水用なら深さ15センチ以上のどろため、それ以外は接続する管に応じた幅のインバート(8条10号)
築40年のアパートで繰り返し詰まる部屋があるとき、見るのはこの5点です。ますが遠い、方向が変わる場所にますがない、勾配が取れていない。どれも清掃では直らないので、毎年同じ月に同じ部屋から電話が来ます。
隣の敷地の排水管を通っている物件はどうなるか
築古の戸建やアパートでは、自分の敷地から直接 公共下水道へ出せず、他人の土地や他人の排水設備を通しているケースがあります。この場合に効くのが下水道法11条です。
- 他人の土地や排水設備を使わなければ流入が困難なときは、他人の土地に排水設備を設置し、または他人の設置した排水設備を使用することができる(11条1項)。ただし損害が最も少ない場所と方法を選ぶ
- 他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、設置・改築・修繕・維持の費用を負担しなければならない(11条2項)
- 設置・改築・修繕・維持のためやむを得ない必要があるときは他人の土地を使用できるが、あらかじめ土地の占有者に告げる(11条3項)
- 使用により損失を与えたときは、通常生ずべき損失を補償する(11条4項)
ここで大事なのは2項です。「うちは隣の管を使わせてもらっているだけ」ではなく、使っている割合に応じて修繕費を負担する立場になります。売買のときに気づかず、詰まってから請求されて初めて知る、という順番になりがちです。
油を流し続けている店舗が1階に入っていたら
1階が飲食店の併用アパートでは、下水道法12条が出てきます。著しく施設の機能を妨げ、または施設を損傷するおそれのある下水を継続して排除する使用者に対し、公共下水道管理者は条例で除害施設の設置などを定めることができます。グリース阻集器の設置や清掃頻度を条例で求められている自治体があるのは、この条文が根拠です。
直す工事は、誰に頼んでもよいのか
ここが見落とされます。施行令8条1号は、排水設備を「公共下水道管理者である地方公共団体の条例で定めるところにより」接続させることとしています。この条例を受けて、多くの自治体が指定工事店制度を置いています。
さいたま市は「下水道の排水設備工事は専門的な技術が伴うため、市が施工能力がある工事店を指定し、市民の方には指定を受けた工事店に工事を依頼して頂く制度を採用しています」と公表しています。工事をする側には下水道排水設備工事責任技術者の登録も求められます(出典:さいたま市「排水設備指定工事店」)。
つまり、敷地内の排水管を新設・改築する工事は、安い業者を自由に選べる工事ではありません。接続や取付管に関わる工事は届出も必要で、さいたま市では令和7年1月から電子申請ができるようになっています。埼玉・千葉県西部・栃木県南部でも、この仕組みは市町ごとに置かれているので、自分の物件がある自治体の下水道担当課の一覧を先に見ておくほうが早いです。

敷地の外で詰まっていたら、直すのは市町村です
ますから先、公共下水道の本管側で詰まっている場合は、直すのは公共下水道管理者=市町村です。ここに、この夏に動いた条文があります。
下水道法等の一部を改正する法律(令和8年法律第65号)が2026年7月23日に公布され、2026年8月17日に施行されました。これにより下水道法14条の2「都道府県による復旧工事の代行」が新設されています。災害が発生した場合に、市町村から要請があり、その市町村の実施体制その他の地域の実情を勘案して適当と認められるときは、流域下水道を管理する都道府県が、市町村が管理する公共下水道の復旧工事を市町村に代わって自ら行うことができるという条文です(2026年9月22日時点)。費用は都道府県が施行し、国の負担金・補助金相当額を国が負担する仕組みになっています。
大雨や地震のあとに「本管がやられていて、いつ直るか分からない」と言われたとき、復旧の担い手が市町村だけではなくなった、という意味です。制度の話なので、オーナーが手続きをするものではありません。ただ、復旧の見通しを聞く相手が増えたことは、入居者への説明に使えます。
連絡が来たときに順番で決める
- どこで詰まっているかを先に決める。室内の器具側か、敷地内の排水管か、ますから先の本管か
- 敷地内なら、清掃で流れたのか、管を直したのかを作業内容で確認する。ここで10条2項の割り当てが決まる
- 繰り返している部屋は、ますの位置・勾配・方向の変化を図面と現地で確認する。清掃を繰り返しても終わらない
- 他人の土地や排水設備を経由している物件は、11条2項の費用負担がどうなっているかを売買のときの資料で確認する
- 工事が必要なら、自治体の指定工事店から見積を取る。届出の要否も同時に聞く
関連して、メーターの前後で負担が変わる水道側の話は敷地内の水道管は誰が直すのかにまとめてあります。浄化槽から公共下水道へ切り替える順番は「下水道が来たら3年以内」は、くみ取便所の話です、給排水管の点検時期は築古アパートのシロアリと給排水管はいつ点検するか、敷地の外へ水が出る雨水側の詰まりはアパートの雨樋の詰まりを放置すると何が起きるかで扱っています。
今日やることを1つだけ選ぶなら、自分の物件の敷地図を開いて、ますが何メートル間隔で入っているかを数えてみてください。内径100ミリの管で12メートル以上ますが離れていたら、詰まりは入居者の使い方ではなく、設備の側の話です。


