遺言があるかは、法務局に1通の証明書で聞けます|築古アパートを相続する前に踏む3つの順番
結論からお伝えすると、親が残した築古アパートをどうするかを話し合う前に、遺言があるかどうかを確かめる順番があります。法務局に預けられた自筆の遺言であれば、誰でも「保管されているかどうか」を1通の証明書で確かめられます。公正証書遺言なら公証役場で探せます。この2か所を当たらずに遺産分割の話を始めると、後から出てきた1枚で全部やり直しになります。

遺言は、置き場所が3つに分かれている
遺言の方式は民法が決めています。自筆証書遺言は968条1項で、全文・日付・氏名を自書し、印を押すことが要件です。2項で、財産目録だけは自書しなくてよい(ただし毎葉に署名押印)とされています。公正証書遺言は969条で、証人2人以上の立会いと、遺言者が趣旨を公証人に口授することが挙がっています。
探す場所は、この方式に対応して3つです。
- 法務局(法務局における遺言書の保管等に関する法律にもとづいて預けられた自筆証書遺言)
- 公証役場(公正証書遺言)
- 自宅・貸金庫・親族の手元(どこにも預けていない自筆証書遺言)
1と2は制度で照会できますが、3は探すしかありません。そして築古アパートの相続で出てくるのは、この3が多いところです。
法務局に預けてあるかは、1通の証明書で分かる
遺言書保管法10条1項は、「何人も」遺言書保管官に対し、遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無を証明した書面の交付を請求できると定めています。これが遺言書保管事実証明書です。「何人も」という言葉のとおり、相続人でなくても請求できます。
実際に中身を見るのは次の段階で、9条1項の遺言書情報証明書になります。請求できるのは相続人や受遺者などの「関係相続人等」に限られ、9条2項により保管している遺言書保管所以外の遺言書保管所にも請求できます。遠方の法務局に預けられていても、近くの法務局で手続きできるということです。
そして、ここが実務で効きます。9条5項は、遺言書保管官が情報証明書を交付したり閲覧をさせたりしたときは、速やかに、遺言書を保管している旨を遺言者の相続人などに通知するとしています。相続人の1人が動けば、ほかの相続人に法務局から通知が届く仕組みです。黙って進めることはできません。
なお、預けるときの手続きは4条にあり、3項で申請先が「遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所」に限られ、6項で遺言者が自ら出頭して行わなければならないとされています。代理人では預けられません。親が元気なうちにしかできない手続きです。
封を切る前に、家庭裁判所を通す
見つかった遺言書を、その場で開けてはいけません。民法1004条1項は、遺言書の保管者は相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないとしています。3項では、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できないと定めています。
守らないとどうなるか。民法1005条に書いてあります。「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する」。
ただし例外が2つあります。1004条2項により公正証書遺言には検認が要りません。そして遺言書保管法11条が「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない」としています。法務局に預けてあれば検認は不要です。検認が要るのは、自宅などで見つかった自筆の遺言書ということになります。
遺言があっても、登記を入れないと第三者に対抗できない
「アパートは長男に相続させる」と書いた遺言があっても、それだけで安心はできません。民法899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとしています。
2018年の改正でこうなりました。遺言で全部もらうことになっていても、登記が遅れている間に他の相続人の債権者が差押えをすれば、超える部分は負けます。民法1014条2項は、特定財産承継遺言があったときは遺言執行者が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる、としています。遺言執行者が指定されているかどうかで、動ける人が変わります。
もうひとつ、期限のある話として遺留分があります。民法1046条1項で遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できるとされ、1048条で相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年という期間の制限がかかります。遺言があると分かった日から1年は、相続人の全員にとって期限です。

遺言がなかったときに、次に見るもの
探しても出てこなければ、共有の話になります。誰の同意で貸せるのかは相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのか|築古アパートのオーナーが民法252条で分ける3つ、持分をどうするかは共有持分を買い取るかどうかは、相続から10年で使える条文が変わりますを参照してください。借入がある物件なら借入の引き継ぎに、銀行が入らない道はありません、建て直しを含めて考えるなら相続した築古アパートを短期間で立て直す進め方|オーナーが最初の3か月でやることが続きになります。
相続の手続きは、家族の事情や財産の内訳で変わります。一般的には上記のとおりですが、実際の進め方は司法書士・弁護士・税理士にご確認ください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
親御さんに「遺言を法務局に預けてあるか」だけを聞いてください。預けてあれば検認が要らず、相続人へ通知も届きます。預けていないなら、4条6項のとおり本人が法務局へ出向く必要があるので、元気なうちにしかできません。埼玉・千葉県西部・栃木県南部で築古アパートを親名義のまま持っている方は、この1問から始めるのがいちばん早いところです。


