火災保険の風災は3年さかのぼれます|築古アパートのオーナーが自分で請求するときの順番
結論からお伝えすると、火災保険の保険金を請求する権利は、行使できるときから3年で時効にかかります(保険法95条1項)。去年の台風で浮いた棟板金、一昨年の雪でゆがんだ雨樋は、まだ間に合う可能性があります。ただし出るかどうかを決めるのは、契約書に書かれた風災の支払条件と、建物を時価で契約しているか再調達価額で契約しているかの2点です。そして請求は、代行業者に頼まなくても自分でできます。
退去の立会いで空室に入ったとき、天井の隅に薄い輪染みがある。入居者からは何も言われていない。屋根に上がってみると、棟の板金を留めている釘が数本浮いていて、下地の木が見えている——築古アパートでよくある場面です。この傷みが「経年劣化」なのか「風災」なのかは、オーナーが決めることではありません。決めるのは保険会社です。オーナーがやるのは、判断材料を落とさずに渡すことだけです。

まず3年を数えます
保険法95条1項は、保険給付を請求する権利はこれを行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅すると定めています。つまり過去の風災・雹災・雪災でも、3年の枠に入っていれば請求の余地があります。
ただし、同じ法律に2つの義務が置かれています。
- 14条(損害発生の通知)……保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく保険者に通知を発しなければならない
- 13条(損害の発生及び拡大の防止)……保険事故が発生したことを知ったときは、損害の発生および拡大の防止に努めなければならない
ここが築古アパートでは効きます。風で棟板金が浮いたことに気づきながら1年放っておき、その間に雨が入って野地板と天井が傷んだ場合、「風で壊れた分」と「放置して広がった分」は同じ扱いになりません。3年あるからといって、気づいた時点の連絡を後回しにする理由にはならない、という順序です。屋根まわりを後回しにすると何が起きるかは外壁と屋根の修繕を後回しにすると何が起きるか|築古アパートのオーナーが順番を決める基準に整理しています。
風災は「一定額以上」でないと出ない契約があります
ここが証券を開かないと分からないところです。日本損害保険協会は、すまいの保険(火災保険)について、台風や暴風などの風災による損害や大雪などの雪災による損害を「一定額以上に達するものであれば補償の対象としています」と説明しています。そのうえで、こう続きます。
「さらに補償を充実させたすまいの保険(火災保険)の中には、損害が一定額(一定割合)以上に達しなくても補償する商品もあります(損害額の全額を補償する商品や、一定の免責金額を設定している商品があります)」(出典:一般社団法人日本損害保険協会「風水雪災等による損害を補償する損害保険」)。
つまり風災の支払条件は、大きく2つの型に分かれます。
- 一定額に達して初めて出る型……修理費がその額に届かなければ1円も出ません
- 達しなくても出る型……全額補償か、免責金額(自己負担額)を引いた残りが出ます
同協会は免責金額を「損害が発生した場合に被保険者等が自己負担する額として契約時に設定する額」と定義しています。長く更新を重ねてきた築古アパートの契約は、この欄が古い設計のまま残っていることがあります。証券の「風災・雹災・雪災」の行を開いて、条件がどちらの型かを確かめる。ここが最初の1手です。契約全体の確認手順は築古アパートの火災保険|オーナーが更新の前に確認する5つのことにまとめています。
時価か再調達価額かで、受け取る額が変わります
保険法18条1項は、てん補すべき損害の額はその損害が生じた地及び時における価額によって算定するとしています。約定保険価額があればそちらによります(同条2項)。実務では、契約時にどちらの基準で保険金額を決めたかで結果が分かれます。
日本損害保険協会の説明では、評価には再調達価額(新価)基準と時価額基準の2つがあり、関係は次の式です。
時価額 = 再調達価額 - 経年減価額(経年・使用による消耗分)
そして同協会は、「時価額を基準に保険金額を設定した場合、損害額は事故発生時の時価額を基準として算出されるため、保険金だけでは同じ建物を建て直したり買い替えたりすることができなくなる可能性があります」と書いています。築40年の木造アパートは、この差がいちばん大きく開く建物です。現在は再調達価額をベースに設定する契約が一般的とされていますが、古い契約を更新し続けている場合は、時価額のままのことがあります。
建築年や当時の建築価額が分かれば年次別指数(建築費倍率)を掛けて再調達価額を出す方法(年次別指数法)があり、分からなければ1平方メートルあたりの新築費単価に延床面積を掛ける方法(新築費単価法)があります。図面や確認済証が手元にない場合の探し方はアパートの図面と確認済証が手元にないとき|築古アパートのオーナーが役所と設計事務所を当たる順番に書きました。
木造の共同住宅はいちばん保険料が高い区分です
もう1つ、証券で確かめておきたいのが構造級別です。日本損害保険協会によれば、住宅物件の構造級別はM構造(コンクリート造の共同住宅など)、T構造(コンクリート造の戸建、鉄骨造の準耐火建築物など)、H構造(木造の共同住宅や戸建住宅など)の3区分で、H構造がもっとも保険料の高い側です。木造アパートは原則H構造ですが、同協会は「木造建物であっても、建築基準法に定める耐火建築物等に該当すれば、M構造やT構造となります」としています。建物の性能は建築確認申請書類などで確認できます。級別が実態と違っていないかは、更新のたびに見る価値があります。

「保険金が使える」と言って訪ねてくる業者をどう扱いますか?
国民生活センターは2021年9月2日、「保険金で住宅修理ができると勧誘する事業者に注意!ー申請サポートを受ける前に、損害保険会社に連絡を 保険金の請求は、加入者ご自身で!!ー」を公表しています。掲載されている相談事例は、築古アパートのオーナーが受ける電話とほとんど同じです。
- 「3年前の大型台風で損害を受けている部分があるかもしれない。火災保険の請求期限が迫っている。調査費用は無料」と訪問を受けた(2021年5月受付・60歳代)
- 「修理代を上回る保険金が受け取れる。手数料は40パーセントだが損はない」と言われて契約した(2021年4月受付・60歳代)
同センターの消費者へのアドバイスは3行です。請求期限が迫っている等の勧誘やインターネット広告をうのみにせず、安易に契約しない。申請サポート会社に頼らずとも、保険金の請求は加入者自身で行える。うその理由で保険金を請求することは絶対にやめる。
同センターのテーマ別特集「ご用心 災害に便乗した悪質商法」(2026年6月29日更新)にも、「経年劣化で壊れたものも保険でできると言われた」という相談が載っています。ここは線を越えてはいけないところです。経年劣化と知りながら自然災害による損傷として申請することは、保険金詐欺にあたります。
なお、損害額を実際に見るのは業者ではありません。日本損害保険協会は、鑑定人を「保険会社からの委嘱を受け、建物や動産の保険価額の評価、損害額の算定、事故の原因・状況などの調査を行う専門家」と説明しています。オーナーが手数料を払って間に人を立てなくても、この人が来ます。
今日やることを1つだけ選ぶなら
保険証券を1枚出して、「風災・雹災・雪災」の行の支払条件と、建物の評価が再調達価額か時価額かの2か所に印を付けてください。そのうえで、直近3年に来た台風・大雪の日付を書き出し、そのころ撮った写真がスマートフォンに残っていないかを探す。写真の日付は、あとから作れない材料です。台風の前後にやることの順番は台風が来る前と後、オーナーが動く順番|築古アパートで先に見る5か所と入居者への連絡に、雨樋の詰まりから始まる連鎖はアパートの雨樋の詰まりを放置すると何が起きるか|築古オーナーが建物と隣地の両方で見る3か所にまとめてあります。
補償の範囲や支払の可否は契約ごとに異なります。実際の判断は、契約している損害保険会社または損害保険代理店に確認してください。


