申込のあとキャンセルされたとき|築古アパートのオーナーが返すお金と作業を止める順番
申込が入った、と連絡が来た日に、募集は止まります。ポータルの掲載は「申込あり」に切り替わり、次の内見は入らない。そこから3日後、「やっぱり別のところに決めました」と連絡が入る。築古アパートで空室期間が伸びるいちばん静かな原因が、この数日です。
結論からお伝えすると、契約が成立する前のキャンセルは止められません。オーナーがやるべきことは3つです。①預かったお金を返す、②募集を止めていた期間を最短で戻す、③お金の出る作業(鍵交換・クリーニング・工事)を契約成立の後ろに動かす。この順番を決めておけば、次に同じことが起きても損は小さくなります。

申込は契約ではない
入居申込書に記入してもらった時点では、賃貸借契約はまだ成立していません。ここを前提にすると、実務の答えはほとんど決まります。
国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(令和4年3月・賃貸借トラブルに係る相談対応研究会)には、申込後のキャンセルについてこう書かれています。
「キャンセルできます。また、契約成立前に不動産業者から要求されて支払った申込金は、預かり金として返還を請求することができます。」
解説部分では、申込金・頭金・預かり金・手付金など名目が何であっても、契約成立前に支払われた金員は預かり金とみなされ、入居希望者がキャンセルする場合は返還しなければならない、と整理されています。
返さないと、どうなりますか?
宅地建物取引業法の禁止行為に当たります。同法47条の2第3項は、契約の締結に関する行為や申込みの撤回の妨げに関する行為のうち、相手方の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるものをしてはならないと定めています。そして、その省令にあたる宅地建物取引業法施行規則16条の11第2号が、次の行為を挙げています。
「宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと。」
(国土交通省の事例集では旧番号の「施行規則16条の12第2号」として引用されていますが、現行の条文番号は16条の11第2号です。この記事では現行の番号で書いています。)
この規定が向いている相手は宅地建物取引業者ですが、オーナーにとっても実務のラインは同じです。仲介会社が預かったお金を返す場面で、オーナー側が「うちの部屋を止めていたのだから」と返還に難色を示すと、業者を違反の側に立たせることになります。止めるべきはお金の押さえではなく、募集を止める期間のほうです。
キャンセルが出やすいのは、どの段階か
申込から鍵の引き渡しまでを時間で並べると、抜けやすい場所がはっきりします。
- 申込書を受け取った日——他社の物件と並行して申し込まれていることがある。ここが最も動く
- 保証会社の審査中(1〜3日)——待たされている感覚が強い時間帯。連絡が途切れると気持ちが離れる
- 審査通過から契約日まで——初期費用の総額を家族と相談して止まることがある
- 契約書の取り交わし後——ここから先は契約の解約の話になり、扱いが変わる
1から3の間は、オーナーにできることが「早くする」しかありません。審査の返事、契約書の準備、初期費用の案内。この3つを1日ずつ縮めるほうが、キャンセルの防止としては確実です。

実費が出ていたら請求できますか?
契約が成立していない以上、違約金の取り決めは働きません。だからこそ、お金の出る作業の順番を先に決めておきます。
- 鍵交換:契約日が確定してから発注する。申込の連絡と同時に発注しない(→築古アパートの鍵交換は誰が払うのか)
- ハウスクリーニング:募集の前に済ませておくもので、申込後に始めるものではない(→空室の掃除はどこまでやるか)
- 入居者の希望に合わせた工事:口頭の希望だけで着工しない。書面で条件が固まってから
- 広告の取り下げ:掲載を消すのではなく「申込あり」の表示にとどめ、キャンセル時にすぐ戻せるようにしておく
この並べ方をしておくと、キャンセルで消えるのは「数日の時間」だけになります。逆に、申込の一報で鍵屋と清掃を同時に手配していると、キャンセルのたびに実費が残ります。
キャンセルが出たあと、最初の24時間ですること
- 預かり金の返還を仲介会社と確認する(誰が預かっているか、いつ返すか)
- 掲載を「募集中」に戻す。ポータルの表示が止まったままだと、次の内見が入らない
- 止めていた期間を記録する。何日止まったかを残さないと、空室日数の集計がずれる(→空室日数の数え方)
- 理由を1行だけ聞く。金額か、設備か、時期か。3件たまると募集条件のどこを直すかが決まる
広告料(AD)を出している物件では、キャンセルが続いたときに「ADを増やす」に流れがちですが、順番としては後ろです(→広告料(AD)を出す前に確かめる3点)。
申込を減らさない止め方
キャンセルを恐れて「申込金を先に預かる」方向に進むと、申込そのものが減ります。返さなければならないお金である以上、預かる意味は薄い。代わりに効くのは、決まるまでの時間を短くすることと、内見の段階で条件を出し切っておくことです。案内に立ち会うかどうかの判断は内見にオーナーは立ち会うべきかにまとめています。
今日やることを1つだけ選ぶなら
管理会社に「申込が入ったら、どの作業をいつ発注していますか」と1回だけ聞いてください。鍵交換と清掃の発注が申込の日に走っている運用なら、そこを契約日の後ろにずらすだけで、キャンセル1件あたりの損が消えます。止められないものを止めようとするより、出ていくお金の順番を変えるほうが早い。
なお、預かり金の返還や契約の成立時期をめぐる個別の判断は、弁護士など専門家、または取引を扱っている宅地建物取引業者にご確認ください。この記事は一般的な整理です。対応エリアは埼玉県、千葉県西部、栃木県南部です。


