明渡しの判決が出ても、部屋が空くのは執行官の催告から原則1か月後です|築古アパートのオーナーが読む民事執行法168条と168条の2

結論からお伝えすると、建物の明渡しを命じる判決が出ても、大家が自分で鍵を替えたり荷物を運び出したりして部屋を空けることはできません。部屋を空けるのは裁判所の執行官で、民事執行法168条1項は、明渡しの強制執行を「執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法」で行うと定めています。しかも、申し立ててすぐに部屋が空くわけではなく、まず「明渡しの催告」があり、実際に部屋を空ける日はその催告から原則1か月以内に置かれます(168条の2第2項)。大家が押さえておくのは、この1か月の流れと、断行の日に大家か代理人が現場に出なければならないことです(168条3項)。

たとえば、築38年の木造アパートの2階の1室で、家賃の滞納が8か月になり、明渡しの訴えを起こして判決が出たとします。入居者は電話に出ず、郵便受けにはチラシがたまり、夜になると部屋の小窓に明かりがつく。判決書を手にした大家が最初に考えるのは「これで鍵を替えてよいのか」ですが、条文の答えは「いいえ。ここから執行官の手続が始まります」です。その手続が何をどこまでするのかを、順番に整理します。

明渡しの強制執行の5つの段階(申立て・開始日時・明渡しの催告・断行・残った荷物の処理)

判決が出たら、誰に何を申し立てるのですか?

申立先は、物件の所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官です。申立ては書面で行い、申立書に当事者目録・物件目録・執行場所の略図などを付けます。判決や和解調書を使う場合は、判決をした裁判所で執行文を付けてもらう必要があります(裁判所「不動産引渡(明渡)執行」)。判決が裁判所で電子的に作られた場合は、事件番号などの情報を申立書で示せば、正本や送達証明書をそろえなくてよい扱いになっています(同じページの案内)。

埼玉県内の物件なら、さいたま地方裁判所の本庁と、越谷・川越・熊谷の各支部に執行官室があり、「動産執行・明渡し執行の申立て」の窓口になっています。千葉県西部・栃木県南部の物件は、それぞれの地方裁判所の執行官室が窓口です。

  • 費用は予納金です。額は裁判所ごと・申立ての内容ごとに違い、裁判所は「申立先の執行官室に問い合わせてください」としています。収入印紙と切手は原則要りません
  • 予納金は、事件が終わって残額があれば返ってきます。逆に、手続の途中で追加の予納を求められることもあります

なお、滞納家賃の分割払いを公正証書にしていても、それで明渡しの強制執行はできません。その理由は滞納家賃の分割払いを公正証書にしても、強制執行できるのは金銭の支払だけで、明渡しは入りませんに、支払督促も同じく明渡しには使えないことは滞納家賃の支払督促では、部屋の明渡しは求められませんに書いています。

申し立てたあと、部屋が空くまでの流れ

  1. 開始の日時を決める:明渡しの執行には大家(または代理人)の出頭が要るため、執行官は原則として申立てから2週間以内の日を、大家と協議して決めます(裁判所の案内)
  2. 明渡しの催告:その日に執行官が部屋へ行き、入居者が占有していると認められれば、引渡し期限を定めて催告します。期限は催告の日から1か月を経過する日が原則で、執行裁判所の許可があれば、それより後の日にもできます(168条の2第1項・2項)
  3. 公示書の掲示:執行官は、催告をしたこと、引渡し期限、入居者が部屋の占有を移すことを禁じられていることを、公示書などで部屋に掲示します(同条3項)
  4. 断行:引渡し期限までの間に断行の予定日が決められ、通常はその前日までに自分で出るよう促されます。それでも出なければ、予定日に執行官が占有を解き、部屋を大家に引き渡します

引渡し期限は、期限が来る前であれば、執行裁判所の許可を得て延ばすこともできます(同条4項)。1か月は「最短」ではなく「原則」だと考えておく必要があります。

鍵がかかっていたら、どうなりますか?

執行官は、明渡しの強制執行に際して部屋に立ち入り、必要があれば閉まった戸を開くために必要な処分をすることができます(168条4項)。抵抗を受けたときは、威力を用いたり、警察の援助を求めたりすることもできます(6条1項)。入居者も家族もいない部屋に立ち入るときは、市町村の職員や警察官など、証人として相当な人を立ち会わせることになっています(7条)。

見落とされやすいのが、「いま誰が住んでいるのか」を確かめる手段も条文に書かれていることです。執行官は、部屋にいる人に質問したり書類を見せるよう求めたりでき(168条2項)、さらに168条9項が準用する57条5項によって、電気・ガス・水道を供給している事業者に必要な事項の報告を求めることができます。夜だけ明かりがつく部屋に、本当に判決の相手が住んでいるのかは、こうして確かめられます。

催告のあとに、別の人が住みついたら?

明渡しの催告があると、入居者は大家に明け渡す場合を除いて、部屋の占有を人に移してはならなくなります(168条の2第5項)。それでも催告のあとに別の人が入り込んだときは、引渡し期限が過ぎるまでは、その人に対しても同じ申立てで強制執行ができます(同条6項)。催告のあとに入った人は、催告があったことを知って入ったものと推定されます(同条8項)。

逆に、催告より前に部屋の中の人が入れ替わっていると、話が変わります。判決に書かれていない人を相手に執行するには、その人が入居者の承継人であることなどを示して執行文をもらう必要があり(27条2項)、それが難しい場面に備える仕組みとして、民事保全法の占有移転禁止の仮処分があります(27条3項1号が名前を挙げています)。どちらを使うかは事案で変わるため、弁護士に相談して決めてください。

明渡しの催告の前と後で、部屋の中の人が入れ替わったときの扱いのちがい

部屋に残った荷物は、誰がどうするのですか?

断行の日に部屋に残っている家具や衣類は、明渡しの目的物ではない動産(目的外動産)として扱われます。168条5項は、執行官がこれを取り除いて、入居者本人や同居の親族などに引き渡すとし、引き渡せないときは執行官が売却できると定めています。売れなかったものは執行官が保管し(同条6項)、売却したときは、売れたお金から売却と保管の費用を引いた残りが供託されます(同条8項)。

大家が判決を理由に荷物を自分で処分してよい、という条文ではありません。退去後の荷物の扱いは退去後の残置物はオーナーが捨てていいのか、滞納家賃の担保として荷物を止め置けるかは滞納した入居者の荷物は、家賃を払うまで止め置くことはできませんに整理しています。

都合の悪いことも書いておきます

  • 費用は大家が先に出します。執行費用は債務者の負担とされていますが(42条1項)、手続の費用は予納金として申立人が先に納めます。荷物の保管の費用も執行費用です(168条7項)。家賃を払えなかった入居者から後で取り返せるとは限りません。強制執行まで進んだときの費用の大きさは、調査の数字を連帯保証人の保証が切れる3つの場面で紹介しています
  • 時間もかかります。判決を得るまでの期間に加えて、申立てから開始まで原則2週間、催告から断行まで原則1か月です。その間も部屋は空きません
  • 一般的には、判決があっても大家が自分の手で鍵を替えたり荷物を運び出したりすることは認められないとされ、かえって損害賠償を求められるおそれがあります。手続の選び方と進め方は、弁護士に相談してください

こうした費用と時間を考えると、強制執行の手前で、話し合いでの退去を目指す選択肢も残しておく価値があります。滞納が起きた直後の動き方は家賃滞納の対応は最初の1週間で決まるにまとめています。

今日やることを1つだけ選ぶなら

明渡しの訴えを考えている部屋があるなら、物件の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に電話し、「明渡し執行の予納金の目安」と「断行の日に荷物を運び出す作業員や車を誰が手配するのか」を聞いてください。判決が出てからでも、部屋が空くまでには原則で1か月半ほどかかります。訴えを起こす前に費用と段取りを知っておけば、話し合いでの退去を提案するときの判断材料にもなります。

出典

  • 民事執行法6条・7条・27条・42条・57条・168条・168条の2(e-Gov 法令検索・2026年10月15日時点)
  • 裁判所「不動産引渡(明渡)執行」(2026年10月15日閲覧)
  • さいたま地方裁判所「埼玉県の裁判所の窓口」(2026年10月15日閲覧)

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