軒天の張り替え材は、準防火地域だと自由に選べません|築古アパートのオーナーが先に測る3メートルと5メートル

結論からお伝えすると、軒天(軒の裏側の板)は、建築基準法が「防火構造」の対象として名前を出している数少ない部位です。法2条8号は防火構造を「建築物の外壁又は軒裏の構造のうち」と定義しています。準防火地域にある木造2階建て・延べ500平方メートル以下のアパートなら、延焼のおそれのある部分の外壁と軒裏は防火構造にするのが基準です(建築基準法施行令136条の2第3号イ)。一方、防火地域・準防火地域の外で指定される「法22条区域」の外壁の規定(法23条)には、軒裏という言葉が入っていません。張り替えの材料を選ぶ前に、地域と、軒が境界線から何メートルにあるかを先に確かめてください。

外壁の塗り替えの見積りに、1行だけ足されていました。「軒天張り替え(雨染み・たわみ部)一式」。2階の軒を見上げると、雨樋の下あたりの板が茶色く波打ち、継ぎ目が指1本ぶん垂れ下がっています。材料の欄には何も書かれていません。この「何で張るか」が空欄のまま進むと、地域によっては、建てたときの基準から外れた軒が1本できあがります。

軒裏に防火構造の基準がかかる3つの場面(準防火地域の木造、延べ1,000平方メートル超の木造、法22条区域)をまとめた図

軒天は、法律が名前を出している部位です

建築基準法2条8号は、防火構造を次のように定めています。

  • 防火構造…建築物の外壁又は軒裏の構造のうち、防火性能(建築物の周囲において発生する通常の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要とされる性能)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄網モルタル塗、しつくい塗その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの

その技術的基準が施行令108条です。外壁と軒裏は、周囲の火事の熱を受けてから30分間、屋内側の面が可燃物の燃える温度まで上がらないこと(同条2号)。軒天は、隣の家から上がった炎が屋根裏へ回り込む入口になるため、壁と並べて扱われています。

軒天が傷んだときのサイン(茶色いシミ・めくれ・たわみ)と、外まわりの工事の順番は外壁と屋根の修繕を後回しにすると何が起きるかに、雨樋からあふれた水が軒を傷める流れはアパートの雨樋の詰まりを放置すると何が起きるかにまとめています。

どの地域で、軒裏に基準がかかるのか

木造のアパートで軒裏が問題になるのは、主に次の3つです。

  • 準防火地域…地階を除く階数が2以下で延べ面積500平方メートル以下の木造建築物等は、外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を施行令108条の基準(防火構造)に(施行令136条の2第3号イ)
  • 延べ面積1,000平方メートルを超える木造建築物等…地域を問わず、外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造に(法25条)
  • 法22条区域(防火地域・準防火地域以外で特定行政庁が指定する市街地)…木造建築物等の外壁で延焼のおそれのある部分を準防火性能に(法23条)。屋根は法22条の基準

法22条区域なら、軒天は何で張ってもよいのですか?

条文の上では、法23条が求めているのは外壁だけで、軒裏は書かれていません。準防火性能の基準(施行令109条の10)も外壁についての定めです。ただし、それで「どの材料でもよい」とまでは言い切れません。建てたときに防火構造の仕様で確認を受けている建物もあり、条例で上乗せしている自治体もあり得ます。確認済証と、そのときの図面の仕上表を先に見てください。分からなければ、物件のある市の建築指導の担当課に、地域と建物の条件を伝えて確かめるのが確実です。

「延焼のおそれのある部分」は、境界線からの距離で決まります

法2条6号は、延焼のおそれのある部分を、隣地境界線・道路中心線・同じ敷地にある2つ以上の建物の外壁間の中心線から、1階は3メートル以下、2階以上は5メートル以下の距離にある部分としています(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建物どうしは1つの建物とみなす)。

  1. 配置図を出す…敷地の境界線と、前面道路の幅が書かれているもの
  2. 道路は「中心線」から測る…道路の端からではありません。幅4メートルの道路で、道路の端から建物まで1メートルなら、中心線からは3メートルです
  3. 2階の軒は5メートル…アパートの軒天の多くは2階の高さにあるので、5メートルの線で見ます
  4. 線の内側に入った軒に色を付ける…住宅が建て込んだ場所では、建物のほぼ全周が入ることも珍しくありません

境界がはっきりしない敷地では、この線そのものが引けません。同じ線が窓の交換で問題になる話は準防火地域の窓は、普通のサッシに替えられないことがありますに書いています。軒天と窓を同じ足場で直すなら、線は1回引けば足ります。

張り替えは確認申請が要らなくても、基準は外れません

軒天の張り替えで建築確認が要ることは、まずありません。法2条5号の「主要構造部」は壁・柱・床・はり・屋根・階段で、ひさしなどは除かれています。軒天の張り替えは主要構造部の過半の修繕(大規模の修繕)には当たらないのが通常です。確認が要る工事の線引きは木造2階建てのアパートは面積を問わず建築確認の対象ですを見てください。

ただ、確認が要らないことと、何を使ってもよいことは別の話です。もともと防火構造として建てた軒裏を、燃えやすい板に張り替えれば、その部分は基準に合わない状態になります。見積りの材料欄に、次のどちらかを書いてもらってください。

  • 国土交通大臣が定めた構造方法(告示の仕様)に当たる材料と厚さ
  • 国土交通大臣の認定を受けた製品であれば、その認定番号

もう1つ、古い軒天の板には石綿を含むものがあります。はがして張り替える工事は、着工前の事前調査の対象です。請負金額によっては報告も要ります。詳しくは改修工事も100万円を超えると石綿の報告が要りますにまとめています。

軒天を張り替える前に確かめる5つの手順(地域、境界と道路中心線、5メートルの線、色付け、材料欄)の図

都合の悪いことも書いておきます

「この軒は延焼のおそれのある部分か」は、図面と現地の境界次第で答えが変わります。この記事で建物ごとの判定はできません。判定が要るときは建築士に配置図を見てもらってください。また、防火構造の仕様にした張り替えは、ふつうの化粧合板で張るより材料が限られ、費用も上がることがあります。雨染みの原因(雨樋のあふれ・屋根からの浸水)を直さずに板だけ替えると、同じ場所がまた波打ちます。板を替える前に、水がどこから来ているかを先に止めてください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

物件のある市の都市計画情報で、その土地が「防火地域」「準防火地域」「法22条区域」のどれに入っているかを確かめてください。準防火地域なら、配置図の境界線と道路中心線から5メートルの線を引き、その内側の軒天だけは、見積りの材料欄を空欄のまま進めないでください。

出典

  • 建築基準法2条5号・6号・8号、22条、23条、25条、61条(e-Gov 法令API・2026年9月26日時点)
  • 建築基準法施行令108条、109条の10、136条の2(e-Gov 法令API・2026年9月26日時点)

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