火災のとき、大家は「関係者」として条文に出てきます|築古アパートのオーナーが読む消防法25条と34条

深夜1時40分、管理会社から着信。「2階の1室から火が出ました。消防が入っています」。現地までは車で40分。着いたら道路が規制されていて、消防隊員に「この建物の関係者の方ですか」と聞かれる。ここで聞かれる「関係者」は、会話の言葉ではなく法律の言葉です。

結論からお伝えすると、消防法に「大家」という言葉は出てきませんが、オーナーは2条4項の「関係者」として条文の中に入っています。そして関係者には、火災のときに消火を行う義務(25条1項)と、情報を提供する立場(25条3項)、火災後の調査に資料を出す義務(34条1項)が置かれています。まず「自分が条文のどこにいるか」を知っておくと、現場での受け答えが変わります。

火災の現場で大家が聞かれる5つのことを並べた図

消防法2条4項の「関係者」に、所有者が入っている

消防法2条は言葉の定義を並べた条文です。ここに、こうあります。

  • 消防対象物=山林または舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物または物件
  • 関係者=防火対象物または消防対象物の所有者、管理者又は占有者
  • 関係のある場所=防火対象物または消防対象物のある場所

アパートは建築物なので消防対象物です。その所有者であるオーナーは「関係者」。管理会社は管理者、入居者は占有者として、同じ「関係者」に入ります。3者が同じ言葉でくくられている点が、この定義のポイントです。

消火をしなければならないのは、誰なのか

ここが最も誤解されています。消防法25条1項は、こう書いてあります。

火災が発生したときは、当該消防対象物の関係者その他総務省令で定める者は、消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の救助を行わなければならない。

「関係者」と書かれているので、オーナーにも消火の義務があるように読めます。ただし、その「総務省令で定める者」の側を見ると、対象が絞られています。消防法施行規則46条は、25条1項の総務省令で定める者を、傷病・障害その他の事由によって消火・延焼の防止・人命の救助を行うことができない者を除き、次の者で「火災の現場にいるもの」としています。

  1. 火災を発生させた者
  2. 火災の発生に直接関係がある者
  3. 火災が発生した消防対象物の居住者又は勤務者

つまり、この義務は現場にいる人に向けられたものです。40分かけて駆けつけるオーナーが、到着前の消火を義務づけられているわけではありません。そして25条2項は「火災の現場附近に在る者は、前項に掲げる者の行う消火若しくは延焼の防止又は人命の救助に協力しなければならない」としています。近くにいる人にも協力の義務があります。

では、現場に着いたオーナーは何を求められるのか

消防法25条3項です。火災の現場においては、消防吏員または消防団員は、関係者その他総務省令で定める者に対して、当該消防対象物の構造、救助を要する者の存否その他消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のため必要な事項につき情報の提供を求めることができるとあります。

求められるのは、消火の腕ではありません。建物の構造と、中に人がいるかどうかです。木造か鉄骨か、階段は何か所か、各戸の間取り、空室はどの部屋か、単身の高齢の入居者がどこにいるか。これを即答できるかどうかが、人命に直結します。

しかも、施行規則47条は25条3項の対象者を「前条各号に掲げる者及び延焼のおそれのある消防対象物の関係者、居住者又は勤務者」としています。隣のアパートのオーナーも、情報提供を求められる立場に入ります。

消防法が現場にいる人とあとから来る人で求めることを分けていることを左右に並べた図

火災のあと、消防から資料の提出を求められる

火が消えたら終わりではありません。消防法34条1項は、消防長または消防署長が火災の原因等の調査をするために必要があるときは、関係者に対して必要な資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、または消防職員に関係のある場所へ立ち入らせて、火災により破損され又は破壊された財産の状況を検査させることができると定めています。

求められる資料は、その場で作れるものではありません。竣工図・設備の設置記録・過去の修繕履歴・消防設備の点検結果・賃貸借契約書と入居者名簿といったものです。手元にまとまっていれば1日で出せますが、散らばっていれば1週間かかります。

失火した入居者に、弁償を求められるのか

ここで登場するのが、明治32年法律第40号=失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)です。条文は1行です。

民法第709条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

不法行為による損害賠償の条文である民法709条は、失火の場合には適用されない。ただし失火者に重大な過失があったときは、この限りではない、という構造です。

一方で、賃貸借契約には部屋を返すときに元の状態で返す義務が別に付いています。失火責任法が働くのは不法行為の側なので、契約上の義務の話とは通り道が違います。だから「重過失がなければ何も請求できない」と単純に決まるわけではありません。ここは契約書の条項と保険の内容で変わるので、弁護士と保険会社の両方に確認する場面です。

建物が全部 焼けたら、契約はどうなるのか

民法616条の2が、こう定めています。

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

解除の通知も、合意も要りません。使えなくなった時点で終了します。逆に、一部が残っていて使える状態なら、この条文では終わりません。「全部が滅失したのか」の判定が、契約の終わり方を決めます。被災した建物に貼られる赤・黄・緑の紙は取り壊しの決定ではないので、そこを混同しないでください。詳しくは地震のあとに貼られる赤い紙は、取り壊しの決定ではありませんにまとめています。

連絡が来た直後の順番

  1. けが人の有無を最初に聞く。建物の話はそのあと
  2. 向かう車の中で、建物の構造・階段の位置・空室の部屋番号・単身高齢者の部屋を思い出せる形にする。25条3項で求められるのはここ
  3. 現場では消防の指示に従う。到着前の消火義務は、現場にいる人に向けられたもの
  4. 鎮火後は34条1項の資料提出に備えて、竣工図・点検記録・契約書・名簿を1か所に集める
  5. 保険会社への連絡は当日。風災は3年さかのぼれますが、火災は現場が片づく前の記録が要ります
  6. 使える部屋が残っているかで、616条の2の適用が分かれる。判定を自分でせず、専門家に渡す

火災保険の請求の順番は火災保険の風災は3年さかのぼれます、更新前に確認する項目は築古アパートの火災保険、台風の前後に動く順番は台風が来る前と後、オーナーが動く順番で扱っています。

今日やることを1つだけ選ぶなら、自分の物件の「構造・階段の数・空室の部屋番号」を1枚の紙に書いて、車の中に置いてください。深夜に聞かれるのは、金額ではなくこの3つです。

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