照明器具は付けるか、入居者に任せるか|築古アパートのオーナーが球と器具を分けて決める順番
結論からお伝えすると、器具を付けるかどうかは「球が切れたときに誰が動くか」で決めてください。電球の取替えと器具本体の故障は、国の書式では扱いが分かれています。そして照明は、法令上は飾りではなく窓の代わりを務める設備として位置づけられています。ここを知らずに「入居者が自分で買うもの」と決めると、判断の材料を1つ落とすことになります。
空室の天井に、引掛シーリングだけが残っている部屋。カバーも器具もない。募集図面の設備欄に照明の行はなく、内見に来た人が天井を見上げて「これ、自分で買うんですか」と聞く——この問いに、条文と告示で答えられます。

照明設備を付けると、必要な窓の大きさが変わります
建築基準法28条1項は、住宅の居室に採光のための窓を設けることを求めています。その割合は建築基準法施行令19条3項の表で、住宅の居住のための居室は7分の1です。
この19条3項には、ただし書があります。照明設備の設置、有効な採光方法の確保その他これらに準ずる措置が講じられているものにあつては、それぞれ同表の下欄に掲げる割合から十分の一までの範囲内において国土交通大臣が別に定める割合とする——つまり措置を講じれば7分の1から10分の1まで緩められるという定めです。
その「措置」に、住宅の居室の基準が追加されました
国土交通省告示第86号(令和5年2月7日/国土交通大臣 斉藤鉄夫)は、昭和55年建設省告示第1800号を改正し、第一(措置の基準)に次の第4号を新設しました。
四 住宅の居住のための居室にあつては、床面において五十ルックス以上の照度を確保することができるよう照明設備を設置すること。
あわせて第二を改正し、「第一第三号又は第四号に定める措置が講じられている居室にあつては、十分の一とする」としました。施行は令和5年4月1日です(脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律〈令和4年法律第69号〉附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日)。
読み取ってほしいのはここです。国は、床面50ルクス以上の照明設備を、窓の面積を1/7から1/10まで下げられる代わりの措置として認めたということです。照明は「あると親切な備品」ではなく、明るさと衛生を担う設備として法令の中に位置づけられています。
これは建築確認の場面の話で、いま貸している部屋の居室性が急に変わるという話ではありません。既存の部屋に器具を付けたから窓を小さくできる、という話でもありません。増改築や用途の変更を伴う工事を考えるときの材料です。建物ごとの判定は建築士か自治体の建築指導課に渡してください。
電球は入居者、器具は大家——ただし条件が付きます
国土交通省の賃貸住宅標準契約書 第9条1項は、「甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない」と定めています。民法606条1項も「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」です。器具を部屋に付けた時点で、それは賃貸物の一部になります。
一方、同契約書 第9条3項は「乙は、甲の承諾を得ることなく、別表第4に掲げる修繕を自らの負担において行うことができる」と定め、その別表第4(第9条第3項関係)に次の8つが並んでいます。
- 畳表の取替え、裏返し
- 障子紙の張替え
- ふすま紙の張替え
- 電球、蛍光灯、LED照明の取替え
- ヒューズの取替え
- 給水栓の取替え
- 排水栓の取替え
- その他費用が軽微な修繕
ここに「照明器具」は入っていません。入っているのは「電球、蛍光灯、LED照明の取替え」=球のほうです。器具本体が壊れたときは別表第4の外なので、第9条1項と民法606条1項の側に戻ります。
「別表第4に書いてあるから入居者の負担」で終わらない理由
- 3項は「行うことができる」=入居者の権利です。入居者に取替えを義務づける条項ではありません
- 別表第4は変更・追加・削除ができます。標準契約書の《作成にあたっての注意点》に「別表第4は、個別事情に応じて、適宜、変更、追加及び削除をすることができます」と書かれています。いま使っている契約書に電球の行が無ければ、その根拠は無いということです
直さずに置いておくと、どうなりますか
民法607条の2は、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、または急迫の事情があるときは、賃借人が自分で修繕できると定めています。そして民法608条1項は、賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、直ちにその償還を請求することができるとしています。
連絡を放置すると、入居者が自分で選んだ器具の代金を後から請求できる経路に入ります。金額の大小より、選ぶ側が入居者になることが効いてきます。修理と交換の分け方は設備が壊れた連絡が入ったら|賃貸オーナーが修理と交換を分ける判断ラインにまとめています。
付けない場合、天井に何が残るか
器具を付けない選択をすると、入居者が自分で用意します。その帰結も国の書式に書かれています。ガイドラインの別表1と標準契約書 別表第5の【壁、天井(クロスなど)】の欄で、賃借人の負担となるものの6番目が次です。
賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡
同じ欄の賃借人負担には「壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)」も並びます。一方、賃貸人負担の側には「エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡」「壁に貼ったポスターや絵画の跡」「壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)」が入っています。
エアコンのビス穴は貸主負担、天井に直接つけた照明器具の跡は借主負担——同じ「入居者が持ち込んだ設備の跡」で、扱いが逆になっています。引掛シーリングがあれば直接付ける必要がないので、跡の話はそもそも発生しません。ここが「器具を付けない代わりに、引掛シーリングは残しておく」という判断につながります。天井のクロスをどこまで張り替えるかはクロスは全面か一面かの考え方と同じです。
いくらかかるか
関東で賃貸の原状回復を専門にしている大家さんの内装屋の設備工事の料金表には、テレビドアホン・ウォシュレット・洗面化粧台・エアコン・換気扇・水栓が載っていますが、照明器具の項目はありません(設備工事の対応は東京都・埼玉県のみ)。ですので外の公表値を置きます。
株式会社じげんが運営するリショップナビの記事(2025年12月15日更新)では、照明器具の交換・取り付けは3,000〜10,000円。配線工事の不要な既存器具の交換は安く収まり、新規配線が必要な場合や、重量のあるシーリングライトやシャンデリアなどを設置する場合は、追加で3,000〜10,000円程度とされています。天井の高さや埋め込み工事の有無も価格が動く要因です。(出典:リショップナビ「【施工内容別】電気工事にかかる費用をご紹介」)
これは器具本体を含まない工事費の目安として読んでください。また、業者価格と一般消費者価格では2〜3割の差が出ます。継続して発注する事業者向けの水準と、個人が単発で頼む水準は別です。
配線に触るなら、資格が要る工事です
電気工事士法施行令1条は、資格が要らない「軽微な工事」を6つ列挙しています。その1号は「電圧六百ボルト以下で使用する差込み接続器、ねじ込み接続器、ソケット、ローゼットその他の接続器(中略)にコード又はキャブタイヤケーブルを接続する工事」です。ローゼットは引掛シーリングのことなので、既にあるシーリングに器具を掛ける側は軽微な工事の範囲に入ります。
一方、この6つに「新しく配線を引く工事」は入っていません。引掛シーリングが付いていない天井にシーリングを増設する、配線を分岐させるといった作業は、資格を持つ電気工事業者の仕事です。見積を取るときは「シーリングがあるか、無いか」を先に伝えてください。金額の段がここで変わります。共用部の照明と電気代の話は築古アパートの共用部の電気代が上がったとき、オーナーが確かめる順番、玄関まわりの外灯は玄関まわりで決まる第一印象にまとめています(この記事は室内の照明の話です)。

判断の順番
- 天井に引掛シーリングがあるか確認する。あれば、付けない選択でも入居者が困りません
- 契約書の別表第4に「電球、蛍光灯、LED照明の取替え」の行があるか見る。無ければ、球切れの連絡は大家に来る前提で考える
- 付けるなら、器具の故障が自分の修繕義務になることを織り込む。安い器具を選ぶと、交換の回数が増えます
- 付けないなら、募集図面と室内の写真で「引掛シーリングあり」を見えるようにする。天井が空で写っているだけだと、内見で不安になる場所です(→募集写真は何枚・どの順番で載せるか)
- 付けるかどうかを家賃と並べて考える。器具1つで決まる部屋なら、家賃を下げる前に試す打ち手です(→家賃を下げる前に試す4つの手)
今日やることを1つだけ選ぶなら
手元の賃貸借契約書の別表第4を開いて、「電球、蛍光灯、LED照明の取替え」の行があるか見てください。あるなら次の球切れの連絡は入居者側で止まります。無いなら、その連絡は大家に来ます。器具を付けるかどうかより先に、この1行の有無で動き方が変わります。


