入居中に設備が壊れたとき、どこまで急ぐのか|築古アパートのオーナーが連絡の日から数える3つの期限
結論からお伝えすると、入居中の設備故障をどこまで急ぐかは、壊れた物の値段では決まりません。入居者から連絡が入った日から、3つの時計が同時に動き出します。この3つのうちどれが先に鳴るかで、急ぐ順番が決まります。
電話は「エアコンが効きません」「お湯が出ません」「換気扇が回りません」と、いつも同じ調子で入ってきます。金額はどれも数万円です。それでも、放っておいたときにオーナーの側に返ってくるものは、まったく違います。

連絡が届いた日から、3つの時計が動き出す
民法は、修繕の話を「誰が直すか」だけでなく「いつまでに直すか」で組み立てています。
相当の期間を過ぎると、入居者が自分で直せる
民法607条の2は、こう定めています。
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
そして民法608条1項は、賃借人が貸主の負担に属する必要費を支出したときは「直ちにその償還を請求することができる」としています。
ここがいちばん実務に効きます。相当の期間を過ぎると、業者を選ぶのも、金額を決めるのも、入居者の側になります。オーナーは、自分が知らない会社が出した請求書を後から払う立場になります。3社に見積を取って安いところに頼む、という選択肢が消えるわけです。
家賃は「協議して下げる」ものではなく、条件がそろえば減る
民法611条1項は、賃借物の一部が使用及び収益をすることができなくなり、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額されると定めています。「減額することができる」ではなく「減額される」という書き方です。
直さないまま損害が出れば賠償、通知が遅れた損害は入居者側
国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」は、この点を両側から書いています。貸主は修繕義務(606条1項)を履行しないことで借主に損害が生じた場合に賠償責任を負うことがあり得る。一方で借主にも修繕を要する箇所を発見したら遅滞なく通知する義務(615条)があり、通知が遅れたことで貸主に損害が生じたときには賠償責任を負うことがあり得る。どちらも民法415条1項です。
だから、受けた連絡は日付と時刻ごと残します。敷金の精算で揉めるのが金額より書き方だったのと同じで、ここも記録の形で決まります(敷金の精算書で揉めるのは金額より書き方)。
家賃は、どこから減るのですか?
「壊れたら自動で減る」と読むと、行き過ぎます。国交省の相談対応研究会は、611条1項の「使用及び収益をすることができなくなった場合」を、賃貸住宅について次のように解釈しています。
物件の物理的な破損だけではなく、設備の機能的な不具合等による場合も含めて、物件の一部が使用できず、その一部使用不能の程度が、社会通念上の受忍限度を超えており、通常の居住ができなくなった場合
実際の判例も、この線で分かれています。同じ事例集がまとめている判例の動向では、雨漏り、漏水やカビ、排水管の閉塞、窓の破損、換気扇の不具合や便器の故障による汚水の漏れでは減額が認められている一方、エアコンの不具合や備品の軽微な不具合、照明器具や換気扇の故障については、修繕費用が軽微であること、一部不能とまではいえないこと等を理由に減額が否定されています。
では実務はいくらで動いているのか。同じ事例集に、全国の相談窓口から集めた実例が並んでいます。埼玉県の事例では、風呂が使えない件で「修繕完了まで30日・月額の50%」と「10日・50%」、水が出ない件で「1〜3日・0〜10%」。京都府では風呂の事例で「2〜3日・銭湯代」、熊本県では「30日・100%」。日数が同じでも割合が10%から100%までばらけており、相場と呼べる数字は存在しません。
もうひとつ、同じ調査で出ている数字があります。一部使用不能のトラブルで賃料の減額やそれに相当するお詫び金の提供等を行っている者は12.3%。つまり大半は減額していません。減額しないことが普通だから安心、という話ではなく、やり方が決まっていない領域だから、決めた人が有利になるということです。

急ぐ順番は、金額ではなく「止まっているもの」で決める
3つの時計を踏まえると、順番はこうなります。
- 居住そのものが止まっているもの……水、湯、トイレ、鍵、電気、ガス。ここは「急迫の事情」と読まれる余地が大きく、減額も通りやすい層です
- 季節で層が変わるもの……エアコン。判例では軽微とされた例がある一方、真夏は話が別になります(真夏にエアコンが壊れた連絡が来たら)
- 居住は続けられるもの……照明器具、換気扇、網戸。急ぎませんが、放置の記録が残ると別の話になります(照明器具は付けるか、入居者に任せるか)
そして、順番より先に確かめることがあります。民法606条1項はただし書で「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」としています。詰まり、凍結、使い方による破損は、そもそも貸主の修繕義務ではない可能性があります。だから切り分けだけは、直すより先に急ぐ。水回りなら、メーターの前後で負担が分かれます(敷地内の水道管は誰が直すのか)。修理か交換かの分かれ目は設備が壊れた連絡が入ったらにまとめています。
費用は、季節でも動きます
金額の目安を置いておきます。賃貸の原状回復と設備工事を専門にしている「大家さんの内装屋」の設備工事の料金表では、換気扇の交換がプロペラ式で24,800円〜(税込27,280円〜)、天井埋込式で34,800円〜(税込38,280円〜)。キッチンのシングルレバー水栓(壁付け)が25,800円〜(税込28,380円〜)です。換気扇の2つは、設備の撤去・処分・材料込みの表示です。
エアコンは6畳用(2.2kW)が本体+標準取付工事で69,980円〜(税込76,978円〜)。ただし7月から9月のピークシーズンは75,980円〜(税込83,578円〜)と別価格になっています。同じ工事でも、混む時期は6,000円上がる。これは、急ぐかどうかを季節で判断せざるを得ない現実がそのまま値段に出ているということです。
なお、これらは業者価格です。大家さんが単発で個別に頼む一般消費者価格は、ここから2〜3割上とお考えください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
設備の連絡を受けるときのメモに、欄を3つ足してください。受けた日時/止まっている機能/いつから。この3つがあれば、相当の期間の起点も、減額の対象になる層かどうかも、あとから説明できます。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の物件で、電話を受ける人が自分ひとりなら、なおさら紙に落としておく値打ちがあります。
設備の入れ替え時期そのものを決めておきたい方は給湯器とエアコンはいつ交換するかを、修繕の判断を専門家に渡す線引きは昭和のアパートで分電盤と漏電をいつ点検するかをご覧ください。個別の事案で減額の可否や金額が争いになりそうなときは、弁護士や宅地建物取引士にご相談ください。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第606条・第607条の2・第608条・第611条・第615条/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(2026年8月25日時点)
- 賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について~」(平成30年3月)/国土交通省 https://www.mlit.go.jp/common/001230068.pdf
- 設備工事の料金:大家さんの内装屋「設備工事」https://owners-interior.com/pricelist/pricetable2/(2026年8月25日時点・税抜/税込併記)


