家具の転倒防止でネジを打ってよいかは、入居の前に大家が決めます|築古アパートのオーナーが国のガイドラインで読む1行

結論からお伝えすると、家具の転倒防止のためにネジや釘を打ってよいかは、入居者に任せず、入居の前に大家が決めておくのが筋です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、重量物をかけるためのくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度のもの)を借主の負担になりやすい側に置いたうえで、同じ欄に「地震等に対する家具転倒防止の措置については、予め、賃貸人の承諾、または、くぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる」と書いています。入口は大家の承諾です。

入居して2週間の入居者から、管理会社経由で問い合わせが来ます。「本棚をL字の金具で壁に留めたい。穴をあけてもいいですか」。返事をしないまま1か月たつと、入居者は突っ張り棒で済ませるか、黙ってネジを打つか、何もしないかのどれかを選びます。退去のときに揉めるのは、黙ってネジを打った場合です。

国の原状回復ガイドラインで壁の穴が画鋲・エアコンのビス穴・重い物のネジ穴に分かれ、家具の転倒防止は別の一文があることを示した図

ガイドラインは、画鋲の穴とネジ穴を分けています

ガイドラインの「損耗・毀損の事例区分」(18〜19ページ)では、壁の穴が3つに分かれています。

  • 壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)…ポスターやカレンダーの掲示は通常の生活の範疇で、通常の損耗
  • エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡…エアコンは生活の必需品になっており、通常の損耗
  • 壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)…画鋲に比べて深く範囲も広いため、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多い

家具の転倒防止に使うL字金具は、3つ目に近い穴になります。そのうえで、同じ欄の最後に上の一文が置かれています。国の資料が「防災のためなら自由に打ってよい」とも「打ったら借主負担」とも言い切らず、先に大家の承諾を取る形を示しているということです。

「穴をあけていいか」と聞かれたら、何を返せばよいですか?

返事の選択肢は3つです。

  1. ネジを使わない方法でお願いする…穴は残らない。効果は組み合わせ次第
  2. 場所と方法を決めて承諾する…柱や下地のある位置だけ、退去時は請求しない、と書面に残す
  3. 大家の側で固定できる場所を用意する…長押やピクチャーレールのように、最初から「かけてよい場所」を作る

どれを選んでも、返事をしないことだけは避けてください。黙認は、承諾したのかしていないのかが後から分からなくなります。

ネジを使わなくても、組み合わせればL字金具に近づきます

東京消防庁の「家具転対策」のよくある質問(質問7)は、最も効果の高い器具はネジで固定するL型金具だとしたうえで、穴をあけられない賃貸住宅向けに、ストッパー式(または粘着マット式)とポール式の器具を2つ組み合わせれば、L型金具と同等の効果が期待できると案内しています。器具の価格は数百円から数千円程度です(質問1)。

同じ庁の地震被害調査では、負傷者の3〜5割が屋内での家具類の転倒・落下・移動によって負傷していました。「穴はあけないでください」とだけ返すと、入居者は何もしない選択をしがちです。断るなら、代わりの方法を1行添えるのが大家の側の配慮です。

入居者から家具の転倒防止でネジを打ちたいと聞かれたときの返し方を4つの手順で示した図

築古では、ネジ穴を請求しても金額はほとんど残りません

ガイドラインは、借主が負担する場合でも経過年数を考慮するとしています。壁のクロスは「6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する」とされ、負担の単位も「㎡単位が望ましいが、毀損した箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない」までです。

入居時にクロスを張り替えていない築古の部屋では、6年を過ぎたクロスに借主の負担はほとんど残りません。下地ボードの補修が要る場合の扱いはさらに個別の判断になります。退去後に数千円を争うより、入居の前に「ここなら打ってよい」「退去時に請求しない」と決めておくほうが、双方の手間が小さく済みます。クロスの範囲の考え方はクロスは全面か一面か、通常損耗の区分は通常損耗と善管注意義務違反はどこで分かれるかに書いています。

承諾するなら、書面に残す3行

  • 打ってよい場所…柱・間柱など下地のある位置(図や写真で示す)
  • 使ってよい物…家具の転倒防止の金具に限る
  • 退去時の扱い…承諾した穴は原状回復の請求をしない

この3行は、退去の精算書にそのまま引けます。精算書の書き方は敷金の精算書で揉めるのは金額より書き方を見てください。照明器具のネジ穴の考え方も賃貸の照明器具と蛍光灯・LEDの交換は誰の負担かで同じ線を引いています。

都合の悪いことも書いておきます

ガイドラインは法律ではなく、国が示した一般的な考え方です。契約書に特約があれば、そちらが先に問題になります(特約がどこまで有効かは個別の判断です)。承諾しても、打つ位置を誤って配管や配線を傷めれば、それは別の損傷になります。また、固定したから家具が倒れないとは限りません。地震のときに家具が倒れてけがをした場合の責任は、固定の方法や建物の状態で変わり、この記事では断定できません。

今日やることを1つだけ選ぶなら

管理会社に「家具の転倒防止でネジを打ちたいと言われたら、どう返しているか」を聞いてください。決めていなければ、上の3つの返事のどれにするかを今日決めて、募集図面か入居時の案内に1行足します。

出典

  • 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月(別表1・別表2)
  • 東京消防庁「地震から命を守る家具転倒対策」「家具転対策 よくあるご質問」質問1・質問7

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