築古アパートのキッチンは替えずに印象を変えられるか|オーナーが1階と最上階で分けて決める順番
結論からお伝えすると、キッチンは丸ごと替えなくても印象は変えられます。ただし、ひとつだけ順番を先にしてほしいものがあります。コンロの前の壁と天井だけは、その部屋が何階にあるかで、選べる材料が変わります。ここを知らずに「とりあえず壁紙を貼り替えよう」と決めると、あとで直しになることがあります。
築40年、木造2階建てのアパート。1階の1Kが空きました。流し台はステンレスが曇り、扉の面材が下のほうで浮いて反っています。コンロの横のクロスだけ、油で黄色く変わっている。内見に来た人は、部屋に入って3秒でここを見ます。

丸ごと替えると、どこから始まる金額なのか
先に、交換した場合の入口を置いておきます。キッチン交換の費用相場は50〜150万円と紹介されています。内訳は、工事費を除いたキッチン本体が50〜150万円、施工費用が25〜35万円、床の貼り直しや壁の修繕といった内装の補修が3〜25万円です(出典:リショップナビ「キッチン交換の費用相場は?費用を安くするポイントを徹底解説」2025年12月15日更新)。
これは一般のご自宅のリフォームを想定した数字です。賃貸の1Kであればもっと下から選べますが、それでも「数万円で終わる工事」ではありません。1室の家賃が5万円の部屋で、回収に何か月かかるかを先に置いてから考えるところです。
替えずに触れるところの金額
比較のために、部品単位の金額を並べます。以下は大家さんの内装屋の料金表の数字です(税抜〜/設備撤去・処分・材料込み)。
- キッチンのシングルレバー水栓(壁付け)25,800円〜(税込28,380円〜)
- キッチンのシングルレバー水栓(デッキ型・ワンホール)37,800円〜(税込41,580円〜)
- 換気扇(プロペラ・15〜25cm・非金属製)24,800円〜(税込27,280円〜)/金属製(キッチンフード内)のものは21,000円〜(税別)
- 換気扇(天井埋込式)34,800円〜(税込38,280円〜)
壁付けとデッキ型で1万2千円の差があります。「水栓交換」と一括りに聞くと同じ工事に見えますが、穴の位置と数が違うので別の工事です。見積を取るときは、いま付いているのがどちらかを写真で伝えると、この段が正しく出ます。
なお、この料金表の数字は業者価格かそれ以下です。大家さんが単発で1件だけ頼む一般消費者価格は、ここから2〜3割ほど上と考えてください。
コンロの前の壁は、好きな材料に替えていいのでしょうか
ここが今日いちばんお伝えしたいところです。台所は、建築基準法で内装の材料が決められている部屋のひとつです。
根拠は建築基準法35条の2です。「建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたもの」について、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならないと書かれています。
対象になるのは「最上階以外の階」です
どの部屋が対象になるかは、建築基準法施行令128条の4第4項が決めています。読みにくい条文ですが、住宅について書かれている部分を取り出すと、こうなります。
階数が二以上の住宅(中略)の用途に供する建築物(特定主要構造部を耐火構造としたものを除く。)の最上階以外の階(中略)に存する調理室(中略)その他の室でかまど、こんろ(中略)その他火を使用する設備又は器具を設けたもの
つまり、木造や軽量鉄骨の2階建てアパートであれば、1階の部屋の台所は内装制限がかかり、2階(最上階)の部屋の台所はかからないという読み方になります。同じ建物の同じ間取りでも、階で扱いが分かれます。耐火構造の建物は、はじめから除かれています。
対象になった部屋がどうなるかは、同じ施行令の128条の5第6項です。「内装の制限を受ける調理室等は、その壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを第一項第二号に掲げる仕上げとしなければならない」——この第1項第2号が準不燃材料です。
「腰から下は関係ない」とは書かれていません
内装制限の話でよく出るのが「床から1.2メートル以下は対象外」という説明です。この1.2メートルは施行令128条の5第1項に出てきますが、条文には「(床面からの高さが一・二メートル以下の部分を除く。第四項において同じ。)」と書かれています。第1項と第4項について書かれた除外であって、調理室の第6項にその文言はありません。
この読み方が自分の建物に当てはまるかどうかは、建築士か自治体の建築指導課に確認してください。この記事では判定をしません。
「コンロまわりだけ不燃にすればいい」の緩和は、アパートには使えません
キッチンの内装制限を調べると、必ず出てくるのが平成21年国土交通省告示第225号です。火を使う設備の周りだけ強化して、それ以外は木材や難燃材料でよいとした告示で、平成21年4月1日から施行されています。
ところが、国土交通省がこの告示について出している解説には、適用対象がこう書かれています。
一戸建て住宅における火気使用室に限る。
共同住宅の住戸は入っていません。アパートの1階の台所で「コンロの周りだけ不燃にすればよい」という話は、この告示からは出てきません。しかも同じ解説には、一戸建てであっても住宅以外の用途の部分が大きい兼用住宅と無窓居室を有する住宅は対象外、とも書かれています(出典:国土交通省「準不燃材料でした内装の仕上げに準ずる仕上げを定める告示」)。
条文番号がずれています
この国土交通省の解説ページと告示本文は、根拠を「令第129条第1項第二号ロ」「令第129条第6項」と書いています。ところが、いまのe-Gov法令検索で施行令129条を開くと、そこにあるのは「避難上の安全の検証を行う建築物の階に対する基準の適用」という別の条文です。同じ内容は128条の5にあります。
資料が間違っているのではなく、条文番号だけが動いています。調べものをして条文番号が合わないときは、まず現行の条文を確認してください。この記事では現行の番号(128条の5)で書いています。

これは建築確認の場面の基準です
ここまでの話は、建物を建てるとき・確認申請をするときの基準です。いま壁に貼ってあるものが、この記事を読んだ瞬間から違反になる、という話ではありません。築古の建物には、建てた当時の基準で建てられ、そのまま使われているものがあります。
ただ、「これから貼り替えるとき、どちらの部屋か」は知っておいて損がありません。1階の部屋で、コンロ前の壁に木の板やクッションフロアを立ち上げようという案が出たときに、一度立ち止まれます。判断は建築士・特定行政庁に渡してください。
流し台は5年で残存価値1円になります
もうひとつ、交換の判断に効く数字があります。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の主な設備の耐用年数で、流し台は耐用年数5年に区分されています(エアコン・インターホンは6年、便器・洗面台等の給排水衛生設備は15年)。
耐用年数を過ぎた設備は残存価値1円として扱われるので、築古の流し台の交換費用を、退去した入居者に負担してもらうという形にはなりません。壊れているかどうかにかかわらず、キッチンの更新はオーナー側の投資判断になります。設備が壊れたときに修理と交換をどう分けるかは設備が壊れた連絡が入ったら|賃貸オーナーが修理と交換を分ける判断ラインにまとめています。
替えずに印象を変える、5つの手
- 水栓を替える。触るところなので、古さがいちばん伝わる部品です。壁付けなら25,800円〜(業者価格・税抜)
- 換気扇を替える。音と油汚れは内見中ずっと残ります。回してもらうと差が分かります
- 扉の面材にシートを貼る。本体はそのままで、見える面だけ変えます。反りや浮きがある扉は、貼る前に下地を平らにする手間が要ります
- 取っ手を替える。いちばん安く、いちばん「新しくした感じ」が出ます
- 壁の仕上げを直す。ただし1階の部屋は、上に書いた内装制限の確認が先です
1〜4は部品の交換なので、内装制限の話には入りません。順番に迷ったら、まず1〜4を片付けて、5を建築士に相談する形にすると止まりません。水回り全体をどこまで直すかの順番は築古アパートの水回りはどこまで直すか|オーナーが洗面・便器・シンクを直す順番と金額が変わる分かれ目、壁紙を全面替えるか一面かの決め方はクロスは全面か一面か|築古アパートのオーナーが張り替え範囲を決める順番と入居者に請求できる範囲にあります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
空いている部屋が1階か最上階かを確認して、メモに書いてください。それだけで、次に見積を頼むときの話が変わります。1階なら「コンロ前の壁の仕上げについて、内装制限の確認をお願いします」と一行添える。それだけで、工事のあとに直しが出る確率が下がります。
費用をかける順番を全体で決めたいときは家賃を下げる前に試す4つの手|築古アパートのオーナーが順番に確かめること、和室そのものを洋室に変えるかどうかは和室を洋室に変えるか|築古アパートのオーナーが費用と埋まりやすさを判断する順番をあわせてご覧ください。


