ニコイチ(1Kを2部屋つなげるリノベ)は有効か|賃貸オーナーの判断順

結論からお伝えすると、ニコイチ(隣り合う1Kを2戸つなげて1戸にする改修)は「空室を埋める手」ではなく「戸数を1つ減らして、残した1戸の単価を上げる手」です。判断する順番は、①そもそもつなげられる建物か(構造・確認申請・配管) ②減った1戸ぶんを家賃で取り戻せるか ③その広さを借りる人がその地域にいるか——の3つです。①が通らなければ、②と③をどれだけ考えても実行できません。だから①を先に確かめます。

2月の繁忙期が終わり、募集していた1Kの3戸のうち2戸が空いたまま3月に入る。仲介会社に電話をすると、担当者はこう言います。「同じ駅で1Kは20件以上出ています。この広さだと、価格でしか比べてもらえません」。事務所に戻って図面を広げると、空いている2戸は隣どうし。間を仕切っているのは壁1枚です。「ここを抜いて、1戸にできないだろうか」——ニコイチを考えはじめるのは、たいていこの場面です。翌週、建築士に図面を見てもらいました。最初に指をさされたのは壁ではなく、その壁の裏を上下に通っている配管でした。

ニコイチを決める前に確かめる6点をまとめた図。壁が抜けるか、配管の位置、手続きの要否、家賃で取り戻せるか、競合の件数、問い合わせ数の順に並べている

ニコイチで何が変わるのか

ニコイチは、リフォームというより間取りの作り替えです。変わるのは次の点です。

  • 総戸数が1つ減る:10戸のアパートなら9戸になります。空室率の分母が変わります
  • 競合する相手が変わる:1Kの列から抜けて、供給の少ない広さの部屋として並びます
  • 入居者の層が変わる:単身の短期入居から、二人暮らしや在宅で働く人に寄ります
  • 玄関・水回りが2セット残る:どちらを潰すか、片方を納戸にするかを設計で決めます

ニコイチは「誰に貸すか」が決まっていないと形が決まりません。築古アパートは誰に貸すか(入居者層の決め方) を先に読んでください。

つなげられるかどうかは、壁より先に決まっている

間の壁を抜けば1戸になる、という単純な話にはなりません。次の3つのどれかで止まることがあります。

  1. 構造:その壁が建物を支えている壁だと、抜けません。木造でも鉄骨でも、抜ける壁と抜けない壁があります
  2. 配管・配線の位置:壁の中や床下を、上階の排水管や電気の幹線が通っていることがあります。位置を動かせるかどうかで工事の規模が変わります
  3. 手続き:工事の内容によっては、事前の手続きが必要になる場合があります。用途や規模、増築に当たるかどうかで扱いが変わります

ここは自己判断がいちばん危ない場所です。一般的には、主要な構造に及ぶ工事や規模の変わる工事は扱いが変わるとされていますが、実際にどう適用されるかは建物ごと・自治体ごとに違います。確認申請の要否と構造の可否は、必ず建築士にご確認ください。見積りを取るより先です。

なぜ配管の位置が最初の関門になるのか

1Kが2つ並ぶ間取りでは、水回りが背中合わせに配置されていることがあります。つまり、抜きたい壁のいちばん近くに排水と給水が集まっていることになります。上階の排水も、その壁を通って下へ落ちています。動かせるのか、動かさずに設計で逃げるのか。ここで工事の大きさが決まります。図面で分からなければ、点検口を開けて中を見てもらってください。

減った1戸ぶんを、家賃で取り戻せるのか

ここが本題です。戸数が1つ減るので、満室のときの収入は必ず下がる方向から始まります。元の2戸の家賃をA円・B円、つなげたあとの家賃をC円として、自分の数字で確かめてください。C円がA円+B円に届かなければ、満室どうしなら収入は下がります。ですが、比べるべきなのは満室どうしではありません。実際に入っていた月数で比べます。

  • 今のまま:A円×12か月 + B円×(実際に埋まっていた月数)
  • つなげた後:C円×(埋まると見込む月数)

片方が年の半分空いていたなら、この式は近づきます。両方とも埋まっているなら、まず届きません。ニコイチが検討に値するのは前者の状態のときです。埋まらない理由が広さ以外にあるなら、先にそちらを潰したほうが早い。原因の切り分けは 昭和築アパートの空室が埋まらない5つの原因、家賃を触る前の手は 家賃を下げる前に試す4つの手 にまとめています。

あわせて、都合の悪いことも入れておきます。工事のあいだ、その2戸からの収入はゼロです。また、一度つなげた部屋を元の2戸に戻すのは、もう一度同じ規模の工事をすることになります。売却するときに戸数が減っていることをどう見られるかも、あらかじめ仲介会社に聞いておいたほうがよい点です。

1Kのまま2戸で貸す場合とつなげて1戸にする場合を左右で比べた図。左は競合が多く価格で比べられる、右は戸数が減り工事中は収入がゼロになることを示す

その広さを借りる人が、その地域にいるのか

広くすれば決まる、とは限りません。確かめるのは、募集サイトの検索結果です。

  1. 物件のある市区町村で、つなげた後の広さ・間取りに絞って検索する
  2. 出てくる件数を数える:少なければ供給が薄い=勝負しやすい。多ければ、そこにも列があります
  3. 出てきた部屋の家賃の幅を見る。さきほどのC円が、その幅の中に収まるかを確かめる
  4. 仲介会社に「この広さの問い合わせは月に何件ありますか」と聞く

4番目が効きます。数字を持っているのは現場の仲介会社です。

ニコイチより先に見るべき場合もある

建物の残り寿命が短ければ、大きな費用を入れる先はニコイチではありません。判断材料は 築40年のアパートはリフォームか建て替えか に、水回りの形そのものが敬遠されている場合は 3点ユニットの部屋はもう決まらないのか にまとめています。ニコイチは、建物をあと10年以上使う前提が立ってから検討する手です。

まとめ

ニコイチは、うまくはまれば競合の列から抜けられる手です。ただし戸数が減るという確定した損から始まるので、埋まらない理由が「広さ」だと確かめられていない限り、割に合いません。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の昭和築アパートでも、隣り合う1Kが同時に空くことはあります。そのときに慌てて決める話ではありません。

今日やることを1つだけ選ぶなら、図面を持って建築士に「この壁は抜けますか、配管はどこを通っていますか」を聞いてください。抜けないと分かれば、それだけで無駄な検討が消えます。抜けると分かってから、家賃の計算に進めば十分です。構造の可否と確認申請の要否は建築士、税務上の扱いは税理士、売却時の評価は宅建業者に必ずご確認ください。

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